第80話 『オーバーザレインボー』とすれ違う

 センチネルが粒子になって消えて行く。

 魔石と聖典がドロップした。


「おお、『僧侶プーリスト』の聖典! 【解毒アンチポイズン】ですって」

「藍田さん、持ってるかな? 持って無かったら上げてもいいね」

「しかし、良くドロップするね」

「みのりの隠しレアスキルだろうな」

「そんなの付いて無いよ」

「隠しだから、普段は見れないのだ。きっと天賦レアとかいうやつだろう」


 また鏡子ねえさんが適当な事を言って峰屋みのりを煙に巻いているな。


『涼子ちゃん、【解毒】もってるっぽいぜ』

『換金所行きだな』


「そっかー、でも、やっぱりセンチネルからは毒関係対策の物がでるんだね」

「魔法だと【毒弾ポイズンショット】かな」


『あんま毒関係魔法は強く無いからな、外れ扱い』

『遠くから打ち込んで逃げてれば良いんだが、経験値吸えないからな』

『毒はHPが減るけど、パラメーターは引かれないからめんどうじゃ』

『【麻痺弾パラライズショット】の方が使いやすい』


 呪文スペルに、楽譜スコアに、奇跡ミラクルか、種類が多くて把握が大変だ。

 これに、各種武具の戦技スキル、技スキルが加わる。

 組み立てるのが難しい。


 さらに退魔刀とか、陰陽師関係の概念も入って来て、もう凄い事になってるな。


 五階は木々の迷路になっていて、迷いやすい、が、元五階の主が居るので安心だ。


 【気配察知】に反応があった、強めの一体。

 オークだな。


「オークくるぞ」


 同じく察知していた鏡子ねえさんの警報で、泥舟と峰屋みのりに緊張が走る。

 この階だとオークは強敵だな。


 オークが先の小道を曲がってのっそりのっそりやってきた。

 得物は斧だな。


 オークは豚ににた獣人ででっぷり太って大きい。

 力が強いが動作がにぶめだ。

 そして奴は女性が好きだ。


 オークは峰屋みのりを見てニチャアとした笑みを浮かべた。


「『キモイぞっ、豚野郎っ!!』」


 峰屋みのりの【罵声】にオークは一瞬目を細め、そしてぐわっと開いた。

 目が真っ赤に染まった。


「ぶっごおおおおおおっ!!」

「うわあっ、怒ったあっ!」


 いかん、【罵声】が外されたっ、逆に【狂化】バーサークしてパワーアップしているっ。


 俺がカバーに入ろうと思った瞬間、瞬間移動のように鏡子ねえさんが前に出た。


 ガキン!


 オークの斬撃をブラスナックルで弾く。


「あっ、あっ『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪』」

「ぶ ご う ?」


 よし、【スロウバラード】が入った。

 鏡子ねえさんが下がると、そこへ泥舟が入り、オークの急所を三段突きして倒した。


「ふ~~」

「ふぃ~~」

「【罵声】は便利だけど、外されると相手が【狂化】バーサークするのか」

「怖かった~、鏡子おねえちゃんありがとう~」

「大丈夫だ、実際に使って見ないと能力の弱点はわからないからな」

「【罵声】はMP消費も少ないから良いと思ったんだけどなあ、抵抗される事があるのかあ」

「まあ、【スロウバラード】も百%掛かる訳じゃないだろうがな」

「そうだね、でもレアスキルの【透き通る歌声】とリュートでそうとう底上げされるから歌の方が通りは良いかな」


 オークが粒子になって消えて行き、魔石とオークハムがドロップした。


「ハム!!」

「鏡子ねえさん、オヤツにガリガリ食うのはやめてよ」

「ハムは出たらかじる、それが私のジャスティス!」

「オークハムはタカシも好きだからね」

「ああ、そうかごめん」

「いや、囓りかけを渡されても」


 まあ、囓った所を『暁』で切って、半分ぐらいは救出したぞ。

 囓った所は鏡子ねえさんに戻して、半分は鞄に入れておこう。


「それはどうやって食うの?」

「フランスパンとレタスとチーズを挟んで食べるよ」

「美味そうだなっ、今度そうやって食べよう」

「いいよ、今度ご馳走するよ」

「よしっ!」


 最近外食が続いたのでたまには粗食が食べたいね。


 五階の狩りは続く。

 鏡子ねえさんお勧めの綺麗な滝がある池を案内してもらったり、ジャイアントトードを倒してガマの軟膏を拾ったりした。


「わりと安定して狩りができるようになったな」

「本当はもっと深い階に行きたいけどね」

「悪漢を殺して経験値を吸うのに抵抗がなければいいぞ」

「そ、それはちょっと」

「人間の経験値はなんか、いや」

「経験値は経験値だ、ゴブリンと一緒だよ」


 そう鏡子ねえさんは言うが、Dチューバーなりたての泥舟と峰屋みのりは抵抗があるだろうな。

 俺は抵抗は無いんだが、基本的に自分が人を裁いて良いのかという点で抵抗感がある。

 殺しても良い悪は居るのだが、俺がやる事は無かろう、警察に任せる物だという感じだな。

 鏡子ねえさんはアウトローが嫌いなので積極的に倒したい感じだ。


 同じ事でも人によって色々なスタンスがあるからな。

 一概にどれが正しいとは言えないだろう。


 丘を越えて、六階に至る階段がある洞窟近くで、狩りをしている『オーバーザレインボー』を見つけた。


「お、やってるな」

「ああ、良い感じだな、五階は楽でいい」


 高田君がトマホークを投げてジャイアントトードを斬り殺した。

 斧は回転しながら戻って彼は華麗にキャッチした。


「僧侶の聖典で【解毒】が出たけど、藍田さんは持ってる?」

「あ、持ってますー、【回復】と【解毒】は売店でも出るので買いましたよー」

「そうか、じゃあ、これは換金するかな」

「しかし、良く出るね、新宮の所は」

「幸運の女神さんが付いているらしい」

「うらやましいよ」


 実際、運の良さは迷宮探索にとって一番大事な要素だったりするからな。

 どんなに実力があってもレア運が無くてくすぶっているパーティは結構多い。

 このまま、ドロップ快進撃が続けば良いんだが。

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