第三話

「よいしょっと……あ、もうこんな時間」


玲香がスマホを見ればいつものバスまでの時間が迫っていた。本当はもう一本遅いバスでも行けるのだが、あえて玲香はそのバスに乗っていた。


「今日も会えるかなー」


いってきまーすと言いながら家を出発する。スキップでも踏みそうなくらいに、軽い足取りでバス停まで駆ける。


早くバス来ないかな……でも、スピード出す運転手さんらだったら、涼太くんとの時間が減るし……


「うー……」


葛藤している玲香。結局バスは時間通りに来るのであった。


「おはよーございますっ」

「おはよーです」


真っ先に涼太のいる二人席へ座る玲香。まんざらでもない涼太の顔を見てご満悦である。


ふふっ、今日もかわいいなぁ。あーあ、おんなじ学校だったらもっと……いちゃいちゃ……って、まだ私と涼太くんはそんな関係じゃないよ!


一人で顔を赤くする玲香。


「顔赤いですけど大丈夫ですか?」

「ふぇっ! あ、あぁ、大丈夫でしゅ!」

「……ははっ」

「笑わないでください……っ」


は、恥ずかしすぎる……私ったらなんでこんなにテンパっちゃうの!?


「ごめんなさい。可愛くてつい……」


申し訳なさそうに微笑む涼太。あまり見たことのないしゅんとした顔に少し見惚れる玲香であった。


「ふんっ……もう知らないんですから」

「えぇ……どうしたら……」


困り顔で悩む涼太を横目で見て、まだ赤いままの顔を隠す玲香。


な、なんで可愛いとかぽんぽん言っちゃうかなぁっ!


「そうですねぇ……」

「……」

「敬語」

「はい?」

「敬語やめてください。なんだか距離を感じます……」

「わかりま……わかった。そんなことでいいなら」

「はいっ! お願いしますっ!」

「間宮さんは敬語でいいの?」

「私はこれでいいんです!」

「そ、そっか」


玲香の強い意思に押されて、引き気味に答える涼太。


ほんとは遊びに誘いたかったなぁ。


まだまだ勇気の足りない玲香は嘆くのであった。


***


「ふんふっふふーん」

「ご機嫌だな涼太」

「うおぅ、なんだ、春翔か」

「お前は俺のこと嫌いなのかっ!?」


あからさまにがっかりした様子の涼太を見てツッコむ春翔。春翔とは中学からの仲で、涼太の親友である。


「大好きに決まってるじゃないか。あははは」

「キモっ! めちゃキモっ!」

「言い過ぎだろっ!」

「まぁそれはいいとして……なんだ、お前女でもできたか?」

「はっ?」


まさかの質問に拍子抜けする涼太。


「いやなんかさ。ここ数日彼女できたみたいな顔してるから」

「どんな顔だよ」

「まぁ勘だよ、勘」

「すげぇな」

「てことはやっぱ、当たってんのか?」

「い、いやそういう意味じゃなくてな!」

「なに、あんた彼女できたの?」


凍て刺すような視線を受け、ロボットのように振り返る涼太と春翔。そこにはまたまた中学からの友達である"早川佳織"がいた。


「で、ほんとなの?」

「で、できてないです」

「あっそう。早く行かないと遅刻するわよ」

「「は、はい」」


二人揃って綺麗に直立するのであった。














なんだ、春翔のやつ。びっくりさせること言っちゃって。でも、よかった……涼太と付き合うのは私なんだから……


ひっそり意気込む佳織であった。

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