ラスノート truth is (not) the end of life
空色凪
第1話 彼岸と此岸
世界皇帝ザイン・ノクシスは宮廷哲学者であり、法の最高智慧者である尊者マハトマ・ラッカ・レーラインに問う。
「尊者ラッカよ。私が死んだら私はどうなるのですか? 死んだら無というように私も無に帰すのでしょうか?」
ラッカは答えます。
「王よ、あなたには二つの道があります。一つはアートマン(魂)を保持したまま輪廻の輪に帰ることです。この場合あなた様は今世で為した行為のカルマにて生まれ変わるのです。再び人に生まれ変われるかどうかは私にはわかりません。また、もう一つの道は真なる智を身に着けて、輪廻の輪から去ることです。この場合輪廻しないのですから、天界にて目覚めることになるでしょう」
尊者ラッカの答えに世界皇帝ノクシスは眉をひそめて聞き返す。
「尊者ラッカよ、天界も六道輪廻の中ではないのですか? 死んで悟り、輪廻の輪を解脱しても涅槃には至らないのですか? 終わりではないのですか?」
ラッカは答えます。
「王よ、私の申し上げた天界というのはこの世界を此岸と呼ぶところの彼岸でございます。第三世界と呼ぶ者もおります。仏は1劫の時間の中では千人現れます。逆に言うなれば、この世界は人々が千人の仏の座を競い争っているようなものなのです。成住壊空の四劫の中で千人です。何故ならこの円環こそ宇宙なのですから」
ノクシスは腑に落ちないように首を傾げる。
「では、私は仏に至れるのでしょうか? 私は世界永遠平和のために多少の血を流すことも覚悟で世界国家オリエンスを築きました。そんな私には罪のカルマがあるので、悟り、解脱することは能わないのでしょうか。尊者ラッカよ、あなたは仏に至っているのでしょうか?」
ラッカは答えます。
「カルマは簡単に解消できます。あなたの記憶を書き換えてしまえばよいのです。あなたはあなたの持つ知識によってのみ解脱が可能でございます。ならば、世界永遠平和を実現したカルマに注目すればいいではありませんか。また、王よ。私は確かに三度仏に至っています。ですが今は人間です。中道によって、苦行でも欲でもない真ん中の立ち位置で悟りを表出しようとしているのです。それは言葉の限界に挑戦するようなものです。数ある仏典にはそのヒントが散りばめられては、いますが、実際に仏に至るには自己愛によらねばなりません。自分だけで成し遂げなくてはなりません。王よ、あなたが仏になりたいというのなら、眠らずに幾夜を越えるほどの歓喜が必要でございます。あなた様ならその権能できっと成し遂げることができましょう」
ラッカの導きに、ノクシスは「ありがとう」と告げると続けた。
「中道によって悟り、解脱し、涅槃に至る。今の私は雲が晴れ渡ったかのような心地だよ。尊者ラッカよ、ありがとう。褒美に何が欲しい?」
「では、離宮に庭園を築く許可を頂ければ幸いです」
ザイン・ノクシスはラッカの申し出を快諾した。
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