第34話 好きな人

長い移動の車内の中、くだらない話でしばらく盛り上がっていた。


光君が急に結婚について話題をふってきた。


「お二人は好きな人と結婚したんですか?」


一瞬で社内が静かになる…。

すると大輝が口を開いた。


「そうだな。俺はめちゃくちゃ好きな人と結婚したよ。」


「そうなんですか?すごいな、両想い。」


「んー、光君だからぶっちゃけて喋るけど、両想いじゃなかったんだ。しかもわりと最近発覚したというか。」


「えっ?えっ?」


「だよな。え?だよな。俺もそうなった(笑)嫁が友だちと電話で話してるの聞いちまってさ。ハッキリ言ってた、好きじゃない人と結婚したって。」


「なんと申し上げていいのか…。」


「大丈夫。もう直樹に話し聞いてもらって慰めてもらって復活した。そもそも付き合うまでも何度も断られてたし、薄々何で結婚してくれたのかな?って疑問もあったし。」


「男女って複雑ですね…。」


「そうだなー。相手の本心は一生わからないかもな。ただ目の前にある事実だけ見て生きていく方が幸せなこともあるな。俺は好きな人と結婚できて一緒にいられるっていう事実があるわけで。どうして結婚してくれたのか?なんて考えるだけ無駄かもな。」


「僕、大輝さんは何でも欲しいものを手に入れてるリア充だと思ってました。家族もあって、直樹さんみたいに素敵な親友もいて。」


「ある意味当たってるっちゃぁ当たってる(笑)」


「直樹さんも好きな人と?」


「え!?俺?俺の話はいいよ。俺非モテだし全然。」


「えー?でも結婚してお子さんもいらっしゃるじゃないですかっ。教えてください、ぜひ。」


「教えてやれ、直樹。隠すこともないだろ。こじらせオヤジ。」


自分のことを好きって言ってくれて結婚してくれって言われたからしたなんて言えない…。

未だに妻を本当に好きな人って言えないなんて。


え?でも俺、何で光君に言えないんだろう。

何でだろう。

だけど光君に嘘は言いたくない。


「今から話すこと聞いてもひかないでもらえる?」


「はい、もちろんです。」


「俺は…俺は本当に好きかどうかわからないまま流れで付き合って、そのまま結婚したんだ。結婚も妻からプロポーズされた。」


「なーんだ、そんなことじゃ全然ひきませんよ(笑)。だって直樹さんすごく魅力的ですから。

奥様の気持ちわかります。それに一緒になってから好きになるパターンもありますしね。」


「…。」


「え?僕何か変なこと言いましたか?ごめんなさい。」


「いや、違うよ、違うんだ。もう長いこと一緒にいるけど、この前気がついちゃったんだ。俺、本当に好きな人って感覚がわからないんだ。未だに妻のこと好きかで聞かれるとハッキリそうだ!って言えない。

俺は自分の気持ちを深堀りしてこなかったから。

その他大勢と同じことしてればそれが幸せのカタチなんだってアホみたいに疑うこともなく、ただ来た流れに乗って生きてきちゃったから。」


「…。」


だよな、さすがの光君もドン引きだ。

自業自得。

でも嘘をつくより何倍もいい。


「おい、直樹、なにか飲むかー?俺さっき三人分飲み物買っておいたんだぞ。どうだ気が利くだろ。」


大輝がいてよかった。


「ありがと。コーヒーがいいな。」


「よし、おい、光、キャップ開けて渡してやって。」


「あっ、はい!もちろん。ちょっとお待ちくださいね、はいどうぞ直樹さん。」


「ありがと。」


行きと同じだ。

光君の手が優しく俺の手の甲に添えられる。


ん?

光君が添えた手の圧力が少し強くなる。

しかもその手を離さない…

一体これはどういう…


「あの、何て申し上げていいか適切な言葉が見つからないんですけど、僕も同じです。まだ誰も好きになったこと無くて。他人に興味がもてなくて。」


そう言うと、俺の手が開放された。

俺は渡されたコーヒーを一口飲んで運転席のドリンクホルダーに置いた。

俺より先に大輝が口を開く。


「光は何飲む?若者向けに炭酸もあるぞ。」


「大輝さん、さっきからシレッと呼び捨て定着してますけど。」


「良いじゃねぇか。俺このメンバー気に入ってんだ。呼び捨ては愛情表現だ。有り難いだろ(笑)」


「有り難いだろって、大輝さんて俺様気質ですか?(笑)」


「んなわけ無いだろうがっ。ほらっ、袋ごとやるから好きなの取れよ。」


「雑ですね、もうっ。でも、ありがとうございます。僕レモンティー頂きます。」


「おうよ。光はどんな女の子がタイプ?」


「んー。僕は性別関係ないかなって今のところ思ってます。僕の心が動く人に出会えたら、その人が好きな相手なんだろうなって。」


「え?性別関係ないって、男も対象ってこと?」


「そうですね。」


俺は大輝と光君の会話を聞きながら汗が噴き出す。

全身の神経が過敏に反応している。


「そうかそうか。光は自分の心に素直で非常に素晴らしい。俺は気に入った。」


「褒められてるのになんかイヤです、上から発言な感じが(笑)」


「そう言うなよ。俺、不器用だから言葉のチョイスはご愛嬌でっ。」


「あの…、さっきから直樹さんがダンマリで僕、悲しい気持ちです。」


光くんの一言で我に返る。


「ごめん、ごめんな!違うよ。大丈夫!」


「大丈夫って何ですか?僕のこと気持ち悪いって思ってますか?」


「いや、違う。そんなこと全然思ってない。思ってないから。ホントに。」


「え?じゃあ今日が最後のお出かけになったりしませんか?」


「しないよ!」


「ハハハハッ。直樹、急に声デカっ!大丈夫だ光。直樹はちょっとパニクってるだけ。今まで性別関係ないってヤツに接したことないから。ま、俺もだけど。でも俺も直樹もそんなことで離れないから安心しろ。おっさんは懐が深いんだぞ。」


「おじさんだなんて。僕お二人のことそんな風に感じたこと無いです。なんなら大輝さんは僕の弟と同じ精神年齢に近い気すらしてますが。」


「おぃっ!それはあんまりだろ。上げた飲み物返せ。」


「フフッ。そういうところですって(笑)ね、直樹さん。」


「う、うん!そうそう。大輝は子どもっぽいところあるよ。でもそこが良いところ。」


「だろ〜。さすが直樹、俺のことわかってる。」


「親友だからなー。」


「よし!光、まだ着かないから今度の行き先候補でも検索しようぜ。」


「そうですね。あ、でも直樹さん本当に大丈夫ですか?」


大輝のおかげで少し心が落ち着いた。


「うん、ぜひ。二人で仲良く相談してて。」


一瞬視線を光君に移すと、光君はすごく嬉しそうに隣で笑っていた。











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