7777777
京太は、ただ渋沢に向かって行く。
「目標へ向けて一斉射……撃てぇーッ!!」
飛び交う銃弾、炸裂する砲弾。
すべてを回避していく。
「ウソだろ。何かの間違いだと思ったけど当たってないの? ICBMだってそうだし、兵士も戦車も。こんなもん実際に回避し続けられるはずないじゃん……」
「お前の攻撃も現実のモノではないし、俺ももう現実の人間ではない。アバターだ。当たり判定の最初さえスキル【神一重】で回避すれば、すべて〝回避〟したことになる」
「いや~……あはは。冗談だろう。もしそれが出来たとしても、あんな馬鹿でかいミサイルの着弾を見極めて、ギリギリで回避したってのかい? それも一発勝負だ。今だってアサルトライフルの連射に、見極めるのが不可能な戦車砲による榴弾だぞぉ……ありえねぇ~……」
言われた通り、京太は銃弾砲弾の雨あられの中を無傷で進んでいる。
現実では絶対にあり得ない光景だ。
「慣れている」
「慣れているって、ゲーム内の話でしょ……」
「以前の俺にとってはゲームが現実だった。だから、避けられる」
「もうこれは笑うしかないねぇ……」
「俺にとっての
「単純だから、強い……ってもんかね。だけど、ゲーム内での性能ならこっちも負けちゃいない。最高の堅さを持つ、このボクというユニットを倒すことはできないからねぇ! それこそICBMを食らっても倒れはしない、最終DLCのバランスブレイカーさ!」
京太は聞く耳持たずに進む。
進む先には兵士や戦車が待ち構えている。
「スキル【神一重】・【天撃】」
「話を聞いてないのかなぁ……。京太くんの天撃とか、その程度じゃ前のボクの装備でも――」
「【大天撃】」
「ああ、そういえばあと何回か連続スキルで使えるんだったね。でも、二倍とか三倍じゃ無駄無駄」
「【権天撃】・【能天撃】・【力天撃】・【主天撃】――」
「……えっ、ちょっと待って……。そんなに続くの!? 大天撃が二倍、権天撃が三倍だから……。ヤバいヤバいヤバい、回避できない背後から攻撃しても、後ろに目があるかのように避ける!?」
「【座天撃】・【智天撃】――」
「この並び……そうか、天使の階級! それなら最上位の熾天使――熾天撃で止まるはず! もしかしたらギリギリ耐えられ――」
「【熾天撃】――」
現代に伝わる天使の階級は下から天使・大天使・権天使・能天使・力天使・主天使・座天使・智天使・熾天使となっている。
渋沢の予想通り、次の攻撃は天使の最上階級である熾天使を模した【熾天撃】だった。
だが、その一撃は渋沢の前に立ち塞がっていた鋼鉄の戦車を、熱したナイフでバターを切断するかのように簡単に斬り裂いただけだった。
「おいおいおい……前座の戦車に〝それ〟を使ったってことは、まだ次が――」
「アルティメットスキル発動【悪魔が与えし七つの致命的な愉悦――SEVEN――】」
効果、7秒間与えるダメージが7倍になり、77秒間受けるダメージが7倍になる。リキャスト77時間。
7777777という不気味な数字が周囲に浮かび上がる。
大罪背負いし〝
「こんなの耐えられるわけが無――」
「これが俺の
ただの大剣の一振りに込められた、信じられない攻撃力。
恐ろしい程のデメリットを糧に、強化に強化を重ねた狂気の塊。
たしかに渋沢の装備は〝最強〟だった。
だが、それは普通の〝最強〟だ。
初めから命を投げ捨てた〝最狂〟の前には敵わない。
渋沢が装備していた近未来的なパワードスーツは、神撃一刀のもとに斬り裂かれていた。
***
「いやぁ……強いねぇ……京太くんは……。おじさん、気持ちでも負けちゃってたよ……」
「情報を話せ、そうすれば治療を――」
「……うんにゃ、情報は話さない。それに潔く退場したい気分なんだよ」
血溜まりの中に倒れながら、タバコを一服する渋沢。
その表情は清々しく、どこか満足げだった。
明らかな致命傷を受けた男の表情でない。
「……んふふ。嫁が妊娠したときから禁煙してたんだけど、最期だからおじさん吸っちゃった」
「なぜだ……なぜ……渋沢、お前は……」
まだこの男には聞きたいことが沢山ある――しかし、溢れ行く砂時計のように、流れる血が終わりを告げるようである。
「なぜ……かぁ。それは何に対してかなぁ。ああ、アレか。用意周到に下調べと準備をしていたはずのボクが、公開されているキミの職〝背徳天騎士〟のスキルで驚いたことかい?」
そんなことはどうでもよかった。
だが、渋沢は話しておきたかったのだろう。
「キミ自身のことは興味を持って調べたけどさ……、それ以外はあんまり事前に知りたくなかった。古い人間で、映画のネタバレとか嫌いだしねぇ……」
「そんなことが……自分の命よりも大事なのか……?」
「おっさんゲーマーだから、そっちの方が京太くんとの戦いを最大限楽しめると思ったのさ……」
心底呆れてしまう。
「馬鹿な奴だな……お前も……。俺も……」
心底共感してしまう。
ゲームに魂を込めた者同士にしか分からない、不器用で不細工で不格好な
「それにねぇ……、おじさん、止めてほしかったのかもしれない」
「そんな状態なのにまだ語るのか? いいだろう、俺がやったんだ。最期まで話し相手になってやる」
「何も好き好んで冒険者ギルドに入って、こんなことをしているんじゃない……。娘の――
「そうか、渋沢は妻子持ちだったな」
「八角はこの世界がおかしくなる前から、その影響を個人で受けていたレアケースだ……」
「この世界がおかしくなる前からだと……?」
京太は驚いた。
そんな情報、ネットのどこにもなかったからだ。
普通なら大騒ぎになっているだろう。
「京太くんが知らないのも無理はない……。
インターネットによる悪意ある炎上。
その中の一つに渋沢の娘である八角もいたのだろう。
「それが原因で家庭はメチャクチャ、妻とも離婚して娘とも離れ離れ。ボクはネットの世界からも引退していた。もう人間の悪意を感じたくなかったからね……」
「渋沢……」
「そして、世界が変革を起こしたあとに房州さんからスカウトされたんだよ。最初は乗り気ではなかった。でも――この世界なら娘の治療方法があるはずだと言ってくれてね……参加した」
「それなら娘のためにも生き――」
「ボクが死んでも、それは継続してくれるさ」
「それならどうして……」
「ふふふ……耳ざわりの良い言葉だけを先に言ってしまったかなぁ。本当のところ、世間への復讐がボクの参加理由だったのかもしれない」
渋沢は自虐的な笑みを見せていた。
「房州さんから聞かされたのさ。一部の政治家は娘のことを知っていて隠蔽していたんだとさ……。この世界のモノではなくなってしまった娘のことを世間に公表したらパニックになるってね……。そんなくだらない理由で家族は――娘は地獄のような日々を送っていたんだ……」
「……そうか、それでお前は……」
「そんな奴らに世界は任せておけない、神に愛された房州さん率いる冒険者ギルドなら……。って、思ってる奴らが集まっているのさ。特に正義の四天王は、その〝正義〟で世界へ復讐しようとしている」
「それを……俺に話してどうする?」
「止めてやってくれ……、とは言わないさ。ただ、戦ってきちんと〝正義〟を打ち砕いたのなら、おじさんから〝トロフィー〟を贈呈しよう……」
「地獄からトロフィーを贈られても困るがな」
「まぁ……そう言いなさんな。――ああ、色々と話せたらすっきりした……」
渋沢は憑き物が落ちたかのような表情で、力なく言った。
「戦略シミュレーションゲームに捧げた人生、ろくなもんでもなかったけど割と楽しめたよ……。じゃあな、京太くん。また会おう……」
「ああ、復讐を遂げたら地獄へ会いに行く」
HPが0になったのか、渋沢の
もう彼は動かない。
よく回る口も開かない。
これが復讐というモノなのかと思いながら、それでも後悔のない京太はその場をあとにした。
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