第4話

 それからしばらく経って、志人は仕事から帰宅すると杏花は少しカリカリとしているようだった。

「なんで帰ってくるのが遅いの」

 そう杏花に言われ立てかけ時計を見ると11:00を回っていた。


「ごめん。ちょっと今日は──」

「ずっとずっとずっと新人が泣いてて、私はまだ何も出来なくて」

 そう言うと杏花は泣き出してしまった。

 その日はずっと杏花に怒られていた。志人はずっと謝っても、何度も何度も言われた。

 昔は何か嫌なことがあっても楽観的に捉えて抱え込まないような人だったのに、変わってしまったなと思った。志人が何か悩んだりしてもそんな杏花にいつも救われていたのに。


 でも次の日は仕事を定時に終わらせると、すぐに荷物をまとめて職場から出た。


 6時前には家に着き、杏花も驚いていた。

「どうしたの」

 杏花にそう尋ねられ、

「まあ、今日は仕事も少なかったし」

 と、昨日のことがあって敢えて早く帰ったとは言えなかった。

 新人のオムツ交換や寝かしつけをした。

 今更気付いたが、子育てはかなり大変なのだと考えさせられた。

 疲れた体を休ませる暇もなく、新人のことを最優先に動かなくてはならない。せっかく寝たのに、布団に寝かせた途端また泣き出すから、本当にしんどかった。


 漸く新人も熟睡し、洗濯物の取り込みなど全て仕事を終えて、体を休められるようになったのは20:00だった。


 カーペットの上で仰向けになり、スマホで動画を眺めている杏花の近くで志人も寛いだ。

「いつも新人のためにありがとね」

 志人は言った。

 今まで気付いてあげられなかった事を謝りたかった。

「やっぱ昨日のこと気にしてんじゃん」

 杏花は動画を止めると仰向けから起き上がり抱きついてきた。

 志人は背中をさすった。右後ろから鼻をすする音が聞こえてきた。

「ごめんね、今まで」

 志人はそう言ったが、杏花は何も返さずに右首元に顔を埋めていた。首にかかる息がくすぐった過ぎて逃げたかったが、体を震わせ耐えていると

「……フフっ」

 と杏花が笑いだした。まさか、くすぐったいのを耐えている僕に笑っているのか。ということはわざと息をかけていたのか。

 でも昨日見れなかった杏花の笑顔を取り戻せた。

 その日は本来は杏花に休んでてもらって自分で夕ご飯を作ろう思っていた志人だったが、志人が立ち上がると杏花も着いてきて、2人で台所に立って鍋を作った。

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