助ける? 助けない?
バトロワ大会〝
一部解放済みだが、さすがにこのまま再開発はできなく綺麗に壊すことになるので、その前に大会場所として提供してくれたのだ。
そのために京太、かおる、桃瀬は少し遠出してきた。
「ここらへんは廃墟になっているところと、そうでないところが極端だな」
「地図を見ると廃墟から少し離れたところに空港とか、学校、病院は壊されずに残っているみたいですね。民家もちらほら見えるので、ここで生活してる人もまだいるのでしょうか」
「都会ともなればどうにかなりそうなイメージだが、そこから離れるとこの歪な世界は苦労しそうだな……」
食料品店が一ヶ所でも壊れれば、次の店はかなり離れることになるだろう。
交通機関もそうだ。
本来は電車が一本だけ通っていたのだが、今は使えなくなっている。
そのために三人は歩いて会場へ向かっているのだ。
もっとも、
「このまま歩いていても間に合いそうだな」
京太はスマホのマップアプリを見ながら到着予想時間を確認していた。
それを覗き込みながら、桃瀬が不吉なことを言ってきた。
「よかった~。時間に遅れて不戦敗だなんてシャレにならないよね! あれだけ練習してきたのに、それが全部何も出来ずに無駄になっちゃうんだもん!」
「たしかに……そのパターンが一番まずいな」
ふと、脳裏に一つの考えがよぎった。
もし聖丸が妨害をしてくるのなら、一番悔しがるような手段を取ってくるだろうと。
そう思いながら道を歩いていると、こんなところに珍しいワンボックスのバンが走ってきて、目の前で止まった。
大会前のタイミングでこれは怪しすぎる。
すでに
「敵が出てきたら俺と桃瀬で前に行く。かおるは離れていろ」
「了解、京君!」
「わかった……けど、敵以外が出てきた場合はどうする……んですか……?」
バンの扉が開き、それを見たかおるの言葉が詰まってしまっていた。
「チッ!!」
あまりの光景に京太は舌打ちした。
蹴り出されてきたのは、腹が大きく膨れた妊婦だ。
たたらを踏んで転びそうになったところを、京太が猛ダッシュで駆けよって支える。
もし妊婦の格好をした敵だった場合、京太は無防備になってしまっただろう。
しかし、見過ごすことができなかった。
「大丈夫か!?」
「は、はい……」
バンはすぐに走り去ってしまった。
追撃すれば間に合いそうだが、今は妊婦の安全が第一だ。
どうやら妊婦は本物で、かなり苦しそうにしている。
「う、産まれる……」
「なっ!?」
突然のことに京太は混乱してしまった。
産まれると言われてもどうすればいいかわからず、頭が真っ白になってしまう。
「病院……ここから一番近い病院を調べましたが、産婦人科がありますね。モンスターがいる支配地域を護衛しながら、最短コースを突っ切って病院へ連れて行くしかありません」
「でも、天羽さん……それじゃあ大会に間に合わなくなっちゃうよ……」
「そうですね……。アバターの身体能力を考えてもきつそうです……。どうするかは京太に任せます」
それを聞いて京太は気が付いた。
この妊婦をバンで拉致して、京太たちの前に放り出したのは聖丸の手の者だろう。
京太を不戦敗にして悔しがらせるために。
それでも京太は答えを出すしかない。
「どうするかは……決まっているだろう」
***
同時刻――〝
廃墟マップから少し離れたところに設営された、大きなモニターと実況席などが用意されている場所だ。
人々が集まり、さながらそこは野外フェスのようだ。
すでに全世界へ向けて配信が開始されていて、出場者紹介PVが流れようとしていた。
マイクをミュートにして、銃子が確認を取る。
「まだ京太チームは来ぇへんのか?」
「うーん、わたしっちもスタッフに確認したけどいないし、かおるチャンネル配信もしてないなの~……」
心配そうなきらめを余所に、聖丸は嬉しそうに笑った。
「どこかで道草食っているんじゃないかな~! 戦えずに負けるなんてさぞ悔しいだろうになぁ~!」
「聖丸っち……まさか……」
「まさかぁ? ボクが何かをしたっていう証拠でもあるのかぁ~い?」
らきめは黙るしかなかった。
仮に何か証拠を掴んだとしても、このような大きな大会では後の祭りだ。
再び大人数の予定を合わせるわけにもいかないし、不戦敗というのは覆られないだろう。
「おっと、出場者紹介PVが始まるよ? これが全部終わったらタイムリミット、不戦敗決定だねぇ~」
その嬉々とした聖丸の声音は、自分が犯人ですと自白しているようなものだ。
らきめは、銃子に助け船を求めようとしたのだが――
「ほな、出場者紹介PVを始めようや」
特に気にした様子は無かった。
そのままモニターがPVを流し始める。
席に座っていた解説役のマイク頭アバターが大声をあげた。
「出たぁー! 初っぱなからチャンピオン確定! 大本命のチーム〝ガンガール〟だァー!」
モニターには銃子、らきめ、聖丸が映されていた。
三人はシンプルにポーズを決めていて、それだけで絵になっている。
「古のFPS時代、最年少のプロゲーマーとして現れた銃子ォ! 現在も他の追随を許さない腕前と人気を兼ね備えた天才です! 男装の麗人として女性リスナーの人気が非常に高いです! いつも笑顔の関西弁……しかして時折見せる寂しげな表情のギャップがたまりません!! ちなみに海外ではガンガールと呼ばれていて、それが今回のチーム名になったとのことです」
次にらきめへと画面がフォーカスされる。
「VTuber十五月らきめェ! 以前から銃子とチームを組んでいた過去があり、どんなジャンルのゲームも努力を繰り返してのし上がっていくストロングスタイル! そのラッキーだけでは片付けられない努力家な姿はファンを魅了して止みません!」
最後に聖丸が映し出される。
「えーっと……佐藤聖丸さんですね。大手企業の佐藤グループの御曹司で、この大会のスポンサーの一人でもあります。ありがとうございます」
若干、テンションが低くなった解説役だった。
聖丸は手持ちでスマホのメモに『気に入らないから解説は次からクビ』と書いていた。
このように裏では非常に性格が悪いので、優秀な解説役も乗り気ではなかったのだ。
そこから次々とPVが流れていく。
まずはフォーマルなスーツと鋼鉄のフルフェイスというアンバランスな格好のチームだ。
「ガンガールを倒せるのは彼らしかいない! チーム〝DONKATSU〟だー! 三人は初期バトロワゲーのアバターで、バトロワなら任せておけという手練れです! 得意なゲームジャンルということを活かして戦ってくれるでしょう! 優勝候補の一角です!」
次に映し出されたチームは、軍の特殊部隊のように顔の大半を布マスクで隠したようなアバター三人だ。
「爆破なら任せておけ! チーム〝ミリタリーボマーズ〟だぁー!! 彼らは爆破ルールを主とするFPSアバターで、モンスターを爆殺することで有名です。なお、今回は武器の持ち込み、スキルによる武器作成などができないので爆弾戦法は使えません。大型の爆発物を拾えるかが勝利の鍵になると思われます」
次、箒に乗ったり、翼で飛んだりしているアバター三人組だ。
「当てるのがFPSなら、避けるのは彼らの十八番! チーム〝弾かすり至上主義〟だー! 歴史あるSTGメーカーのアバターですね! 空を飛べるというアドバンテージを活かすことができるかが勝負の決め手になりそうです!」
次は戦車に乗った三人組だ。
「戦車、戦車だぁー!? チーム〝パンツァースリー〟! 彼らは戦車TPSのアバターで、今回は防具として戦車を持ち込むとのことです! 許されるのかこんなことぉー!?」
さらに次も異質で五メートルサイズの巨大人型ロボットが出てきた。
「戦車の次はロボだコレー!! チーム〝鋼の魂〟だぁー! ロボットも喚び出せるFPSゲームから参戦のアバター! 新作はいつ出るんだー!」
さらに異色の四角いポリゴンの三人組が現れた。
「銃は無いがMODで何でも撃ったことがある! チーム〝サンドボックスの顔も三度まで〟! 世界で一番売れているサンドボックスゲームからの参戦だー!」
やっとまともっぽい猟師三人組が現れた。
「人間よりも恐ろしいのは動物! チーム〝サバイブル〟だー! 洋ゲーでは割とメジャーな対動物をメインとしたサバイバルゲームからの参戦です。メイン武器はスナイパーライフルが予想されますね」
次は美男美女の警察官が映った。
「ゾンビより強い人間の力を見せてやれ! チーム〝特殊部隊サンズ〟だー! ゾンビなどのクリーチャーを相手にするTPSゲームアバターで……――今、残念な知らせが入りました。彼らが乗ったヘリが墜落して会場に辿り着けない模様です。ゾンビよりしぶとく生き延びているらしいので、次回参加に期待しましょう」
気を取り直して画面に映ったのはパワードスーツを着たアバターだ。
「見た目は硬そうだが、実は一発撃たれるともう瀕死だー! チーム〝ザ・紙装甲〟! 最近増えてきたパワードスーツ系のTPSから参戦です! とても自虐的な感じですが、その機動力は侮れません!」
そして、次に映ったのは誰も理解できない画面だった。
会場のモニターには大空。
それも落下中のスカイダイビング映像が流れた。
なんだこれ? と会場がざわめいた。
「最後は今話題の謎の最強存在、八王子京太率いるチーム〝
解説の横で銃子と聖丸も話題にしていた。
「やっぱ
「このPVが最後! これが流れ終わっても来なかったらチーム失格ぅ~! いやぁ~、ボクはとても残念に思うよぉ~!」
「あ、このPVだけ珍しく音声が入っているので聴きましょうか」
『FPSというジャンルは慣れてなく、初心者からのスタートだが頑張らせてもらう……! 正々堂々、お互いに戦おうじゃないか……!!』
『――なーんて言うと思いましたか? 我々は勝つためだけにやっているんです! 正々堂々と握手を求められたら、その手を握り潰すのが京太のやり方です! 死を覚悟してくださいよ、アナタたち!!』
『殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害! 戦場というリングでは、初心者に情けをかけた軟弱者から死んでいく!! 頑張る頑張る皆殺し! 京君が言いたいのはそういうことだよね! あたしたちの勝利のポーズは首に親指を当てて――キルユー!! 中指上げてファッキュー!』
『あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”』
集まっているチームたちは度肝を抜かれていた。
ただでさえインパクトあるスカイダイビング中のPVに、大胆不敵な宣戦布告をしてきたのだ。
全員を敵に回しても勝てると言わんばかりの挑発を見て、闘争心に火が付かない者はいるのだろうか?
いや、いない。
だが、その京太のチームである〝京天桃血〟は到着していないので失格が確定されてしまう。
そんな会場の熱気と興奮の中――
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
何かが天井をぶち抜いてくる音と同時に、最後のPVの京太と同じ声が聞こえてきていた。
「な、なんだ!? 何が起こったんだよ!?」
「えーっと、もしかして……なの~……?」
慌てふためく聖丸と、呆れかえるらきめ。
それと平然とした表情の銃子。
「ほら、平気やろ?」
天井とPVモニターを派手にぶち壊しながら現れた者たち――モクモクとした砂煙が晴れていき姿が現れた。
それはもちろん――
「こんて~ん! ギリギリで会場にへ舞い降りてきたお世話系メイド天使、天羽かおるでーす! 今日も皆様に楽しんでもらうぞー!」
「ピンキーもいるよ~!」
「……八王子京太、時間丁度に参上だ」
黒いマントをバサッとはためかせながら登場した京太たち三人、チーム〝京天桃血〟だった。
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