第7話 季節は進み

季節は進み、秋が過ぎて、凍てつく冬がやってきた。

風の強い日は外に出るのが億劫になる。僕もなおみも部屋の中で グズグズしていたい方だった。

「コンビニ でなんか買ってきて食べようか。」

「うん いいよ。」

最近のコンビニには下手なレストランで食べるより美味しいものが置いてある。メインの料理も凝っていたが、デザートの類も豊富になった。最近 じゃあ 近所のコンビニと部屋を行ったり来たりするだけで全ては片付いてしまう。

映画 も 映画館に行かなくても、近所のレンタルショップで済んでしまう。

でも、お天気はそうはいかなかった。出かけようとしても平気で雨が降る。冷たい風が出かける気持ちをなくさせる。お天気だけは自分の思うようにはならなかった。明日は出かけるから風の吹かない 暖かな天気にしてください と思っても、そうはならない。少しぐらい不自由なものがあった方がいいのかもしれない 。何でもかんでも自分の好きなようにできてしまうと、きっと 人間はもう好きなものなどなくなってしまうだろう。

神様は、よくわかっていらっしゃる。何でもかんでもできてしまうということは、何もできないこととほとんど同じだということを。何でもできるようにしてしまったら、きっと祈ることもなくなってしまうからだろう。人間は間違っても 神にはなれない。だから祈るしかなくなるわけだが、だけど 祈ってうまくいった事ってあるんだろうか?

どうか嫌いにさせないでと、祈ったところであまりうまくいくとは思えない。どんなに好きな相手でも、ずっと好きでいるのは無理だ。いつかは好きでなってしまう。それはもう いろんな理由で。この世のありとあらゆることが、ずっとを簡単には許してくれない。

3年目が過ぎたころなおみから返事が来なくなった。僕たちはその頃 ポケベルで連絡を取り合っていたが何度メッセージを打ってもなおみからの返事は来なかった。仕方がなくなおみの 自宅に電話をして、親に代わってもらった。そして別れを告げられた。

ずっと なんてない。分かってた。でもまさかこんなタイミングで別れることになるなんて思ってなかった。


なおみと別れて5年が過ぎた。

家の電話が鳴った。受話器の向こうの女の声に聞き覚えがなかった。

「どなたですか?」

「私だけど覚えてない?」

記憶をたどった。本当に思い出せなかった。

「どちら様でしたっけ。」

「なおみです。」

「…あぁ。」

こんな声だったのかなぁ。忘れようとして、最後まで しつこく 忘れられなかったのがなおみの声だった。他のことは意外に早く忘れられたのに、声だけが いつまでもしつこく忘れられなかった。その声も 全く忘れてしまった頃に電話が来た。

会うことになった。なおみは車を持っていなかったので、駅の近くのスーパーの入り口辺りで待ち合わせをした。

自分でも意外なことにすぐになおみだとわかった。こんなに 背が低かったっけ。なおみはもっと背が高いと思っていた。

「わたし結婚したのよ。」

開口一番 なおみはそう言った。

「へー そうなの知らなかったな。」

何度かあって食事をしたりお茶をしたりした。

なおみは 一宮の方に住んでいると言っていた。


「旦那が、家を作ったのよ。家なんかいらないって言ったのに。」

「大したもんじゃないか 30まえに家を作っちゃうなんて。」

「見栄よ。同期の友達がみんな 作っちゃったから自分も作らなきゃいけなかったのよ。」

「それにしたってすごい もんじゃないか 家を作っちゃうなんて」

「ローン返すの大変よ。」

「そうか大変なんだ。」

「35年ローンよ。」

僕にはよくわからなかった。

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