【完結】パパがお嫁に行くからもう乙女ゲームでギスギスしないで!! ~娘が二人同時に前世を思い出してバカ王子を取り合ってるけど彼の本命はパパなんだ

朱音ゆうひ🐾

1、娘たち、乙女ゲームで喧嘩しないで

 数百年前の戦争で国王から名誉ある称号を贈られた五大名家のうちのひとつ、アクリティア公爵家には、二つの旗が掲げられている。

 紅薔薇のアクリティアの旗。

 そして、星十字のデルリアンの旗――嫁いできた妻の家の旗だ。

 

 両家の結束は強い。

 そのためラブリエス・アクリティア・レ・クレス公爵は国内有数の権力を握っている。しかも、国一番の美形と名高くて、老若男女かまわずモテモテだ。

 

 そんな魅惑の公爵は、頭を抱えていた。


「乙女ゲームよー!」

「乙女ゲームよねー!!」

 

 娘たちだ。娘たちが騒いでいる。

  

「やったー、私がヒロインよ! 王子殿下は私がもらうわね!」

「なんですって! ざまぁされるのは妹って決まってるのを知らないの? 殿下はわたくしを溺愛するのよ!」

 なんと娘たち、同時に前世を思い出したのだという。


 二人の娘は、姉がアークリア、妹がヒエロンヌ。

 父譲りであるふわふわのローズピンクの髪にアクアマリンの瞳をした可憐な姉妹だ。


「明日のパーティでヒロインのパワーを見せてあげるわ。練習しとこっと。ふえぇん、お姉様がいじめたわぁ~、ひどぉい」

「甘いわねヒエロンヌ。あなたのそれ、まさにざまぁされる妹のムーヴなのよ!」


 姉妹はパーティの支度をしながら、ざまぁざまぁと繰り返している。


「二人ともやめなさい。優雅な貴族たる身の上、お互いに思いやりを持つべきではないか」

 

「でもパパ! 王子が婚約者候補の中からひとりを選ぶ婚約イベントがもうすぐなの!」

「そうよパパ! 原作では婚約できなかった婚約者候補全員がざまぁコースで人生お先まっくらなんだから」

 娘たちが何を言っているかわからない!


「パ、パパ……?」

 今まではおしとやかに「お父様」と呼んでいたのに。でも、「パパ」って呼び方はちょっといいな。娘カワイイ。


 ちなみに娘たちが狙っている王子は、十八歳のヒュベリオンという王子。素行に問題大ありの困った王子だ。父である国王が定めたことを「オレ様は王子だから! 権力あるから!」と言って変更するよう命じて、あとから父王に叱られたりすることがよくある。

 

 しかも男女問わず気に入った者を寝所に呼んで、けしからん行為にふけっているという噂もあって。

 

 さらに言うならあの王子、ラブリエスにも目を付けていて事あるごとに気持ちの悪いポエムを送ってきたり、腰を抱こうとしたり、尻を撫でてくるのだ。

 耳に息を吹き込まれながら甘ったるく「オレ様の本命は貴公だ」などと愛を囁かれたこともある――全部父親に言いつけておきましたッ!

 

「こほん。お前たち聞きなさい。お父様は、ヒュベリオン王子殿下に娘をやるつもりはない。そもそもあのバカ王子には廃嫡の話も出ているくらいなのだぞ」

 

 ヒュベリオン王子と婚約してもいいことなんてない。父はそう思うッ!


「でもパパ!」

「パパーー!! でも、婚約できなかったらざまぁされちゃう!」


「この先何があろうと、お父様……パパの娘が人生お先まっくらなんてことはない。パパが守ってやるから、安心するように」


「お姉様、よかったわね。安心して婚約者の座から転落できるわね」

「ヒエロンヌって本当にざまぁしたくなるオーラが出てるわね。覚悟しなさい」


 娘たちはギスギスを続行していた。


「腐っても王子は王子なのよ。やっぱり最高権力者になる男をアクセサリーにしなきゃ」

「やだヒエロンヌ、気が合うじゃない。王子って肩書きがいいわよね。うふふ、溺愛させてやるんだから、見てなさい」

「乙女ゲームだもん。攻略してなんぼよね」

「わかる~っ! わかる~っ!」


 ……もう仲が良いのだか悪いのだか、パパにはわからない!! 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る