第5話『猫カフェ、再び。』
タピオカドリンクを飲み終わった俺達は、フードコートを後にして、猫カフェ・にゃかのへ向かうことにした。
「タピオカドリンク美味しかったですね」
「ああ。カフェオレはもちろん、優奈がくれたミルクティーも美味しかった。それに、優奈のタピオカチャレンジ成功も見届けられたから大満足だ」
「ふふっ、それは良かったです。あと、萌音ちゃんも私がタピオカチャレンジを成功したのを見られたから大満足と言っていましたね」
「ははっ、そっか」
井上さんと同じ感想を言っていたのか。まあ、俺も井上さんのように優奈の胸が大好きだし、同じような感想になるのは必然なのかもしれない。
もし、井上さんにタピオカチャレンジの話をしたら、「写真ちょうだい」っておねだりされるかもしれないな。
高野カクイを出ると、蒸し暑い空気が再び体を包み込む。ただ、涼しい中で冷たいタピオカドリンクを飲んだ後なので、特に不快感はない。
高野カクイからにゃかのまでは歩いて2、3分のところにある。優奈と話しながら歩いたのですぐに到着した。
「ここだな」
「はいっ」
俺達の目の前には、落ち着いた雰囲気の茶色い外観の2階建ての建物が。入口の上に設置されている白いボードには、猫の線絵と可愛らしいフォントで『猫カフェ・にゃかの』と描かれている。
これまで、にゃかのには何回か来たことがある。ただ、今年に入ってからは初めてなので、ちょっと懐かしい気持ちに。
「じゃあ、さっそく入ろうか」
「そうですね」
優奈に手を引かれる形で、俺達はにゃかのの中に入った。
ゴールデンウィークの琴宿デート中に行った猫カフェ・にゃんじゅくと同じように、料金は利用時間によって決まる。30分コース、60分コース、120分コースがある。また、猫にあげられるエサが200円で販売されている。
前回と同じく、俺達は60分コースで利用することに。
受付で料金を支払い、手を洗って、猫達がいるキャットルームに入る。
「わぁっ……」
キャットルームに入ると、様々な柄や種類の猫達の姿が。その光景を見てか、優奈は目を輝かせて、とても可愛い声を漏らした。そんな優奈が一番可愛いと思う。
お客さんに撫でられている猫、猫じゃらしで遊んでもらっている猫、床でゴロンゴロンしている猫、ソファーの上で寝ている猫など、猫達は思い思いの時間を過ごしている。
人間のお客さんも猫を撫でていたり、猫じゃらしで遊んでいたり、
「おおっ、白猫が俺の上に乗ってきた」
「その白猫ちゃん、明斗さんのことが好きですもんね。写真撮りますよ」
「ありがとう、氷織」
カップルだろうか。大学生らしき銀髪の女性が、床でくつろぎながら白猫を撫でている茶髪の男性をスマホで撮ったりしていた。お客さん達も思い思いの時間も過ごしているようだ。ただ、共通してどのお客さんも笑顔になっている。いい光景だ。
「優奈。この前みたいに、ソファーに座るか」
「そうしましょう」
近くにあるソファーは誰もいなかったので、俺達はそのソファーに隣同士に座った。
「にゃん」
「にゃあっ」
すぐ近くから猫の声が聞こえたので、周りを見てみると……俺の足元には三毛猫、優奈の足元には黒白のハチ割れ猫がいた。俺達と目が合ったからか、猫達は再び「にゃあっ」と鳴いてくれる。
「可愛いなぁ」
「可愛いですね。……私のことを覚えてくれているんですね。この黒白のハチ割れ猫ちゃんは、これまで来店したときにも撫でたり、エサをあげたりしたことがあって」
「そうなんだ。俺も前にここに来たとき、この三毛猫を撫でたり、エサをあげたりしたことがあるんだ」
「そうだったんですね。お店に来てすぐに、以前触れた猫が来てくれるのって嬉しいですよね」
「そうだな。俺、今年になってからは初めてだから、結構嬉しいよ」
「ふふっ、そうですか。私も4月以来ですが、ハチ割れ猫ちゃんが来てくれて嬉しいですね」
優奈は嬉しそうな笑顔でそう言う。それを見てか、ハチ割れ猫は「にゃーん」と鳴いて。優奈の笑顔や優しい雰囲気が気に入っているのかもしれない。
俺は足元にいる三毛猫の頭をそっと撫でる。柔らかい毛並みだから、撫でていてとても気持ちがいい。また、撫でていると、三毛猫が俺の脚にスリスリしてきて。本当に可愛い猫だ。
「ほら、こっちおいで」
そう言い、右手で自分の太ももを軽く叩くと、三毛猫はジャンプして太ももに飛び乗った。香箱座りの姿勢でくつろぐ。
「くつろいでくれて嬉しいなぁ。いい子だね」
「良かったですね、和真君。……では、私も。ハチ割れ猫ちゃん、どうぞ」
優奈が優しい声で話しかけ、右手でポンポンと叩くと、三毛猫と同じようにハチ割れ猫は優奈の太ももに飛び乗った。横になってくつろぎ、さっそくまったりしている様子。
「乗ってくれましたっ」
「良かったな。三毛猫よりもまったりしているように見える」
「そうですかね? ただ、この猫ちゃんは膝の上に乗ると、こういう体勢になることが多いです」
「そうなんだ。きっと、ハチ割れ猫のお気に入りの場所なんだろうな」
「そうだと嬉しいですね」
優奈は柔らかい笑顔でそう言う。
優奈が両手で背中を中心にハチ割れ猫を撫でる。それが気持ちいいのか、ハチ割れ猫は膝の上でゴロンゴロンする。
「ふふっ。ゴロンゴロンして可愛いです。いい子ですね」
「にゃ~ぉ」
「いいお返事です。本当にいい子です」
優奈は優しい笑顔でハチ割れ猫の頭を撫でる。見ていて癒やされるなぁ。あと、優奈の膝の上で頭を撫でてもらえるこの猫が羨ましい。
「にゃー……」
優奈とハチ割れ猫を見ていたら、三毛猫が低めの声で鳴く。三毛猫の方を見ると……俺のことを睨んでおり、しっぽを横にブンブン振っている。
「もしかして、俺に撫でるのを催促しているのかな。優奈達の方を見ていて撫でていなかったし。ご機嫌斜めなのかも」
「その可能性はあるかもしれませんね。かまってほしいサインかもしれません」
「ごめんよ、三毛猫」
俺は右手で三毛猫の頭を、左手で背中を優しく撫でる。
俺の推理が当たっていたようで、三毛猫のしっぽの振り方が段々と収まってきて、
「な~う」
と、甘い声で鳴いてくれるようになった。頭を撫でている右手に顔をスリスリと擦りつつけてくれる。その様子を見て一安心だ。
「機嫌が良くなってきたみたいだ」
「良かったです」
「三毛猫の機嫌も良くなってきたし、写真を撮らないか? ここの猫カフェに一緒に来るのは初めてだし」
「いいですねっ」
優奈はニコッと笑って快諾してくれた。
スラックスのポケットからスマホを取り出し、ハチ割れ猫と優奈のツーショットと、三毛猫とハチ割れ猫が入るようにして俺達の自撮り写真を撮影した。また、優奈にスマホを渡し、俺と三毛猫を撮影してもらった。それらの写真はLIMEで優奈に送った。
「写真ありがとうございますっ、和真君」
「いえいえ」
優奈、嬉しそうだ。タピオカドリンクのとき、初めて一緒に飲むからと写真を撮っていたから、ここでも写真を撮らないかって言ってみたのだ。言って良かったな。
「あの、和真君。受付でエサを買って、猫ちゃんにあげてみませんか? ここに来たときはエサをあげることが多くて。琴宿デートで行ったにゃんじゅくでは、エサは販売されていませんし」
「確かに、向こうの猫カフェはエサの販売はなかったな。じゃあ、エサを買って、猫達にあげてみようか」
「はいっ」
その後、俺達はエサを買いに受付へ向かう。その際、受付に繋がる扉の近くまで三毛猫とハチ割れ猫がついてきてくれた。本当に気に入ってくれているのだと分かる。
受付で200円を払って、猫にあげられるエサを購入。スタッフの方がキャットフードの入ったプラスチックの容器と、木製のスプーンを渡してくれる。スプーンを使って猫にエサをあげるのだ。
先ほどまで座っていたソファーに戻る。するとすぐに、三毛猫とハチ割れ猫はそれぞれ、俺と優奈の膝の上に乗ってくる。本当に可愛い猫達だ。
「では、エサをあげましょうか」
「そうだな」
容器の蓋を開けて、スプーンでエサを掬う。
また、エサの匂いに気付いたのだろうか。香箱座りをしていた三毛猫は立ち上がり、俺の方に向いて座る姿勢に。優奈の方をチラッと見ると、ハチ割れ猫も優奈の方に向かって座っていた。
「どうぞ」
「にゃーん」
三毛猫の口元に、エサを掬ったスプーンを持っていく。
三毛猫はエサを食べ始める。食べている姿も可愛いな。カリッ、カリッ、という咀嚼音も良くて。
「はーい、ハチ割れ猫ちゃん。どうぞ~」
「なーう」
優奈もハチ割れ猫にエサを食べさせている。優奈は嬉しそうだし、ハチ割れ猫もよく食べているから絵になる光景だ。
「自分であげたものを食べてくれると嬉しいですね!」
優奈はニコニコした笑顔で俺にそう言ってくる。
「そうだな。より可愛く思える」
「ですねっ。エサやり体験ができるのが、ここの猫カフェの魅力の一つだと思います。それもあって、高校生になってから何度も来ているんです」
「そうなんだ。俺も何度も来たことがあるし、地元民だから嬉しいな。優奈は大好きなお嫁さんだし」
「ふふっ。にゃかのにも和真君と来られて嬉しいです」
「俺もだ。今までで一番楽しい猫カフェの時間だよ」
「私もですっ」
優奈と気持ちが重なることが嬉しい。
エサの匂いを感じ取ったのか、俺達の周りには数匹の猫がやってきて。それらの猫にもエサをあげたり、頭を撫でたりした。
エサやり体験のおかげもあって、色々な猫と戯れることができ、60分間があっという間に感じられるほどに楽しかった。
「猫カフェとても楽しかったです! 猫ちゃんにも癒やされましたし」
お店を出たとき、優奈は満足そうな笑顔でそう言った。
「俺も楽しかったし、癒やされたよ。特にあの三毛猫には……」
「ずっと和真君のところにいましたもんね。私もハチ割れ猫ちゃんには特に癒やされました」
「優奈の側にずっといたもんな。これからも定期的に来よう」
「そうですね」
にゃかのは俺達のデートスポットの定番になりそうだな。
満足した気分の中で、俺達は帰路に就く。デートが終わっても、優奈と帰る場所が一緒なのが嬉しい。デートから帰るときに毎回思う。
「今日の夕飯は俺が当番だな。優奈は何か食べたいものはあるか?」
「そうですね……オムライスを食べたいです。好きな料理ですから」
「オムライスだな。了解」
オムライスは実家にいた頃に両親から教えてもらったり、真央姉さんと一緒に何度も作ったりしたから作れる。
「和真君の作るオムライス……楽しみですっ!」
優奈はワクワクとした笑顔で言ってくれる。優奈に美味しいと思ってもらって、今のような笑顔になってもらえるように頑張って作ろう。
夕ご飯時になり、俺はオムライスを作った。優奈に見られている中で作ったからちょっと緊張したけど、オムライスを綺麗に作ることができた。お互いにケチャップで相手のオムライスにハートマークを描いて。
「とても美味しいです!」
と、優奈はオムライスを美味しそうに食べてくれて。付け合わせのコンソメ仕立ての野菜スープも。それがとても嬉しかった。
□後書き□
読んでいただきありがとうございます。
お気づきの方もいるかもしれませんが、猫カフェに入ったときに写真撮影していたカップルのお客さんは『恋人、はじめました。』に出てくるキャラクターです。
もしよろしければ読んでみてください。
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