エピローグ『酔っ払ったお嫁さん』
「よし、これで終わった」
「後片付けお疲れ様でした。アイスコーヒーを淹れておきました」
「ありがとう」
夜。
夕食の後片付けを終えた俺は、優奈が座っているリビングのソファーに向かう。
優奈のすぐ隣に腰を下ろし、優奈が淹れてくれたブラックのアイスコーヒーを一口飲む。苦味が強めで俺好みだ。あと、食事の後片付けではあるけど、片付けをする中で体がちょっと熱くなっていたので、コーヒーの冷たさも良くて。
「とても美味しいよ」
「良かったです」
「淹れてくれてありがとう」
アイスコーヒーを淹れてくれたお礼に優奈の頭を優しく撫でる。俺に頭を撫でられるのが好きなだけあって、優奈はすぐに柔らかい笑顔になる。
「拓也さんとお父さん、プレゼントを喜んでもらえて良かったです」
「そうだな。2人にとって、いい父の日になったんじゃないかな。英樹さんからワインをもらったおじいさんも」
さっき、真央姉さんからは日本酒を楽しむ俺の家族の写真が、陽葵ちゃんからは赤ワインを楽しむおじいさんと英樹さん、彩さんの写真がLIMEでそれぞれ送られてきた。どちらの写真も、みんな笑顔で写っていて。きっと、3人にとっていい父の日になったことだろう。
「和真君。食後のデザートに、おじいちゃんからもらったチョコレートを食べましょう。それもあって、ブラックのアイスコーヒーを淹れたんです」
「なるほどな」
チョコレートにコーヒーって合うもんな。
ローテーブルには、おじいさんからもらったチョコレートの箱が置かれている。
数日前、おじいさんは取引先であり、長年の友人でもある方から、海外旅行のお土産でチョコレートをもらったとのこと。ご家族みんなでと何箱ももらったのもあり、俺達が帰るときにおじいさんが一箱持たせてくれたのだ。
「チョコレートって、海外旅行のお土産の定番ってイメージがある。父さんや母さんも、海外旅行のお土産にってチョコをもらってきたことが何度もあるし」
「確かに定番ですね。うちもチョコをもらったことは何度もありますし、海外旅行に行ったときもお友達やクラスメイトへのお土産にチョコを買うことは結構あります。チョコが好きですから、自分達へのお土産にも買いますね」
「そうなんだ」
やっぱり、海外旅行のお土産の定番なんだ。まあ、チョコが嫌いだっていう人はあまりいないだろうし、一箱でも一粒単位でも渡すことができる。だから、お土産として買ってくる人が多いのかもしれない。
優奈はビニールの包装を取り、箱の蓋を開ける。
箱の中には、赤色の銀紙に包まれたチョコレートが15粒入っていた。
「おっ、銀紙に包まれてる。こういうのに包まれてると、何だか高級感があるよな」
「分かります」
ただ、実際に高級なチョコレートかもしれない。有栖川グループ会長のおじいさんのご友人が買ってきてくれたものだから。
俺達はそれぞれチョコレートを一粒ずつ取り、銀紙を剥がしていく。剥がした瞬間、チョコレートから甘い匂いが香ってきて。
「美味しそうだ」
「ですね。では、いただきまーす」
「いただきます」
俺達はチョコレートを食べる。
口に入れた瞬間、舌に触れた箇所からチョコレートの甘さが感じられて。甘い香りも広がって。きっと、いいチョコレートなんだろうなぁ、と思いながら一噛みすると、
「……うん?」
噛んだ瞬間に液体が出てきたぞ。ちょっと苦味もあって。ただ、チョコに甘味があるので、苦味と甘味のバランスがちょうどいい。
ただ、口の中が段々と熱くなってきて。チョコを飲み込んだら、喉から食道にかけても熱を感じて。あと、この鼻に抜けるツーンとした匂いは、
「このチョコ……美味しいけど、お酒が入ってるな。よく聞くのはブランデーだけど、これもそうなのかな?」
「そうだと思いますぅ。美味しいチョコですよね~」
あれ? 隣から優奈のとても甘い声が聞こえたのですが。
優奈の方を見てみると……優奈はとても幸せな笑顔でチョコレートをモグモグと食べていた。優奈の笑顔は頬を中心にほんのりと赤くなっていて。あと、優奈の前には小さく綺麗に折りたたまれた銀紙が2つ。俺が1粒食べている間に、優奈は2粒食べたのか。凄い。
「優奈。頬中心に顔がちょっと赤くなっているけど大丈夫か?」
「大丈夫ですよぉ。私、こういうチョコを食べても、体がポカポカふわふわして、いい気分になるタイプなので~」
いつも以上に柔らかい声色でそう言い、優奈は「うふふ~」と笑う。大好きなチョコを食べられたのもあって、本当にいい気分なのだろう。酔っ払った優奈の姿は初めて見るけど、結構可愛いな。
「和真君は大丈夫ですか~?」
「ああ。お酒の強さにもよるんだろうけど、こういうチョコや洋菓子に使われるお酒なら、体がちょっと熱くなるくらいだよ」
「そうなんですね。和真君はお酒に強いのかもしれませんね~」
ニコニコ笑いながらそう言ってくれる優奈。優奈に言われると、俺ってお酒に強いタイプなんだろうって思えてくる。
「優奈は……強いかどうかは分からないけど、可愛く酔っ払うんだな」
「そうですかね? でも、陽葵やおじいちゃんには、酔っ払うといつも以上に可愛いって言われますね」
「そうか」
さすがに一緒に住んでいた家族は、優奈が酔っ払ったこの姿を知っているか。いつも以上に可愛くなるという2人の言葉に頷く。
優奈は箱に右手を伸ばし、酒入りチョコレートを一粒取る。銀紙を剥がすと、俺の口元まで持ってくる。
「はいっ、和真君。あ~ん」
食べさせてくれるのか。酔っ払った姿なのもあって本当に可愛く見える。
「あーん」
優奈に酒入りチョコレートを食べさせてもらう。
同じチョコレートだけど、さっきよりも味わい深くて美味しく感じられる。お酒が入ったせいなのか。それとも、優奈が掴んだことでチョコレートに熱が伝わったからなのか。追加でお酒が入り、体がより温かくなるけど心地いい。
「凄く美味しいよ、優奈」
「良かったです。では……あ~ん」
と、優奈は俺の方を見て、少し大きめに口を開ける。口を開けて食べさせることを要求するのは珍しい。これも酔っ払った影響なのだろう。優奈は酔っ払うと甘える性格になるのかもしれない。
俺は箱から酒入りチョコレートを一粒取り、銀紙を剥がす。チョコレートを優奈の口元まで持っていき、
「優奈、あーん」
「あ~ん」
優奈に酒入りチョコレートを食べさせる。
美味しいと言っていただけあって、食べさせた瞬間から優奈は幸せそうな笑顔になる。食べさせると可愛らしい笑顔になるのは、酔っ払っても変わらないな。
「とっても美味しいですぅ」
「美味いよな」
「はいっ。美味しいチョコレートを和真君に食べさせてもらって幸せですっ」
優奈はそう言うと、俺の左腕をそっと抱きしめて、頭をスリスリしてくる。優奈が笑顔なのもあってかなり可愛い。
優奈の頭を優しく撫でる。チョコに入っているお酒の影響か、髪越しに伝わってくる温もりは普段よりも強く感じられる。
頭を撫でていると、優奈はゆっくりと顔を上げ、俺を見上げる形に。俺と目が合うと、とろんとした笑顔を見せてくれる。俺のお嫁さんは酔っ払っても可愛いな。
「和真君に頭を撫でられるの凄く好きです~」
「本当に好きだよな」
「はいっ。和真君に触れて、和真君に触れられるのが大好きなんですっ」
「……俺もだよ、優奈。優奈に触れて、触れられるのが好きだ」
優奈の目を見つめながらそう言うと、優奈はニコッと笑って「えへへっ」と笑う。酔っ払った優奈……本当に可愛いな。こういう姿は他の誰にも見せたくないな。
「嬉しいです、和真君」
「俺も嬉しいよ」
「えへへっ。……ただ、和真君はもっと私のことを触っていいんですよ? よく手を繋いだり、頭を撫でたりしてくれますが。抱きしめたり、キスしたりもしてくれますが。……こう言ってみると、和真君スキンシップしてますね~」
「そうだな。特に好き合う関係になってからは」
「ええ。ただ、もっともっと触っていいのです! 和真君は私の胸が大好きですけど、えっちのとき以外はあまり触りませんし。湯船に一緒に入っているときくらいでしょうか。胸以外にも、腋とか太ももとかお尻とか和真君の好きなところをいっぱい触っていいんですよ? 和真君に触られるの……気持ちいいですし」
優奈は真っ赤な顔で俺を見つめながらそう言ってくる。その可愛らしさもあって、かなりドキドキする。
「優奈は体も魅力的だから、胸とか腋とか俺の好きな部分を触るとスイッチが入っちゃいそうで。その分、肌を重ねるときとかにはいっぱい触るようにしてるんだ」
「なるほどです。ただ、萌音ちゃんみたいに、学校でも私の胸を堪能してもいいんですからね」
「さすがに学校でやるのは恥ずかしい……かな。あと、井上さんは女子の親友だし、女性の胸が大好きなのが周知の事実だから、学校で胸を堪能してもほのぼのとした雰囲気になるというか」
「まあ、萌音ちゃんは日常的にやってますからね……」
「ああ。井上さんの持ってる特権とも言えるかな。ただ、優奈がもっと触っていいって言ってくれるなら……今みたいに2人きりのときは、スキンシップを増やしてみようかな」
「ふふっ、そうですか。では、さっそくいかがでしょう?」
そう言うと、優奈は俺の左腕を離して、両腕を軽く上げる。今日はノースリーブの縦ニットを着ているので、白くて綺麗な腋がはっきりと見えて。縦ニットに包まれた大きな胸もとても柔らかそうで。そそられるものがある。
あと、両腕を上げるってことは……腋や胸を触れってことか。ここまでしてもらっているのだから、その行動を無碍にはできない。
両手を優奈の腋に触れる。くすぐったいのか優奈は「んっ」と声を漏らし、体をピクッと震わせた。優奈の腋、スベスベで触り心地がいい。
腋に触れている手を胸のところまでスライドさせて、優奈の胸をそっと撫でる。下着や縦ニットを越しではあるけど、優奈のFカップの胸の柔らかさは十分に伝わってくる。その中でも、優奈は「んっ」と甘く喘ぐ。
「和真君に胸を撫でられるの……気持ちいいです……」
「良かった。俺も……両手からいい感触が伝わってる。下着や服越しでも柔らかいな」
「えへへっ。嬉しいです」
その言葉は本心であると示すように、優奈は嬉しそうな笑顔を見せる。
その後も優奈の胸を撫でたり、軽く揉んだりする。「んっ」と甘い声を漏らす優奈が本当に可愛くて。熱っぽい視線を向けてくる優奈が艶っぽくて。
「ねえ、和真君」
「うん?」
「チョコレートを食べましたから、次は……私を食べてくれませんか? 腋と胸を触られたらその想いが強くなってきて……」
妖艶な雰囲気を纏う笑顔で、優奈は俺のことを誘ってくる。どうやら、優奈は酔っ払うとエロい方への欲望が膨らみ、大胆な性格になるようだ。そんなところもまた魅力的で。今の誘いに対する返事はもちろん、
「分かった。優奈をいただくよ。……しようか」
「はいっ! ありがとうございます! では、私は和真君をいただきますねっ」
嬉しそうな笑顔でそう言うと、優奈は俺にキスをしてくる。チョコレートを何粒も食べたので、優奈の唇からはチョコレートの濃厚な甘い匂いが感じられた。
その後、優奈の部屋のベッドや浴室で、優奈とお互いをいただき合った。
酒入りチョコレートで酔っ払った優奈はいつも以上に甘くて、温かくて、積極的で。いつもとはまた違った気持ち良さを感じられた。
「我ながら、凄く大胆だったなって思いますね……」
「そうだな。酔っ払って大胆になる優奈も素敵だったよ」
肌を重ねた後、俺達は全身を洗って、一緒に湯船に浸かっている。今は優奈と向かい合う形で優奈と抱きしめ合っている状況だ。
酒入りチョコレートを食べてから時間が経ったのもあり、今は俺も優奈も酔いから覚めている。どうやら、優奈は酔っ払っている間の記憶が残るタイプのようで、俺のことを見ながらはにかんでいる。
「和真君にそう言ってもらえて安心しました」
「そうか。……あと、酔っ払うといつも以上に可愛いって、陽葵ちゃんやおじいさんが言うのも納得だ。凄く可愛かった。いつも以上に積極的で、大胆な性格になるのも」
「そこまで言われると照れくささもありますが……嬉しいです。チョコレートに入っている程度の量だからかもしれませんが、和真君はいつもとあまり変わりなかったですね。それが大人っぽくて、かっこいいなって思いました」
「そっか。大好きな優奈にかっこいいって言われて嬉しいよ」
俺も男なので、お嫁さんにかっこいいと言われると嬉しい気持ちになる。それに、今日は俺の実家で、真央姉さん所有のアルバムとホームビデオを見た優奈が、主に小さい頃の俺に対してだけど「可愛い」ってたくさん言っていたからな。
「ふふっ。そんな素敵な和真君が……美味しかったです。え、えっちが気持ち良かったという意味ですよっ。えっちする前に和真君をいただきますって言ったので……」
「そういうことか。俺も優奈が美味しかったよ。いつもとはまた違って」
「良かったです」
優奈は嬉しそうな笑顔になる。
「あと、酔っ払っているときに、私の体をもっともっと触っていいと言いましたが……あれは本心ですからね」
「分かった。節度を持ちつつも、スキンシップを増やしていければと」
「ふふっ、和真君らしいです。分かりました。私からもスキンシップを増やしていきたいなって思います」
「ああ、分かった」
優奈への抱擁を強くする。そのことで優奈とより体が密着して。その感覚がとても気持ち良くて。
また、抱擁を強くしたことで、優奈の顔がより近づいて。まるで、優奈の唇に吸い込まれるかのように、気付けば俺から優奈にキスしていた。
それからしばらくの間、俺達は抱きしめながら湯船にゆっくりと浸かる。たまにキスをして。梅雨入りして蒸し暑い気候になったけど、湯船のお湯や優奈の体の温もりはとても心地良く感じられるのであった。
特別編2 おわり
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