幕間 メガネ過激派

「私、京太のことで一つだけ絶対に許せないことがあるんですよ」


 それはまだ京太と、かおるがコンビを組んで数日の出来事だった。

 かおるが家でPC前に座っていて、近くにいた京太のことをギョロリと睨んできていた。


「なんだ? 俺の性格のことか? そりゃ他人なんだから、人間合う合わないくらいは――」

「いえ、そんなくだらないことではありません。私が言いたいのはメガネです」

「……は?」


 かおるが何を言っているのかよくわからなかった。

 突拍子がなさすぎて理解が追いつかず、思考停止でポカンとしてしまう。


「メガネですよ! メガネ! 今の冴えない一般人京太はメガネをかけているじゃないですか?」

「冴えないとか地味なチクチク言葉止めろ」

「それが仮想変身アヴァタライズして背徳天騎士シャドウクルセイダーになるとメガネが消えるじゃないですか?」


 自分ではあまり意識していなかったが、たしかにメガネがいったん消滅すると思い出した。


「ああ、WROでメガネを装備していないから、そうなるだろうな」

「それって、本気を出すとメガネを外すという禁忌じゃないですか?」

「……は?」


 再び、ポカンとした顔で聞き返してしまう。

 コイツは何を言っているのかというので頭がいっぱいだ。


「これを見てください!」


 そうかおるが見せてきたPC画面には、とあるまとめサイトが載っていた。

 メガネキャラが、本気を出したり、魔法少女へ変身をしたりするとメガネを投げ捨てるという演出が並んでいて、メガネ好きたちが嘆き、過激派たちがラノベに対して作者を殺すとヒートアップしている。


「……こわ」

「怖くありませんよ! 私には気持ちがわかります! メガネキャラがメガネを外したら、それはもうただの〝無〟じゃないですか!! つまり京太も〝無〟です!」

「お前、本人の目の前で『お前は無』とか言い放つ神経はどうなってるんだよ……」

「とにかく、京太も仮想変身アヴァタライズしてもメガネを外さないでください!!」


 かおるが唾を飛ばしてくるので、京太は手で遮りながら答えた。


「いや、仮想変身アヴァタライズしてもメガネは外していないぞ……」

「なくなってるじゃないですか?」

「なくなっているように見えるだけだ。実際はつけっぱなしで戦っている」

「み、見えないのに付けてるって……詭弁じゃないですか!?」


 京太は深いため息を吐いてしまう。

 ここは引きこもり生活で鍛えたレスバを披露するしかないようだ。


「じゃあ、かおるは仮想変身アヴァタライズしたら、着ていた服は着ていないということか? 全裸で仮想変身アヴァタライズしているということか?」

「な、なんですかそれは! セクハラですか!?」

メガネハラスメントメガハラしていたお前に否定する権利はない。メガネと人間を同等と扱っての比較だ」

「私はちゃんと仮想変身アヴァタライズすればメイド服を着ているじゃないですか!」

「だが、もし戦闘でメイド服がビリビリに破れたあと、仮想変身アヴァタライズ解除したら元の服はビリビリに破れているのか? 違うはずだ。全裸でもないだろう」

「う……たしかに……」

「それと同じように、見えないだけで俺はメガネをつけっぱなしになっている」


 それでもかおるは納得できないかのように食い付いてくる。


「で、でも! メガネキャラなのにメガネが見えないのって納得できませんよ!」

「それは……心の眼でメガネを見るんだ」

「心の眼!?」

「メガネをかけていないように見えるのに、実際はメガネをかけている。見ようとすれば見えるはずだ、心のメガネが」


 かおるはハッとした表情になり、眼を輝かせた。


「み、見えるでしょうか……私にも心のメガネが……!!」

「ああ、見えるはずだ。今から試してやろう」


 京太はメガネを外してから仮想変身アヴァタライズして背徳天騎士の姿になった。

 メガネをチャキッとかける。


「どうだ、メガネをかけているだろう?」

「本当だ……メガネかかけていますね……!! ――って、それメガネをかけ直しただけなのでは?」

「……」

「……」


 京太は無言で、自分のメガネをかおるにかけてやった。


「ぐわっ! 度つよっ!? って、なんで私にかけたんですか!?」

「いや、何となく」

「何となくでメガネを相手にかけますか!? ……はっ!? もしかして、恋人がメガネをかけっこするみたいなノリですか!? ついに普通の状態の私の魅力にも気が付いて……」

「それはない。ああ、そうだ。今夜はサバが食べたい。目に良いらしいからな」

「え~、サバですか~。でも、京太の食事リクエストは珍しいですね……。仕方ありません、サバの味噌煮を作ってあげましょう! ほら、スーパーに行きますよ、荷物持ち!」


 荷物持ちをさせられるのが確定になったが、先ほどの話を引っ張られるよりは良いので渋々出かける準備をし始めるのであった。

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