第97話 『暁』の権能、『宵闇』の権能

 カンカンカーンと音がフロアボスフィールドを支配した。

 夢の中に出てくる響きすぎる音の空間のようだ。


[執行者確認せり、神力微弱、魔道力大、執行階位初段]


 なんだこれは、流れている音声は俺だけに聞こえているようだ。

 迷宮の魔力とは別系統の術式のような気がする。

 陰陽道なのか?


[問う、汝は神降ろしを望むか]


 権田権八を倒せるならば、何でも欲しい。


[是と判断す、執行補助者走査、『歌女』確認、かの者の力を借りるか否か]


 みのりにどこからか光が当たる。

 彼女はどぎまぎしている。

 なんだろう、時間がゆっくりなのか、俺とみのり以外の動きも声も無い。


「みのり、力を貸してくれ!」

「わ、わかったよ、タカシくん!」


[是と判断す、最小起動要素確定、『歌女』神力自動執行]


「あれ、あれ?」


 みのりがリュートを弾き始めた。

 和風っぽい曲だ。


「『ひふみよいむなやこともちろらねしきるゆゐつわぬ

そをたはくめかうおえにさりへて~♪』」


 みのりは歌を歌い始めた。

 歌詞が良くわからないが、なにか古い物のような気がする。


[『暁』に畏くもアマテラス大御神、『宵闇』に畏くもツクヨミ大御神、古のやくそくにのっとり降りたもうねがいまする]


 上の方から恐ろしい威圧感のある存在が二つ、ゆっくり降りてきた。

 『暁』には赤い珠。

 『宵闇』には青い珠が乗り移った。


[大神おろし発現、権能発動す]


 どうん! 一気に音と時間が戻って来た。

 そして両手のマタギナガサに恐ろしい力が宿ったのを感じる。


「なんなんでしゅかっ!! 時間を止めてパワーアップをしても僕にはかないましぇんよっ!! まだヒットポイントは半分も減ってましぇんっ!! 人の手でたおしぇる存在では無いのでしゅっ!! 僕は新しい神なのでしゅから!!」

「お前なんか神じゃないぞ」

「僕が神でしゅっ!! くらいなしゃい、【溶解酸アシッドブレス】!!」


 赤黒いブレスが俺に向けて殺到してくる。


「本当の神は、俺の両手に居る」


 俺は『宵闇』を振った。


 バキュウウウリムッ!!


 【溶解酸アシッドブレス】、そして権田権八の胴体の口、両腕が[消滅]した。


「ツクヨミの権能[消滅]」

「ぎやあああっ!! 何をしたでしゅかっ!! 何をするでしゅかっ!」


 俺は『宵闇』を振るって権田権八の巨体をどんどん[消滅]させていく。

 悪いな、何をやってるのかは、俺にもちょっと解らない。

 解るのは『宵闇』の切っ先が当たる辺りの物や空間を[消滅]させていくという事実だけだ。


「あがががっ!! 【回避】スキルが、【受け流し】スキルが、【斬撃耐性】スキルが、き、ききましぇんっ!!」

「なんか、系統が違うからスキルは無効みたいだぞ?」

「卑劣でしゅっ!! どんなチートでしゅかっ!!」

「さあ?」


 俺の修行で出した物じゃないからな。


『なんだ、このでたらめはっ!!』

『これが退魔刀の本当の力なのか、雷電!!』

『ま、まだ一本目の権能しか使ってねえ、なんだ、これ?』

『伝説の聖剣みたいなぶっ壊れ性能だっ!!』


 みのりは依然として和風の歌を歌い続けている。

 あの歌が術式の大事な要素のような気がする。

 対魔剣が二つ、それと『執行者』と『歌女』で最小の術式単位のようだな。


 権田権八が焦りの色を浮かべて、こちらに触手を何本も打ち込んでくる。

 俺は『宵闇』でそれを消滅させていき、さらに踏み込んでいく。

 軟体であろうと、レア甲冑装備だろうと、すべてを軽々と[消滅]させる事ができる。


「すげえでやすね、タカシさん……」

「あれが退魔刀の本来の力でござろうか……」


 どんどん権田権八の巨体を削っていく。

 象のように大きかったその姿は、今は牛程度の大きさになった。


「やめてくだしゃいっ、た、助けてくだしゃいっ!!」

「ごめん、無理だわ」


 俺は右手の『暁』を構えた。

 とどめはこっちのような気がする。

 おっとそう言えば。


「【オカン乱入】」


 光の柱からかーちゃんが現れた。


「よっしゃあ、とどめやなあっ、って、あんた、ずいぶんちぢんだなあ。わ、タカシ、なんやその剣!」

「なんか術式が発動したよ」

「そうかあ、偉い武器やってんなあ、神剣やな」


 権田権八が物欲しそうな目でかーちゃんを見た。


「いまでしゅっ!!」


 奴は本体に新しい口を発生させて、かーちゃんに躍りかかった。


「タカシ、あわせてーな!」

「ああ、かーちゃん」

「いっくでーっ!! 【輝く戦棍】シャイニングメイス!!」


 俺もかーちゃんと肩を並べて『暁』を振るった。


 ドガシューン!!


 権田権八の胴体は『暁』に両断され、かーちゃんの輝くメイスで本体を撃たれて爆散した。


『やったか!』

『今度は本当に!』


 いや、まだだ、俺はさらに踏み込んだ。


 『暁』権能攻撃が起動する。

  刀身が白く光り輝いた。


 権能名は[浄化]だ。

 太陽のようにまばゆい光を放つ。

 ねらうべき場所が解る。

 権田権八の心臓だ。


 奴の顔が恐怖に歪んだ。

 『暁』を正確に奴の心臓目がけて突き入れる。


「やめてええええ」


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