なおみ ブルーベリー
瀬戸はや
第3話 なおみ ブルーベリー
朝食で出たブルーベリーはよく冷えていてすごく甘かった。
「朝どれのブルーベリーです。」
Yは朝が苦手なので ぼんやりとしていた。頭を下げて軽く会釈をしたと思ったけれどよく覚えていなかった。なおみは旅慣れているのか、パールグレーのスウェットをうまく着こなしていた。なおみはお洒落ではなかったけれど、お値打ちに買った服を上手に着こなしていた。いつもそつがないと言うか、目立たないけれど 嫌味がなくて似合っていた。おしゃれにはすごく興味がある年頃なのに、お金をかけずにうまく着こなしている。
きっと 頭がいいんだろう。なおみは何をするにもそつがなかった。どんなことでもうまくやっていけるだけの器用さがあった。これはなおみが持って生まれた才能なのかもしれない。なおみがすることは、全て大げさでなくそつがなく気が利いていた。きっと職場でもそうなんだろう。なおみのように若くて気が利いていて仕事もできる子はどこの職場へ行っても重宝されるだろう。特に 資格や経験がなくても若いというだけで 大事にされるし、就職のできる職場も多いんだろう。そして何年かするうちに結婚をしたりしてその職場からいなくなって、職場の循環と言うか社会の循環に役立っているんだろう。そういう人間をこの国の社会は必要としているんだ。若い子が必要なのは何も時間をかけて育てるためばかりではない。ただ若いというだけで世の中が必要としている部分がある。
「朝食にはいつも ブルーベリーがいいね。」
「美味しかったね。目にもいいって言うしね。」
僕たちは お土産にブルーベリーを買おうと思って店に出かけた。ブルーベリーはだいたい の店で売っていた。小さな瓶に入ったジャムでそれなりに高かった。ブルーベリーは夏の高原 ならどこででも売っている感じだった。はちみつはブルーベリーよりもっと高かった。土産物屋 だから かもしれない。はちみつもブルーベリーもお土産として買うのはやめにした。いつもと同じ蕎麦にしようと思った。信州に旅行してそばを土産に買う。実に何でもなくてよかった。
信州に来ても何も買いたいものはなかった。この風景と空気と水と白樺と何一つ持って帰ることはできなかった。お土産はもらったら それなりに嬉しいけれどそれ以上のものではなかった。
「私 お土産 なんか買わなくていいと思ってる。」
「そうだね お土産 なんか買わなくていいよ。」
よく晴れた夏の1日のこの美しさ を、どうやっても持ち帰ることはできなかった。
日差しはどこまでも 透明で透き通っていた。よく晴れた夏の 日でなければお目にかかることはできない 1日だった。隣にいるのがなおみであることはもちろん 幸運であることには違いなかった。だがそれ以上でもそれ以下でもない、そんなものだった
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