不利すぎる特別ルール
着地台にされてスパークしている半壊大型モニター、
京太は落ち着かない気持ちになって、ゆっくりと半壊大型モニターから降りながらかおるに話しかけた。
「な、なぁ……何か視線が痛いんだが……」
「ド派手な登場で優勝候補として注目されてますね、きっと!」
「そ、そうなのか……?」
会場のチームから声が上がり始めた。
「あ、あれがチーム京天桃血か……」
「名前の通りに恐ろしい奴らだぜ……」
京太は聞き覚えのないチーム名に疑問を覚える。
「チーム名……いつの間に決まってたんだ?」
「それは私とピンキーさんで決めました!」
「うん、三人の名前を組み合わせて作ってみたよ!」
誇らしげに語るかおると桃瀬を横目に、冷静にチーム名を反芻する。
「京天桃血……。八王子京太の京、天羽かおるの天、ピンキーの桃色……で京天桃まではわかるんだが、最後はなんで〝血〟なんだ? 驚天動地との語呂合わせなら、せめて最後の一文字は〝地〟だろう……?」
桃瀬がニッコリとほほ笑みながら、会場中の全員に聞こえるように大声で
「京天桃血の〝血〟は、対戦相手の全員を血祭りに上げるという意味だよ!! 今日はこの三人が、みんなの返り血で真っ赤に染まるのでよろしくぅ!!」
「私たちの撮れ高のためにみんな死んでくださいね!」
「俺を巻き込むなぁぁあああ!?」
会場中から恐れと敵意の視線を向けられた京太は頭を抱えてしまう。
「大丈夫ですよ、京太。こういう多人数のゲームは1チームが敵意をあげても、そこへ突っ込んで行くと漁夫の利をされるので安易には攻撃してきませんって!」
「そうそう、京君! PCでFPSの練習をしたときも、そういうシチュを教えられたし! 何か特別なルールでもない限り平気だって!」
「おまえら……またそういうフラグを言うと……」
そのタイミングで会場アナウンスが流れた。
「サプライズとして特別ルール〝指名手配〟を発表します。これは今からスマホに送られるアンケートで1チーム選び、その得票数が最高のチーム――つまりもっとも憎しみを集めた最低最悪なチームを倒した場合は現金百万円がプレゼントされるというものです」
「……ほらな? フラグ回収された……」
満場一致で京天桃血が指名手配され、出場者はバトロワ〝
***
出場者は自衛隊で使われているらしい大型トラックで廃墟まで輸送される。
信じがたい話だが、このような大会にも国が協力しているのだ。
なぜかというと、この特異すぎる状況にある。
出現したモンスターはアバターでしかダメージを与えられないために、各国が持つ現状の武力では対処ができない。
そのためにアバターの訓練にもなるという名目で、国がこのような大会を推奨しているのだ。
しかし、疑問に思う国民も一部いた。
『アバターたちをそんなに大切にする必要はない。勝手に戦って、勝手に死んでもらえばいい』――と。
一部の官僚もこういうことを考えなくもなかったが、ここで問題になってくるのは〝地球人類全員がアバター化できる〟ということだ。
下手にアバターを迫害するような方向にすると、それが自分にも当事者として返ってくる可能性があるのだ。
そういうこともあり、このように〝国すら協力する〟信じられない状況になっているというわけだ。
――そんなことを思い出しながら、京太は自衛隊協力らしい大型トラックの荷台に揺られている。
「こないなシチュエーション、ハリウッド映画みたいやなぁ。ゴツいトラックに揺られて移動するっちゅーのは」
京太の真っ正面、つまり向かい合わせで座っているのは銃子だった。
本来なら複数の大型トラックでチームごとにまとまって乗り込めるはずだったのだが、京太と銃子は数的にあぶれてしまったのだ。
正直、京太はどう返事をするか迷ってしまう。
敵ではあるが、らきめ経由で話を聞いていくと〝倒すべき敵〟ではあっても〝悪意を持つ人間〟とは思えないからだ。
もっとも、悪意を持たなくても凶悪なモンスターである〝灰色の竜〟のことを隠している時点で、許されざる罪を背負っているはずだ。
「お、だんまりかいな? こういう大会前は話すと緊張がほぐれてええでぇ」
「まったく、正義の四天王という奴はこれから戦う相手の緊張をほぐすルールでもあるのか」
「なはは! もしかして、それって渋沢のおっちゃんのことかいな!」
「そうだ」
「渋沢のおっちゃんの気持ちはよ~くわかるでぇ。やるなら最高のコンディションの相手とやりたいからなぁ」
「そういう考え方が強いアバターの条件……というやつか」
「まぁ、他にもありそうやけどな。戦闘で感情が高まるとパワーも強ぅなるみたいなヒーローものみたいなのも報告されとるし。ま、ウチはそういうのがないから平坦な強さやけどな」
以前見た銃子の戦闘。
必殺必中で放たれる弾丸のことを『平坦な強さ』で済ませるのは恐ろしい。
それに渋沢のときと違って、今回は敵側にらきめによる〝VTuberスキル〟も隠しているのだ。
対してこちらはかおるの基本能力を上昇させるだけのVTuberスキルしかなく、明らかに不利だろう。
非常に難しいが、何とかして道中でレアな大剣を入手して、銃子戦は距離を詰めて攻撃していくしかない。
「今、ウチの倒し方を考えとったか?」
「勘が鋭いな。その通りだ」
「ウチのことをそこまで考えてくれて嬉しいわ~」
男装の麗人である銃子に微笑まれると、何か不思議な気分になってしまう。
「ウチも京太のことをずっと考えとるでぇ。ほんまは調べる気が無くても、背徳天騎士のアルティメットスキルまで知ってもうたからなぁ。アレはあかんやろ、ウチでも近付かれたら負けや」
そう言って銃子自身も近付いてきて、耳元で囁いてきた。
美しいハスキーボイス、ゾワッとした感触が脳を痺れさせる。
「その無限にも均しい攻撃力で人を斬るのは、さぞ楽しいやろなぁ……。皮肉でも何でもなく、これは本心からやで……? せやけど――」
銃子はウインクをしながら距離を取り、元の席に座った。
「ウチの得意レンジまで離れてしもたら何の役にもたたへん。京太は回避できるかどうかの運ゲー勝負の紙防御最弱アバターに成り下がるっちゅーわけや」
「さぁな、それはどうかな」
「もしかして京太は銃の腕前がとんでもないんか? ウチはらきめから何も聞いてないから練習の成果が楽しみやでぇ」
クソAIMなのだが、とんでもない銃の腕前があったかのように京太はニヒルに笑みを浮かべた。
「ほんま楽しみや。ウチはこのつまらん世界で、少しでも楽しみたいだけやからなぁ」
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