第14話
家族3人で
川の字になって寝たのは
いつぶりだろう。
確か塁が生まれてすぐに
絵里香が産休をとった時
横並びでその時は4人一緒だった。
あの時は
夫婦も気持ちが落ち着いていて
言葉には表してなかったが、
幸せだったんだと思う。
子どもたちは絵里香がいないことに
泣き疲れて
頬に涙を流しながら寝ていたが、
晃はずっと起きていた。
いつ帰ってくるんだろうと、
そわそわしながら
寝返りを打っては
スマホを確認して
ラインをチェックする。
今までまめにライン交換してなかった。
返事もろくに返してない。
今もメッセージなんて
送ってもない。
相手から来るのを待っている。
電話もこちらからかけても、
きっと応答しないはず。
ただただ、待ち受け画面を見てるだけ。
最後に4人で撮った
塁が赤ちゃんの頃の写真を
待ち受けにしていた。
あの頃には戻れない。
子どもが自分を
見てくれなくなったから。
言葉を投げかけても
相手にされない。
いや、投げかける言葉は
子どもたちにとって
嬉しいことだったか。
いや、きっとそうじゃない。
自分自身が子どもたちを
拒絶していたんだ。
幼少期にまともに親に
構ってもらえなかった
自分と照らし合わせて、
今の子どもに嫉妬してる。
泣きついてくる姿をみると
1人でできるでしょう。
何とかなるでしょう。
自分の母親のセリフが脳裏に蘇る。
晃はずっとずっと我慢していた。
本当は母のそばにいたかった。
フルタイム勤務で仕事をして、
母の代わりの祖母の家にいたが
求めるものは祖母ではない。
そこはやはり
母だった。
自分が子どもに優しくできない理由は
そこにある。
母がそうしたから。
でも本当は違う。
自分が変わらなくてはならない。
反面教師で、母と違う人生を
歩まないといけない。
晃は子どもたちと関われば関わるほど
自分を見失っていく。
(俺は…俺は…。)
自分の父親は何をしていた。
朝早くに出勤して、
夜遅くに帰ってくる。
時には飲み会だと言って
朝帰りすることもあった。
3人兄弟の長男の晃は、
兄弟で過ごすことの方が多かった。
父親との接点は少なかった。
ただただ、ひたすらに仕事で
お金を稼ぐ人。
夫婦関係は
良いものとは言えなかった。
一言三言話して終わり。
小学生ながらに
ああいう大人にはなりたくないと
思っていたが
結局、晃も父の同じ人生を
歩もうとしている。
お金じゃない大事な何か。
生きるって何だろう。
居心地がいいって
どうすればいいのか。
晃は気がついた。
(そういや、
着信に幼稚園から電話あったけど、
絵里香のスーパーからは
電話ないな。
もしかして…。)
晃は体を起こして
朝の準備を始めた。
今日は土曜日。
カレンダーを見ると絵里香は
フルパートの勤務になっている。
子どもたちを起こして、
引き出しの中にあった
お茶漬けの袋を人数分用意して
お茶碗にご飯を盛りつけた。
あまり炊かないお米を
スマホの料理アプリを見ながら、
タイマー予約でご飯を炊いた。
「瑠美は鮭でいいんだよな?塁は?」
「僕も鮭でいいよ。」
「わかった。」
晃はそれぞれにお茶漬けの素をかけて
お湯を入れた。
子どもたちはお茶漬けには
文句を言わない。
助かった。
結局、昨日の夕飯は
冷凍庫にあった
焼きおにぎりを電子レンジで温めて
分けて食べた。
作れない作りたくない
食べたくないには
この冷凍食品に頼るしかない。
体には良くないって分かっていても
仕方ないんだ。
食をつなぐためだ。
「お父さん、今日、習い事あるんだけど
行かないの?」
「え、何だっけ。」
「スイミングだよ。」
「え、2人とも?」
「私だけ。」
「その間、塁は、どうしてんだっけ。」
「知らないの?
いつもお母さんに
連れて行ってもらっているから
なぁ…。
塁は何してるかわからないよ。」
「瑠美がスイミング行ってる時、
僕、お母さんと買い物したりしてた。
それか1回うちに帰ってきてたよ。」
「そうなんだ。親はどうやって、
そのスイミングに入っていくの?
名前とか書くの?」
「先生たちと保護者の人に
挨拶してから
ちょっと抜けますって
言ってくるよ。」
「挨拶……しないといけないのか。
瑠美をさらっと置いてきては
いけないの?」
「お母さんはちゃんとやってたよ。
会費とか払うとき
声かけられたりするし。
大会とか出場するときの
手続きとかあるから。」
「そういうのもしないといけないのね。
学校や幼稚園だけじゃないのか。」
「お父さん、
お母さんのこと知らなすぎだよ!!
瑠美、早くお母さんに
帰ってきてほしい。
どこにいるの?」
「瑠美、んじゃ、
今日だけスイミング休んでもいい?
お母さん探しに行こう?」
「お母さんとスイミング…。
お母さんの方が大事に
決まっているから。
休んでもいいよ。」
「よし、スイミングの名前教えて。
電話かけるから。」
晃は安堵した。
初めて行くところに挨拶するのは
緊張するし、そういう空間に
慣れていない。
仕事だったら、割り切れるのだが…。
休めると思って、
瑠美からスイミングスクールの
連絡先をネットで調べて
電話した。
「もしもし、榊原瑠美の父ですが、
スイミングスクールの佐々木先生
ですか?」
『はい、佐々木です。
瑠美さんのお父さんですね。
いつもお世話になっております。
どうかされましたか?』
「お世話になっています。
今日なんですが、家庭の都合で
申し訳ないですが、
お休みさせていただきます。」
『そうでしたか。承知しました。』
「はい、失礼します。」
晃はスマホの通話終了ボタンを押した。
「よし、瑠美、
スイミング休みにしたぞ。
お母さん見つけに行こう。
大体の目星はついてるから。」
「うん。やった。お母さん。」
「僕も早くお母さんに会いたい~。
どこに行っちゃったの?」
朝ごはんの皿を早々に片付ける晃。
2人の荷物を持って、車に乗せた。
「よし、忘れ物はないな。」
絵里香も2人を連れ出す時は
必ずって言っていいほど
忘れものをする。
着替え袋持ってないから始まり、
瑠美の髪結んでない、
塁がトイレに行ってない、
水筒の飲み物、
財布が入ってるバック、
スマホをどこに置いたっけで
なかなか出発できないことが
多かった。
今日は、持ち物をとにかく減らした。
そうすれば、
あっという間に出発できる。
絵里香がいたら
きっとあれも必要でしょうっと
出発に何分もかかっていただろう。
晃は恵里佳のことを思い出して
ふっと笑った。
車のシフトレバーをDに変えた。
想像以上に外は天気に恵まれていた。
晃と気持ちとは裏腹だった。
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