第5話『三者面談-優奈編-』

 お母さんと私は3年2組の教室の中に入ります。

 普段とは違い、教卓の近くにある4組の座席が、向かい合った形でくっつけられていました。夏実先生の案内で、私とお母さんは窓側に向けて隣同士で椅子に座りました。

 夏実先生は私の正面の椅子に座ります。


「本日はお忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございます。本年度も優奈ちゃんの担任になりました、渡辺夏実です」

「優奈の母の彩です。本年度も娘をよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 お母さんと夏実先生は軽く頭を下げます。かしこまった言葉遣いですが、2年連続で担任になったのもあり、2人の雰囲気は柔らかいです。


「では、3年生最初の三者面談を始めましょう。事前にお知らせした通り、今回は中間試験の結果を踏まえて勉強についてと進路について。あとは、日常生活についても話します。まずは勉強と進路についてですね。中間試験の結果をまとめたプリントと、進路希望調査票を出しますね」


 そう言うと、夏実先生は隣の椅子に置いてあるトートバッグからクリアファイルを取り出します。ファイルから2枚のプリントを取り出し、私達に向けて机に置きました。

 プリントを見ると……1枚は先日実施された中間試験の全科目の結果と平均点、文系クラスでの順位が書かれています。もう1枚は先日提出した進路希望調査票ですね。


「まずは中間試験の結果ですが……ご覧の通り、全教科100点です。なので、学年順位も1位です。素晴らしい結果です」

「今回もよく頑張ったわね、優奈」

「ありがとうございます」


 夏実先生とお母さんに褒められて嬉しいです。成績については面談で毎回褒められますが、その度に嬉しい気持ちになりますね。


「優奈ちゃんは長瀬君と結婚して、ゴールデンウィークからは一緒に住み始めるという生活環境の変化がありました。それでも、素晴らしい成績をキープできていますね」

「和真君もしっかりと勉強する方ですし、自宅で一緒に勉強することも多いです。和真君の分からないところを教えることもありまして。それも成績が維持できている一因だと思っています」

「長瀬君、しっかりしているものね。勉強面でも優奈にいい影響を与えているのね」

「そうですね」


 和真君と一緒に勉強するのは楽しいですし、和真君に教えるのは勉強の理解を深めることに繋がります。なので、これまで以上に充実した勉強ができていますね。


「3年生の成績が内部進学に大きく影響します。なので、この調子で勉強を頑張ってください」

「はい」

「そして、進路についてですが……第1希望が文学部の日本文学科、第2希望が経営学部の経営学科ですか」

「はい。文理選択をした頃と変わっていません。まだどちらにするかは決まっていませんが……」

「なるほど。お母様はどのようにお考えですか?」

「優奈は色々なことをしっかり学ぶことは分かっています。なので、一番学びたいことを学べる学部学科に進学してほしいと考えています。有栖川家に産まれた娘ですが、優奈の学びたい気持ちを優先させてあげたいです。主人も義父も同じ想いです」

「分かりました」


 渡辺先生はノートにメモを取りながらそう言いました。


「このままの成績を維持すれば、調査票に書かれている学部学科への内部進学は問題ありません。大学の学部学科のホームページを見たり、夏休みに開催される予定のオープンキャンパスに参加したりするなどして、内部進学先を絞っていければいいかと思います」

「分かりました」


 夏休みに、和真君達と一緒に常盤学院大学のオープンキャンパスに行ってみましょうかね。あと、義理の姉の真央さんは、第一希望に書いた文学部日本文学科の在学生です。真央さんに日本文学科の話を聞くのもいいかもしれませんね。


「では、進路については以上で。あとは……日常生活ですね。これは長瀬君との結婚生活とも言えますが。優奈ちゃん……どう? 長瀬君との結婚生活は。半月くらい前には好き合う夫婦になれたって報告されたけど」

「昨日、陽葵からも結婚生活の話を聞いたけど、本人の口からも聞きたいわっ」


 渡辺先生とお母さんは楽しげな様子で私のことを見てきます。特にお母さん。やはり、日常生活のことは和真君との結婚生活についてですか。


「毎日一緒に楽しく過ごしていますよ。お互いにアニメを観るのが好きなので、一緒に観るのが本当に楽しくて。和真君も家事が一通りできますので、家事を分担したり、当番制にしたりして支え合って。先日、風邪を引きましたけど、和真君が看病してくれて。そのときは和真君の存在の大きさを実感しました。和真君が学校に行っている間は寂しかったですし。今はとても幸せで、和真君に感謝な毎日を過ごしています」


 和真君との結婚生活を思い出しながら話したので、幸せな気持ちになっていきます。心がとても温かくなって。さっきよりも頬が緩んでいるのが分かって。

 和真君は今ごろ、お家で梨子さんと一緒にゆっくりしているでしょうか。


「あらぁ、いいわね。お父さんとの新婚生活を思い出すわぁ」


 その頃のことを思い出しているのか、お母さんはうっとりとした様子に。その姿は娘から見てもとても可愛いです。


「今のことを笑顔で話すから、長瀬君との結婚生活を楽しんでいるのが伝わってくるよ。いいなぁ、羨ましい。私、社会人になってから彼氏が全然できないし……」

「そ、そうですか」

「……ちなみに、好き合う関係になったから、一緒にお風呂に入ったり、同じベッドで寝たりするの?」

「そうですね。同じベッドで寝ることは以前からはありましたけど、好き合う関係になってからは体調を崩したとき以外は一緒に寝るようになりました。お風呂も毎日一緒に入っています。髪や背中を洗いっこしたり、湯船でゆったりしたり……」


 あと、好き合う関係になってからはえっちするようにもなりました。でも、それはさすがに言えません。ただ、お母さんは陽葵から聞いているかもしれませんね。

 和真君と一緒にお風呂に入ったり、えっちしたりしたことを思い出したら、体が熱くなってきました。どちらもとても気持ちいいですから……。


「あらあらぁ! 長瀬君とラブラブした生活を送っているじゃない」

「幸せな笑顔で話していますもんね。ラブラブでイチャイチャとした生活を送っているんでしょうね。学生時代に彼氏がいた時期はありましたけど、同棲はしなかったので優奈ちゃんがとても羨ましいです……」


 はあっ、と渡辺先生はため息をつきました。生徒によっては面談中に先生がため息をつくことがあるかもしれません。ただ、教え子の結婚生活が羨ましくてため息をつくことはそうそうないでしょう。


「長瀬君もですが勉強をしっかりしていますし、これからも2人で楽しく結婚生活を送るように。独身の担任教師から言えるのはこのくらいです」

「わ、分かりました。高校生ですから、成績を落とさないように気をつけながら和真君と一緒に暮らしていきます」

「うん、よろしい。スイーツ研究部の方は部長としてしっかりやっていると顧問の美咲みさきさんから聞いています」

「そうですか。部活も楽しいです。萌音ちゃんと一緒ですし」

「良かったわ。日常生活についてもこのくらいでいいかな。以上で今回の面談で話すことは終わります。優奈ちゃんもお母様も何か質問や3人で話したい話題はありますか?」

「私は特にありません。お母さんは?」

「お母さんの方も特にはありません」

「分かりました。では、これにて三者面談を終わります」

「ありがとうございました」

「今後とも娘のことをよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 そう言って、3人で頭を軽く下げ……私の三者面談は終わりました。予想通り、結婚生活のことを話す割合が多かったですが、無事に終わって良かったです。

 お母さんと私は席から立ち上がって、教室を後にしました。

 教室を出ると、待機用の椅子には萌音ちゃんと雛子さんの姿が。雛子さんは長めのスカートにフレンチスリーブのブラウスを着ていてとても可愛らしいです。また、萌音ちゃんは雛子さんの大きな胸に頭を乗せていました。


「面談お疲れ様でした、優奈、彩さん」

「ありがとうございます、優奈ちゃん。雛子さん、こんにちは」

「こんにちは、雛子さん。お久しぶりです」

「お久しぶりです、彩さん。あと、優奈ちゃん。いつも萌音に胸を楽しませてくれてありがとう」

「いえいえ」


 萌音ちゃんとは1年生からの親友ですし、当時から私の胸を堪能されていますので、雛子さんと会ったときは大抵胸のことについて感謝されます。初めて言われたときはちょっと驚きましたが、今はすっかりと慣れました。

 また、今のやり取りを見てか、お母さんは「ふふっ」と楽しそうに笑っていました。


「この後は一緒にうちに行きますので……私達は1階の昇降口近くで待っていますね」

「うん、分かった」

「面談を頑張ってくださいね、萌音ちゃん」

「ありがとう」

「では、また後で」


 萌音ちゃんと雛子さんに軽く頭を下げて、階段で昇降口のある1階まで降ります。

 昇降口近くに到着したとき、私はLIMEで和真君に、


『三者面談、無事に終わりました。萌音ちゃんの面談が終わり次第、帰りますね』


 というメッセージを送りました。

 家にいるのもあってか、すぐに私の送信したメッセージに『既読』のマークが付きました。その直後、


『面談お疲れ様。母さんと一緒に待ってるよ』


 という返信が和真君から届きました。スマホに表示される文字ですが、和真君からお疲れ様って言われるのが嬉しいです。


「いい笑顔ね、優奈」

「そうですか。和真君からお疲れ様ってメッセージが来たのが嬉しいからだと思います」

「ふふっ、そうなの。本当に長瀬君のことが好きなのね」

「はいっ」

「あと、優奈の気持ち……分かるわ。私もお父さんからお疲れ様って言われると嬉しいし」

「そうですか」


 お父さんのことを話すお母さん……可愛いです。以前よりも可愛く思えます。そう感じるのは、私にも大好きな旦那さんができたからでしょうか。

 それからはお母さんとお互いの近況を話したりして、萌音ちゃんと雛子さんが来るのを待ちました。それがとても楽しくて、2人が来るまであっという間でした。

 今から帰ります、と和真君にメッセージを送って、私はお母さん達と一緒に帰路に就くのでした。

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