なおみ

瀬戸はや

第1話 出会い

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25〜26歳だと思った。メイクもしっかりしているし、大人っぽかった。着ているテニスウェア もなかなかセンスが良くて、好みのタイプだった。男ばかりの職場で手頃な女な子もいなくて僕は当然 彼女もいなかった。

どちらからということもなく、僕たちは付き合いだした。2次会で行ったカラオケハウスでなおみはその頃流行っていたアイドルのものまねをしてくれた。よく似ていた。上手だった。

僕は週末が来るのが待ち遠しくなった。休みの日だけじゃなく、平日も仕事が終わってからすぐ彼女に会いに行った。車で1時間、夜の道ならそれぐらいあれば彼女の家に着いた。

いつもなら 仕事が終わったら ぐったりだったのに、全く疲れを感じなかった。

夜の仕事が終わって彼女の家に着くともう10時を過ぎてしまっていた。彼女を車に乗せて あてもなくドライブした。と言っても夜の10時過ぎてからのことだからそんなに遠くには行けなかった。結局いつも同じ場所、港の見える公園の近くの駐車場に車を停めて話をしていた。というより ほとんど彼女と抱き合っていた。若い彼女は柔らかく、すべすべ としていて、いい匂いがした。フロントガラスの向こうには真っ黒の夜の海があるばかりだったが、そんなことは気にならなかった。ただ 人目が気にならない場所に2人で行きたかっただけだった。

僕は彼女に胸を触らしてくれないかと頼んだ。彼女は快くブラジャーまで外してくれた。彼女の胸はまだ小さく、ちょうど手のひらに乗るぐらいの大きさだった。

真冬の夜の港の駐車場は凍えるように寒く、服を脱ぐなんて考えられなかった。なおみは迷わず服を脱いだ。下着まで取ったから上半身は上着の下は裸でまだ若い胸の皮膚は薄く、滑らかな肌は驚くほど柔らかく触り心地がとても良かった。男はどういうわけか 女の柔らかな部分が好きだ。柔らかな部分に触っていたいと思う。そういうものだ。


直美は指もとても綺麗だった。僕は指が綺麗な女性が昔から好きだった。細く長くて、少し強く握ると骨まで柔らかいのかと思うほど柔らかに僕の手に従った。直美は綺麗な子だった。大きな二重の目は、なおみの持ち物の中でも最も美しい部分の一 つだった。僕はそれが可能ならなおみの目を取り出して、口に含んでしまいたいと思うほどだった。なおみは鼻の形もとても良かった。綺麗な鼻をしていた。でもなおみの持ち物の中でも一番美しかったのは、桜色の唇だろう。僕は初めてなおみを見た時からキスしたくてしょうがなかった。女性の唇を見てあんなにキスしたいと思ったのは直美が初めてだった。ぱっちりとした二重の目は美しく、鼻も唇も指もなおみの持ち物はとても美しいものばかりだった。しかも そのほとんどは 口に含むことができた。だから僕は どうしても口に含むことをやめられなかった。彼女は時々嫌がったが、僕はどうしても口に含むのを止めることができなかった。


付き合い始めて1週間ぐらいが過ぎたころ居酒屋のテーブル席に座りながら、なおみ が言った。


「ねえ、わたしたちって付き合っているのかなぁ。」

僕はなおみがどんなつもりでこんなことを聞いたのかわからなかった。

「そうだろう、そのつもりだけど。」

「ふーん。 そうなんだ。」

「何かご不満でも。」

「別に不満なんかないよ。聞いてみたかっただけ。」

僕たちの恋愛はこんなふうに始まった。

なんか妙な感じだった。 ここから始まるよと言って恋愛がスタートするわけじゃない。気づいたら自然に始まっているそんなもんだと思っていた。僕はてっきりなおみもそうだろうと思っていたが、そうじゃないのかもしれない。なおみは僕と付き合っていることに不安を感じていたのかもしれない。なおみが どこにどんな不安を感じているのかわからなかったが、その頃の僕にはどうすることもできなかった。


「なんの会社に勤めているの?」

「アパレルよ。」

「なんだいアパレルって?」

「知らないの?洋服とかを作っている会社よ。」

「洋服…。」

「だからね社員だと2割引で買えるのよ。どんな服でもいつでも2割引で。」

Yはピンと来なかった。2割だったらそんなに安くもないんじゃないかと思った。なおみは随分お得 みたいに言うけれど、半額ぐらいだったら安いと思うけれど、2〜3割じゃあ、そんなに安くないなと思ってしまった。


なおみは話すことが好きな子だった。同僚の中で特に仲がいいのはデザイナーの娘と、なおみと同じように 売り場で働いている同期の女の子たちだと言っていた。


「みんな モテるのよ。特にデザイナーの子はものすごくモテるの。綺麗だし、スタイルもいいから。それにいつもおしゃれだしね。」

デザイナーのその子はなおみより3歳年上だそうだ。

「なおちゃんだってモテるだろ。」

「私なんて全然よ。」

「同期の子たちはみんな可愛くてスタイルいいからモテモテよ。」

あの子たちだろ 一緒に来てた。

僕は正直言ってそんなにモテルのかよく分からなかった。3人はいつのまにか 車の横まで来ていて、僕のことを観察していた。

どうやら直美が同僚の仲間たちを連れて来ていたらしい。

女の子たちは黙って 僕のことを見ていた。あからさまな見方に 僕は少々 戸惑っていた。

女の子は付き合う相手を友達に見せたりするものなんだろうか。

自己紹介をするというのもおかしいし 僕はなんとなく困った顔をして頭をかいていた。


「いいじゃんいいじゃん。思ったよりずっといい感じよ。」

「なおみのこと 大事にしてあげてね。」

彼女たちは なおみのために色々言っていた。僕は何と答えたらいいのかわからなかった。

彼女たちはひとしきり 僕のことをいろいろ言って去って行った。社会人と言っても 高校を卒業したばかりの子達でほとんど学生そのままだった。


あの一番背の高い子がデザイナーさんよ。なおみと一番仲がいい子らしい。

僕は別に知りたくもなかったが

「へーそうなの。」

「デザイナーさんねぇ、不倫しているんだよ。本部の課長と付き合ってるんだって。」

僕はどう答えていいのかわからなかった。


「そうなんだ。」

「なおちゃんも不倫とかしてみたいの。」

「いや。私は絶対にいや。」

「興味があるのかと思ってた。」

「ないことはないけど。でも自分ではそんなことしたくないわ。みんな結構不倫してるのよ。」

「そうらしいね。俺の友人も言ってたけど 友人が住んでるマンションの8割ぐらいが不倫してるんだってさ。」

「そんなに!」

「8割も不倫してたらなんか興ざめだよね。」

「きっと他にすることがないんだろうな。」

「そんなもんなのね。」

「そんなもんさ。」

不倫も今じゃ珍しくもないことになってしまったのかもしれない。不倫も日常的なものになってしまったのかもしれない。

恋も色あせて慣れてしまえば、何でもないものになってしまうのかもしれない。もう恋でさえない。何もかもそんなものなのかもしれない。恋も不倫も日常のものになってしまえばもう何でもなくなってしまう。

全てのものが時の前では無力なのかもしれない。


初めに舌を入れてきたのは、なおみの方だった。

僕は初めてのことだったのでびっくりしてしまって何も抵抗できなかった。何度目かのデートでなおみを家まで送った時だった。もう遅いからちょっと話でもして帰ろうかと思っていたのに…。

ディープキスが終わるとなおみはさっさと車から降りてしまった。僕は今起こったことが理解できなくてぼーっとしていた。なんでなんで、いきなり舌が入ってくるの?19歳の女の子なのに、いや 19歳だからだろうか。何にしても順番が違う。

僕はしばらくの間初めてのなおみの舌の感覚に支配されていた。これは一体何なんだ。なんでこういうことになったんだろう。なおみと初めてデートをした後送っていた時になおみと抱き合ったのはよく覚えている。あの時はこんな問題はなかった なおみも僕と同じで、ずっと相手を探していたんだなと素直にそう思えた。だが舌は違った。いきなり このタイミングで舌はなかった。そっと抱き合うか、強く抱き合うなら問題はなかった。ただ舌は考えになかった。ただただ びっくりした。このタイミングで舌はないでしょう。

まだ2〜3回あっただけなのに…僕は大変に混乱していた。

池の近くに住んでいた同僚の子に初めて おちんちんを銜えられた時ぐらい驚いていた。

なおみはどうしていきなり舌なんか入れてきたんだろう。

デートが終わって静かに夜を迎えようという時に舌なんか…。

今時の若い女の子の間ではそういうのが流行っているんだろうか?静かな夜にはふさわしくないし、デートが終わったところでやるキスじゃない。あんなことされたら男は静かに夜を送れない。もうただのキスじゃない。もっと違う意味を持ってしまう。これから家へ帰って一人でどうしろって言うんだ。そんなキスをデートの最後にした直美に責任を取ってもらいたかった。静かで優しいキスもあるけど、これはそんな生易しいキスじゃなかった。俺は眠りかけていたものをたたき起こされてしまった。可愛い顔して えげつないこと してくれるよなぁ。


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