第二章 リアルバトロワ大会〝闘魚〟
初収益
「う、うわああああああ!! すごい額のお金が入ってるよ、天羽さん!!」
「おおおおおおお落ち着いてくださいよ、桃瀬さん……!!」
かおると桃瀬の二人は、YOTUBEから入金された金額を見て衝撃を受けていた。
「あ、天羽さんだって手が震えてない……!?」
四角江町解放戦線が終わったあと、京太たち三人はかおるの家に戻ってきていた。
丁度、そのタイミングで収益化の振り込みも行われたのだ。
なんと、その額――
「こ、高級車が買えちゃう額がポンッと入ったら……そりゃあ手も震えちゃいますよ……」
「VTuberってすごかったんだね……、天羽さん大金持ちだよ……。パーッと使っちゃうの?」
「うへへへ……万年貧乏だった私が大金持ちにですか……。今までは良いことがあった日には奮発して外食――牛丼を食べていたのですが、大盛り……いえ、特盛りでお
「いやいやいや、もっと贅沢にできるよ!」
「もっと……? それじゃあ、ちょっと高いポテチとか買える……」
「な、なんかもっともっと高い希望はないの……? あっ、配信用の何かとか!」
「うっ、配信……ですか……」
配信と聞き、現実を思い出してかおるの表情は渋くなった。
その顔で呪文のようにブツブツと早口で呟く。
「うーん……、配信のクオリティを上げるならハイスペPCやマウスやキーボード、ヘッドホンにASMRマイクやキャプボ、エフェクターなどの機材の更新、外での配信用機材も調達したいかな……。それからイラストレーターさんに各種素材を依頼するための報酬、OPとEDを作るためのお金も必要……。何か企画をやるのならそこでまたお金がかかる……」
かおるは溜め息一つ、その姿を見た桃瀬は色々とVTuberは大変なのだなと悟った。
「これで最後に税金で引かれたり、三人で分けたりすると……」
「えっ、いや、あたしはお金なんていらな――」
「ダメですよ、そこらへんはきっちりとしておきます。桃瀬さんが出ている回は人気なんですから」
かおるがPCで計算をして、それを桃瀬に見せた。
「ザッとこのくらいですかね」
「うわ~……すごい減ったね~……」
「これからの三人の生活費とかも考えても、まぁやっていけると思います……が、大金持ちとまではいきませんね」
「VTuberってお金がかかるんだね……」
「上位の方はオリ曲出して、それにフルアニメーションMVを付けると数千万がポンッと飛ぶ世界ですからね」
「すっご……。ねぇ、京君は知ってた?」
桃瀬は、部屋の隅で壁に背を預けて座っていた彼――京太に話を振ってみた。
しかし、京太は反応しない。
「京君……?」
「あ、ああ。ごめん、聞いていなかった」
「えーっとねぇ……」
桃瀬は意地悪な笑みを浮かべた。
「収益化のお金が入ったから、あたしと天羽さんの二人だけで山分けしようーって話してたの!」
「そうか、好きにしてくれ」
「え~……」
京太の反応は予想以上に薄かった。
「えとえと、それで実はあたしと天羽さんが付き合ってカップルチャンネル? というのを始めようって話になっていて……! ね、あーちゃん!」
「いや、何ですかそれ。しかも、いきなり『あーちゃん』って……。冗談でも、もう少し何かあったでしょうに……」
「がーん! カップル不成立!」
「よ、陽キャの思考はわかりませんね……」
かおるは頭を抱えてしまうが、すぐに持ち直した。
そして、京太の近くへ歩いて行く。
「京太、合流してからずっとそんな感じですが、何かあったんですか?」
「……何もない」
「何もなかったら、そうはならないですよね?」
「……」
「わかりました。もう何があったかは聞きません、話したくなったら話してください。……でも、一つだけ質問をします。正直に答えなければここで解散です」
かおるの強い口調の言葉に、後ろで聞いていただけの桃瀬がビクッとしてしまった。
「あ、天羽さん、そんな急に!? きっと京君だって何か理由が……」
「別に理由があろうと、なかろうと知りません。これは私たちが一緒にいることへの確認ですから」
「よせ、桃瀬」
「京君……」
かおるの言葉に、京太は少しだけ反応を示した。
暗い井戸の底から、反射する月光のように。
「京太、あなたは――
「俺は……」
京太は、渋沢を殺したときのことをフラッシュバックしていた。
男と男のすべてを賭けた戦い、その先に待っていたのは相手の死だった。
渋沢には渋沢の事情があった。
当たり前だが、相手のすべてを斬り伏せての勝利だ。
気持ちなんて考える余裕はなかった。
背負っているものなんて想像もできなかった。
ただのMMOのPVPでも、そこまで考えて戦っている奴なんていないだろう。
だが、現実は違った。
相手を〝
「これ、見てください」
かおるは、京太が次の言葉を発する前にスマホを投げてよこした。
そこには『正義の四天王銃子が主催するリアルアバターバトロワ大会、その名も〝
「決めるのはあなたです」
かおるの覚悟が決まっている声。
脳裏に再生されたのは、死に際の渋沢との会話だ。
『特に正義の四天王は、その〝正義〟で世界へ復讐しようとしている』
『それを……俺に話してどうする?』
『止めてやってくれ……、とは言わないさ。ただ、戦ってきちんと〝正義〟を打ち砕いたのなら、おじさんから〝トロフィー〟を贈呈しよう……』
(渋沢……俺はあんたを殺したことを――)
京太はいつもの復讐者の表情に戻った。
「後悔はしていないさ、これからも目的のために進み続けるだけだ。出場するための準備をするぞ」
――――――――
あとがき
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