20 見合いの心構え

――翌日


「はぁ~……ついに運命の時が来てしまった……」


自室で制服に着替え、鏡の前でネクタイを結び直しながら僕はため息をついた。それにしても皮肉なものだ。

他の人のことなら顔を見ただけで、突然先読みの力が発動するのに僕はこのかた生まれて十八年間一度たりとも自分の未来に起こる出来事が浮かんできたことは無い。


「う~ん。どうせ、しょぼい未来しか読めないのだから自分自身のことだって見えてもいいはずなのになぁ……」


何せ今日行われるジュリオとクレアのお見合いは、はっきり言って嫌な予感しか無い。

きっとジュリオはクレアを見た途端、僕を激しくなじるだろう。給料も言及されてしまうかもしれない。

となると僕にできる精一杯のことは、ジュリオの慌てふためく姿を拝むことくらいだろうか……


「さて……仕事に行くか……」


僕は重い足取りで自室を後にした――



****


午前九時――


僕はジュリオの部屋で、彼が本日見合いの席で着る服の準備をしていた。


「ジュリオ様、お見合いにこのスーツはいかがでしょうか?」


薄いグレーのジャケットスーツをクローゼットから取り出して彼に見せた。


「はぁ? お前、何考えてるんだ? そのスーツ、学校の制服とよく似てるじゃないか? 何でそんな服を選ぶんだよ?」


ジュリオは雑誌をパラパラめくりながら文句を言ってくる。


「いえ、だから良いと思うのですけど」


やっぱりクレアだって、見慣れた装いのジュリオと見合いした方があまり緊張することなく会話が弾むと思ったんだけどな……


「嫌だね。何で休みの日にまで、制服みたいなスーツを着なくちゃならないんだよ」


プイッと横を向くジュリオ。


「そうですか…‥? この色のスーツ……美しいブロンドヘアのジュリオ様に良く似合っていると思うのですけど……」


うう……我ながら男にこんな台詞を言うなんて、鳥肌が立ってくる。しかし‥‥…


「何? そうか? そのスーツは俺のような男に似合っているというのか? 仕方ない。それなら着てやるか!」


「ええ。どうぞ」


俄然着る気になったジュリオに僕は笑顔でスーツを差し出した。




「ところで、クリフ。お前、今朝は何で朝食の時に部屋に来なかったんだよ」


ネクタイを締めながらジュリオが文句を言ってくる。


「え? 何仰ってるんですか? 本来であれば、僕は休暇日ですよ? お見合いの時だけ同席させてもらうはずではなかったのですか?」


「あのなぁ! 見合いのことで色々打ち合わせとかがあったんじゃないか? こっちは食事の時にその打ち合わせをやろうかと思っていたんだよ!」


「何ですか! その打ち合わせって! 大体ジュリオ様は女性のお相手くらい、お手の物ですよね? 百戦錬磨だと自分で豪語されていたではありませんか!」


「だからだよ! もし見合い相手に気に入られてしまったらどうする! 俺は今日の見合い失敗させたいんだからな!」


呆れたことに、この期に及んで未だにジュリオは見合いを失敗させるつもりだったようだ。


「そんなことはお見合いが始まってから考えて下さい」


「言われなくても見合いはする。命令だからな。だが、俺は絶対に断ってやるからな!」


「はいはい、分かりました。ですが、早く着替えだけは済ませて下さいね」



どうせ、あの夢の通りならクレアはジュリオの婚約者になるに決まっているのだから。



そして、いよいよ見合いが始まる――

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