第27話 モヤモヤの正体

 あれから自分の中に現れた正体不明の感情が何なのかわからないまま一週間が過ぎた。


その間、光君から連絡はない。

朝起きたとき、仕事の昼休み、仕事の帰り、

光君から連絡が来ていないかスマホを気にしてしまう。


なぜ気にしてしまうのかは分からない。


これはもう早めに大輝と会わないといけない。

そんな風に思った。


大輝と今日の夜会うことになっている。

光君は?と聞かれたが、今日は二人がいいと伝えた。


待ち合わせの店に着くと大輝がいた。


「おぅっ!お前ほんと変わったよな。お前から誘ってくれるなんて嬉しいぞ。」


「そ、そうか?まあとりあえず奥の席行こう。」


そう言って、落ち着いて話せそうな奥のテーブル席に座った。


「で?何かあったのか?」


「いや、その…。」


「何だよ、もったいぶらずに話せよ。」


「…。光君のことでちょっと。」


「!?光君がどうした?何か嫌なこと言われたのか?」


「違う違う!光君はそういう種類の人間じゃないから!」


「急に大きい声だすなって。ビックリするわ。で?光君がどうしたよ。」


「…。大輝、俺が今から話すこと笑わずに聞いてくれるか?」


「もちろん。真面目に聞くよ。」


「ありがと。光君と会うようになってから俺、変なんだ。何ていうか、光君といるといちいち感情の動きが激しくなって。食べてる姿見て可愛らしいなと思ったり、美味しいもの教えてやりたいって思ったり。」


「それのどこが変なんだ?直樹は人見知り・こじらせおじさんだから、初めて若者の友人ができたからしゃないのか?年下だから弟?なんなら孫を可愛がる感覚に近いんじゃね?感情が激しいと感じるのは緊張のせいだろ。」


「それもそうなんだけど…。それだけじゃない気がして。その、光君が俺の白髪を見るのに頭に触れたことがあって。そのとき恥ずかしい気持ちと、なんか嬉しいっていうか、あったかい気持ちがしたっていうか。その日から光君が気になるようになっちまって…。連絡来てないか気になったりしてて。」


「…。」


「俺のこと気持ち悪いと思うならそう言ってくれよ。お前がおかしいって言ってくれていいから。」


「なぜそうなる。そんなこと全然思ってない。直樹はそうやって自分は他人から悪く見られてること前提にすんの良くないぞ。俺はお前の話を頭で整理してただけだ。」


「いや、だって俺昔から誰からも好かれないから。」


「ほらまた。じゃあ目の前にいる俺は何なんだ(笑)俺はお前が好きだからずっと親友なんだろ。誰からもじゃないんだよ、まったく…。」


「俺も大輝は唯一の大事な親友だと思ってる。言い方悪かった。」


「まぁまぁ、それはいんだけど。今の時点で無責任にハッキリとしたことは言えねえけど、俺の経験で言わせてもらうと恋に近いんじゃねぇかな。今直樹が話したことって、俺が異性を好きになり始めるときの感じに似てる。ただ、さっき俺が言ったように弟、孫とかに抱く感覚かもしんないし。今のところどっちなのかは分かんねぇ。」


「え?待って。待って。

    恋って、なにそれ。」


頭が混乱する。


「そうか、直樹にはそこから噛み砕いて話さないとな。恋愛感情なのかもって話。直樹に欠落してる感情だ、多分。この前も言ったけど本当に好きな人に出会ってないかもって言ったよな?」


大輝の話がうまく入ってこない。


「まぁー、いずれにしてもまだわからんってこと。今結論出す必要ないし、このまま光君と一緒に過ごしていけば自然にわかるときが来るよ。焦るな。」


「え?でも、もしそれが…恋愛感情だったとなったら相手は男だぞ?俺おかしいだろ。」


「なんでそう決めつける?相手の性別なんて関係ないと俺は思うぞ。そう思える人に出会えたならそれは良いことだ。」


「大輝、俺キャパオーバーだ。今聞いたことを全部消化しきれない。」


「そりゃそうだ。物心ついたときから自分の相手は異性だと思って生きてんだから。それがこの年になって同性に惹かれることもあるかもしれないと思ったら混乱するよ、俺でも。だけどこの年齢だからこそ、そんな新しい自分を発見できたならそれはそれでわくわくするかもしんない。」


「そんな、人ごとだから…。」


「いや、俺は真面目に言ってる。せっかく自分の中に湧いた気持ちに蓋をする必要はないよ。それにまだ直樹は自分の気持ちを探ってる最中だろ?いずれにしても結論見つけるのはまだはやいし無理だろ。もう光君とは会わないつもり?」


「それはない!」


「ハハハハッ。いいぞ直樹。昔のお前なら沈黙のところを即答してやがる。成長してるな。」


「笑いごとじゃねぇよ…。でも大輝と話したら少し落ち着いた。」


「良かった。じゃあ光君とはこれまで通り会うんだな。それがいい。」


「ありがとう。また何かあったら相談していいか?」


「もちろんだ。お前から相談ごとしてくれて、俺はすごく嬉しい。直樹が頼ってくれるのは初めてだからな。ヘヘッ。」


「やめろよ、こっちが恥ずかしくなるだろ。」


二人で笑った。

この気持ちの正体をつきとめるのはまだ先になりそうだ。

でも、今度こそじっくり自分の気持ちと向き合いたいと思った。





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