第47話 タカシパーティの名前を決めよう

「お腹が空いたので、ごはんを食べに行こう」

「みんなで行こうか」

「ファミレスに行く?」

「レストランは昨日行ったからなあ、お蕎麦屋さんはどう?」

「ああ、三久屋さんか」

「うん、街のおそば屋さんだから何でもあるし」

「タカシのお勧めで近所ならいいな」

「いきましょういきましょう」


 そういう事になった。


 三久屋さんは街のおそば屋さんだ。

 お蕎麦だけじゃなくて、中華とかもやっている。

 すごい美味いわけじゃないけど、ほどほどに美味しい。

 そば湯も出してくれるからね。


 店に入ると、座敷が開いていたので上がり込んで座る。

 鏡子ねえちゃんは店内をきょろきょろ見回していた。

 峰屋みのりはメニューを開いてしげしげと見ていた。


「何が美味しいのかしら、あまりおそば屋さんにこないから」

「お蕎麦、美味しいよ」

「天ぷら蕎麦を頼もうっと、鏡子おねえちゃんは?」

「カツ丼セット、蕎麦大盛り」


 沢山食うんだなあ。

 【狂化】バーサークスキルはカロリーを消費しそうだしな。


 俺は何にするかな。

 三久屋さんも久しぶりだ。

 しかし、峰屋みのりが綺麗すぎで目立つなあ。

 店内の人の目を全部釘付けだ。


「お、俺は、天ざる」


 ああ、こんな高い物を頼むなんて。

 いや、大丈夫、万札万札。


「僕はカレーうどん」

「ああ、そういう物もあるのね」

「カレー飛ぶけどね、好きなんだ」


 泥舟は和風カレーが好きなんだよな。


「あら、タカシちゃん?」


 お茶をもってきたミクさんに見つかった。


「あ、ミクさんごぶさたしています」

「まあまあ、大きくなったわね、またこっちにきたの」

「はい、向こうのマンションに」

「まー、冒険配信者マンションに入ったの、へーそうなんだ」

「また時々寄らせてもらいます」

「うん、また来てね」


 ミクさんも大人になったなあ。

 昔は高校生のお姉さんだったけど、今はすっかり大人になったなあ。


「下町のお付き合い、いいねえ、タカシくんっ」

「お、そば茶だ、うまい」

「泥舟はたまに来てたんだろ」

「いやあ、あんまり、うちはあまり外食しないから」


 なんだかお座敷でまったりした空気が漂う。

 なんだか良いなあ。


「で、そろそろ、タカシくんのパーティの名前を付けたいと思うんですよっ」


 峰屋みのりがそば茶を飲みながらそう言った。


「ああ、そうだね、そろそろ良い時期かもしれないね」

「私はなんでも良い」


 鏡子ねえちゃんは言葉に重きを置いていないんだろうなあ。

 それに対して峰屋みのりは『吟遊詩人』バードだから言葉にもこだわりが強そうだ。


「『ひらけ胡麻オープンザセサミ』とかどうかしら、最下層のドアを開く感じで」


 峰屋みのりのアイデアに、みんな一様に沈黙した。

 うーん、何だか清里にある喫茶店みたいな感じだよなあ。


「『ダンジョン突撃隊』は、どうかな」


 泥舟のアイデアにも、みんな沈黙した。

 なんか、戦争物だよなあ。


「私は何でも、『魔王なぐり隊』でも良い」


 直裁だよなあ。

 鏡子ねえちゃんのは普通に駄目だ。

 後醍醐先輩とセンスが変わらない感じだな。


「タカシはこのパーティで何をしたいんだ」

「150階まで行って魔王を倒して、かーちゃんが転生した子と会いたい」

「みのりは?」

「わ、私はね、タカシくんを歌で応援して、その姿をみんなに見て貰って、アイドルもやりたいのよ」

「泥舟は?」

「僕はタカシの冒険を助けたい、で、自分も迷宮で強くなりたい」

「じゃあ、そういう名前をタカシが付けろ」

「そうだね、鏡子ねえちゃん」

「うんうん」


 鏡子ねえちゃんは目を閉じ腕組みをしてうんうんとうなずいた。

 俺の冒険を助けてくれる。

 自分でもやりたい事がある。

 応援してくれる。

 うーーん。


 俺がダンジョンに求めている物。

 それは金銭欲か? ちがう。

 では、名誉が欲しいのか? それもあんまりな。

 俺が迷宮で一番嬉しかった事は。


 かーちゃんに会えて嬉しかった。

 リボンちゃんが助かって嬉しかった。

 峰屋みのりが『吟遊詩人』バードになった事、すごいアイテムを安価で手に入れられた事、あと峰屋の喜んだ顔を見てなんだか嬉しかった。

 泥舟と一緒に迷宮に潜って、助けたり助けられたりして懐かしくて嬉しかった。

 東海林と知り合って迷宮の事を話し合うのもとても楽しかった。

 鏡子ねえさんが獣のような状態から治ってすごく嬉しかった。

 俺の事を好きだと言ってくれて嬉しかった。


 俺が迷宮に求めているのは人との繋がりなのかな。

 うん、そうだな。

 俺は誰かと笑ったり楽しんだり、困ったり泣いたりしたいんだ。


「『ダンジョンリンクス』とかどうかな?」

「リンクス? 山猫の?」

「繋がりのリンクの複数形」

「ああ、良いわね、マークはぜったい山猫ね」

「うん、良いな『Dリンクス』で行こう」

「そうね、Dの字、流行ってるし」

「さすがはタカシだな、やるときはやるね」

「いや、何となく思いついたんだ、俺がやりたいのは迷宮で人と繋がって潜って行く事だから」

「ああ、いいね、私もタカシや、みのりや、泥舟と繋がって潜りたい」

「私も私も」

「うん、同感だよタカシ」


 こうして俺たちのパーティの名前は『Dリンクス』に決まった。

 我ながら良い名前だと思う。

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