第33話:ギャンブルとテイム/勧誘
その後は待ちくたびれたナナとハチが鬱憤を晴らすような快進撃を見せ、ダンジョン探索は進んで行った。
「ミズヨウカンいったれ!」
――ぽよ~ん
ナナの号令に従って跳ねたスライムにモンスターが取り込まれる。
彼女のスキルはテイムだ。 テイムしているモンスターが他にいるのかは不明だが、最弱のスライムといえどかなり鍛えられているのか強い。
「ミズヨウカンって名前はどうかと思うけど」
「可愛いやんか! 文句あるんか?」
「言いずらくない?」
「それは否定できんな。 よしよし、よくやったな偉いでぇミズヨウカン」
スライムは触ってみるとつるりとした感触で、ひんやりしていて気持ちいい。 夏に枕にしたら気持ちよさそうだ。 数多あるファンタジー小説ではなんでもありな扱いだが、まだ実力の底は分からない。
「なら次は俺が行こう」
「頼むで。 今のところいいとこ無しなんやから」
「まあそれは運次第だな――スキルスロット」
そしてハチのスキルは、ランダムで当てたスキルを使用できるというものだった。
このスキルにはクールタイムが存在するらしく――今日はツイていない、という言葉の意味がようやく理解できた。
『威嚇』
「うむ、今回も外れた」
「あっははは、強面のハチにぴったりやんか!」
ハチは今回も戦闘スキルを引けず、心なしか気落ちした様子であった。 それを無邪気にナナが弄ったせいで、ハチはヤケクソ気味にモンスターを威嚇した。
するとモンスターの動きが止まり、その間にスライムが酸を飛ばしてモンスターを殺した。
「意外と親和性高いんじゃないか?」
「ほんまやで。 怪我の功名ってやつや」
「さっさと行くぞ」
そんな感じで探索は進んだ。
この二人は強く冒険者の出番はないままダンジョンコアまでたどり着いた。
「ここまでご苦労様」
少女はそう言って剣を振り下ろした。
『おめでとうございます』
『ダンジョンクリアです』
そして俺たちの本日の業務も終了したのだった。
※※※
「聖剣……あのスキルが欲しい」
探索を終えて、帰路の車内で少女は呟いた。
その表情はまるで恋する乙女のようだが、考えていることはーー
「人間は力でモンスターに敵わない。 けれど繰り返し戦えば、癖も、行動パターンも読めてくる。 まるでRPGのボス戦のように」
ーー私はあなたが欲しいーーまるで告白のような誘い文句を聖剣は断った。
『俺、一年間出られないので……今はなんとも』
彼は罪人だ。
牢から出す方法はいくらでもあるが、法律が絡むとリスクは当然高くなる。 自分ならまだしも父の権力に傷を付けることは絶対に許されない。
「さてどうしましょうか」
少女の中に彼を諦めるという選択肢はない。
さらに世界が悪い方に変貌することが、確実に否定されない限りは彼のスキルが必要だ。
この世界のスキルというものは一人一個という大原則が存在する。 そしてスキルを拡張することは戦力向上に繋がるが、一つしかないスキルではいずれ限界になるし、どこで拡張が頭打ちになるか不明だ。
「一年なんて待てません」
少女はそう言って、再び刑務所へ赴くための手はずを整える。 とりあえず今はそれでいい。
しかし世界が可笑しくなり始めたその時は、
(手段は選びません)
少女は心の中で、ほの暗い決意を固めるのであった。
※※※
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