第129話 そして奴が来た

 四人の清明派陰陽師が正座して土下座をしていた。


 みのりが謡を止めると、天に赤い光珠、地に黄色い光珠が帰っていった。

 わあっと野次馬の人が一斉に拍手をしてくれた。


『よくやったタカシ!』

『そうか[浄化]だからこういう方向の権能でもあるのか』

『各地に封じた大物妖魔を倒し放題だな』


 やだよ、そんなの面倒臭い。


 車から傷ついた陰陽師さんがふらふらと陸橋に上がって来た。


「朱雀……」

「『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪』」


 みのりが【回復の歌】を歌うと朱雀と呼ばれた陰陽師の体から煙が出て傷が治っていく。


「ありがとうございます、みのりさん」

「なんのなんのっ」


 朱雀さんは俺の前でひざまずいて頭を下げた。


「白虎たちを助けて頂いて、本当に感謝します……」

「送ってやろうとしたらさ、『浦波』が『暁』を止めたんだ、カマドさんの意思かもしれない、だから礼を言うには及ばないよ」

「カマドさまが……、そう、ですか……」

「白虎に聞きたい、鬼人の肉はもう無いって乃木先生が言ってた、どうやって手に入れたんだ?」

「外人が……、『陰陽師の宝をタカシが盗もうとしてます、それで良いんですか』と言って、くれました……」


 麒麟が顔を上げた。


「怪しかったんですけど、その、戦争で無くなった山本家の遺産だと言われて、それで……」

「空襲で無くなった分家筋の名前を出してきたので、鬼人の肉も言い伝え通りの形でしたし……」


 陰陽師関係に詳しい外人か。


「あー、なるほどなるほど♡」

「なにか思い当たる事があるのか、サッチャン」

「まあ、大体、裏で糸を引いている勢力が解りましたが、タカシくんには教えてあげません♡」

「なんだよ、教えろようっ」


 鏡子ねえさんが言うが、サッチャンは笑って答えない。

 まったく、悪魔って奴は……。


「タカシくんが『浦波』を見つけたって聞いて、居ても立っても居られなくて、『暁』よりもずっとずっと、我々にとっては大事な退魔武具で……」

「本当に申し訳ありませんっ!」


 朱雀さんが頭を下げると、四人の陰陽師は一斉に頭を下げた。

 謝って欲しいわけではないのだけどなあ。


「権田権八に注射をした奴と一緒かな、タカシ」

「たぶん、罪獣を発生させる手段を持っている奴がいるな」


 外国の退魔組織の残党かな。

 日本の退魔武具を奪いたかったのか?


「タカシさん、お詫びにもなりませんが、これを」


 朱雀が懐から『彩雲』を取り出して地面に置いた。

 うーん。


「収奪戦じゃなかったから良いよ、白虎が使えよ」

「それでは、それではあまりにも申し訳なくっ!」


 白虎が泣きながら訴える。

 そう言われてもなあ。

 貰って越谷さんにあげるか?

 あそこにもフツノミタマの武具が二つ、あと歌女が居れば『大神降ろし』できるようになるし。

 でもなあ。


「いらねえならくれよ」


 ダキューン!


 銃声と共に『彩雲』が宙を飛び、野次馬の中にいた伊達男の手に渡った。


「マイケル・ラプラトン」

「いらねえなら貰うぜ~、ひゅーっ、あとだ、『暁』と『金時の籠手』もくれよ」

「強欲だな、罪獣になっちまうぜ」

「あはは、良い男はなあ、欲張りぐらいの方が良いんだぜぇ、タカシボーイ」


 マイケルは野次馬をかき分けて前に出て来た。


「返せっ!! それはタカシ君に渡すものだっ!!」

「うるせえっ! 負け犬は黙ってろっ、白虎ボーイ!」


 ……。

 え、こいつ……。


「なんだ、この威圧感は……」

「おー、おー、お前、クラスチェンジしてきたなっ!」


 鏡子ねえさんが笑顔で『金時の籠手』をガチンと打ち鳴らした。

 籠手の変形は元に戻っている。


「おうよ、『剣士ソードマン』に戻したぜえっ、それでな、そいつらの言う外人の話は全部嘘だっ、ヒュー、だまされたな、陰陽師たち」

「なんでだっ!! 外人のお前に何が解るというんだっ!!」

「昨日なあっ、奈良に行ってな、買ってきたからだ、山本家から、フツノミタマ付きの大剣をなあっ!」


 そう言うとマイケルは背中から大剣を抜いた。

 きらめくような赤金色の両手剣だった。


「ば、馬鹿なっ! それは山本家に伝わっていた『十柄』、空襲で空襲で焼けたって!!」

「ははっ、山本家の奴はなあ、奈良の田舎に逃げて隠れてたんだよっ、でなあ、一兆円で買ってきたぜえっ!」

「『十柄』に付いているフツノミタマは『スサノオノミコト』、表権能は『草薙』……」


 応竜が震えながら、そう言った。


「その通り、タカシの持ってる『暁』と、ヤクザの持ってる『宵闇』、そしてこの『十柄』で、日本の三貴神が揃うってことよ、ヒューッ、この『ホワッツマイケル』の手の中になあっ」


 サッチャンがくつくつ笑った。


「ああ、ついに真打ち登場ね、楽しいわ♡」


 くそ、悪魔は脳天気だなっ。


「さあ、収奪戦、だったけか、を始めようぜえっ! 俺が賭けるのは『十柄』とこの魔銃、おまえらが賭けるのは『暁』と『金時の籠手』だっ、いやとはいわねえよなあっ!!」

「釣り合いが取れてないぞ」

「ああ、そうだなっ、今なあ、ここに『ホワッツマイケル』の八人が居る、だけど、全員で掛かっちゃあ、勝負にならねえな、なんで、こっちは二人、おまえらは四人だ、それでどうだ?」


 野次馬の中から、レベルの高そうな外人が六人現れた。

 あと一人は?


「あれ、エリベルトは?」

『なんか遅れるって、ねえ、マイケル、もうやめない? タカシに悪いし』

『うるせーキャシー、こういう勢いのある若手パーティは早めに叩いて置かなきゃ駄目なんだっ』


 キャシーは肩をすくめて、こちらを見てちょっと頭を下げた。


「二人目は?」

「とうぜん、みのりん対策で、マリア・カマチョだっ!!」


 オーラのある美人のお姉さんが前に出て来た。


『ぎゃあ、世界的な歌姫キター!!』

『カマチョ、カマチョ!!』

『うわあああ、本物だ~~~~!!』


『あの、私が謡をはじめたら、カマチョさんが呪歌掛け放題なのですけれど、それは……』

「え? あ……」

「みのり、謡無しだ、『大神降ろし』無しで戦う」

「え、いや、それは困るよ、大神降ろしの起動実験で持って来たんだよ、ほら、クラスチェンジしてまでさあ」

『謡、始まったら……、見てる……』

『そ、そうですか、初めましてみのりです、いつもカマチョさんのお歌は拝見しております』

『ありがと……、うれしい……』


 わりと口が重い人っぽいな、カマチョさん。


 ねえさんが寄ってきた。


「どうする?」

「やり合うのみ、世界一をたおーすっ!!」


 脳天気だなあ、ねえさんは。


 しかし、『剣士ソードマン』に戻したマイケルの威圧感は半端な物ではない。


「二人か、痛いところを突いてきたね」

「『大神降ろし』を掛ければ、実質的に三対一だが……」

「剣士マイケルは凄く強いね」

「俺とねえさんの二人がかりでなんとかって所だ」

「まったく、ピンチばっかりだね」


 まったくだ。



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