第八話

今日こそは仲直りしよう。


そう思って家を出た矢先のことだった。


「おはよう、涼太」

「……佳織……おはよう」

「どうしてここに、って顔してるわね」

「……まぁ、それ以外思うことないしな」


なぜか目を少し腫らしている佳織。容易に泣いたのは想像できるが、その理由を涼太が知るわけもなかった。


「まずは、ごめんなさい……この間は一方的に追い返してしまったわ」

「あぁ、俺も悪かったよ。あの後すぐに謝りに行かなくて……」





「……やっぱり、わかってないわね……」


小声で佳織が呟くも涼太は聞き取れなかった。しかし追求することはしなかった。


「それともう一つ」


な、なんだ。やけに迫力というか、覇気みたいなものを感じるぞ……


「昨日の女の子、だれ?」


ぞくりと背筋を何かが這うような感覚。涼太は震えながら声を絞り出す。


「あ、あぁ……間宮のことか」

「へぇ……間宮って言うんだ。どこの学校?」

「し、しらん」

「本当に? 一緒に遊んでおいて? あの時は二人とも制服だったじゃない」

「直接聞いたことはない……が、バスの降りるとこから見て姫々咲高校……だと思います……」

「毎朝おんなじバスなんだ」

「一応……」

「ふーん……それで? 付き合ってるのかしら?」

「はっ? いや、付き合ってねーよ。俺にあんな可愛い子は勿体無いし、友達? みたいな感じだ」

「はぁ……」


佳織は過去最大級のため息を吐いた。自分と同じ、涼太の鈍感さに振り回される女の子がいることに対して呆れたからだ。しかし、中には安堵のものも入っている。


「まぁ、今日はこのくらいにしといてあげるわ。じゃあ、行きましょうか」

「ば、バスで行くのか?」

「当たり前でしょ? 一回は話しておかないと夜も眠れないわ」


そういって先導する佳織の後を涼太は歩くのだった。


***


「……涼太さん、この方は?」


一番後ろの席で両側を埋められる涼太。静寂を切り裂いたのは玲香だった。


「はじめまして。涼太の"中学からの友達"の早川佳織です」

「そ、そうですか。私は"昔馴染み"の間宮玲香です」

「ちょっと涼太どういうことかしら?」

「間宮さん!? つい一週間くらい前にであった仲ですよね!?」

「涼太さんの中では、ですけどね」

「どういうこと!?」


しかし、なぜか信憑性のある発言に涼太は突っ掛かりを覚える。


「今はその話は置いておくとして……とりあえず玲香さん、連絡先交換しないかしら?」

「いいですよ。いろいろ、話したいこともありますし」

「そうよね」

「「ふふふふふふ」」


や、やばい。明らかにおかしい二人もそうだが、しゅ、周囲の視線が……


まさに両手に花の状態の涼太であった。


「それでは、私はここで降りますので、涼太くんまた明日」

「お、おう、またな」

「佳織さんもあとでたっぷりら話しましょうね」

「当たり前よ」


見たことのないほど黒い笑みを浮かべる玲香に涼太は背筋が凍る思いをした。


「りょ、りょうた」

「……どした?」


急にしおらしい声を出す佳織に涼太は困惑する。


「そ、その、今日の放課後、一緒に出かけない? クレープとか食べたいのよね」

「いいぞ」

「本当!?」

「あ、あぁ。そんなに驚くか?」

「まぁ、そりゃあねぇ……ふふっ」


なんなんだその顔……中学の時は一回も見たことないぞ……


「……こんなに可愛いかったっけ……」


最近時折り見せる佳織の魅力的な笑顔。涼太は自分の感情がわからなくなっていた。


「ふぇっ!?」

「な、なんだよ」

「い、いま可愛いって言った……?」

「言ったけど……」

「玲香にも言ってるの……?」

「……ちょっと」

「……鈍感なくせにそういうのだけは一丁前なんだから」

「ど、鈍感じゃねぇよ」

「鈍感よ。世界でもトップ5に入るくらいにはね」

「それは言い過ぎだろ」

「いーえ、言い過ぎじゃないわ」


心外なことを言われて少し不機嫌になる涼太。気を取り直して佳織に話しかける。


「うし、春翔も呼ぶだろ? 連絡するわ」

「はぁ……トップ2だったかしら」

「なんでだよ!?」


打って変わって不機嫌になる佳織。しかし、以前の気まずさのようなものではないのは確かだった。


今日は許してあげるかしら。


可愛いって言ってくれたし……ふふっ。


涼太に顔を見せないように背ける佳織であった。

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