第51話『メイドさんを助ける執事さん』
写真を撮り終わり、俺達はソファーに座る。
こうして、すぐ隣からメイド服姿の優奈を改めて見ると、とてもよく似合っていて可愛いなって思う。そう思いながら見ていると、優奈と目が合って。優奈は柔らかい笑顔を見せる。
「どうしました? 私のことをじっと見て」
「メイド服姿が本当に似合っていると思ってさ。優奈は優しい雰囲気だから、こういうメイドさんが実際にいそうだなって。優奈は家事が得意だから、メイドさんになったら凄く仕事のできる人になりそうだ」
「ふふっ、そうですか。ありがとうございます。和真君も執事服姿がとても似合っていますし、こういう執事さんが実際にいそうだなって思います。かっこいいですし」
「そうか。ありがとう」
優奈にかっこいいって言われると嬉しいし、ちょっとドキッとする。
俺は自分のグラスに入っているコーラを飲む。ただ、残り少なかったので一口で終わってしまった。
「コーラ飲み終わっちゃった。取りに行ってくるよ」
「私に取りに行かせてください! メイドさんらしく、和真君に飲み物を用意したいです」
顔の高さくらいまで右手を上げて、優奈はそう言ってくれる。優奈の表情はやる気に満ちていて。メイド服を着ているから、メイドさんらしいことをやってみたいのだろう。
「漫画やアニメでも、メイドさんが飲み物を用意してくれる場面ってあるよな。それに、現実にはメイド喫茶もあるし。行ったことないけど。じゃあ、優奈にお願いしようかな」
「はいっ。何の飲み物がいいですか? ご主人様」
「そうだな……ジンジャーエールがいいな」
「ジンジャーエールですね。かしこまりました」
優奈は俺のグラスを持って、部屋を後にした。その際、俺に軽く頭を下げて。メイドさんっぽい感じがする。
スマホを手に取り、俺は再びメイド服姿の優奈が写っている写真を見る。メイド服姿が本当に似合っているなぁ。こんなにも似合っていると、他の衣装を着た優奈も見たくなってくる。
優奈も俺の執事服姿を褒めてくれたし、今後、デートでカラオケに来たときはコスプレするのが恒例になるかもしれない。
メニュー表に書いてある貸し出しコスプレ衣装の一覧を見ると……色々なものが用意されているなぁ。メイド服以外の衣装を着た優奈を見てみたいな。
「……それにしても、優奈……遅くないか?」
優奈が部屋を出て行ってから5分近く経っている。ドリンクコーナーは同じフロアにあるし、飲みたいドリンクを優奈に伝えてある。よほど混んでいるのだろうか。
何かあったのかもしれない。そう考え、俺は部屋を出てドリンクコーナーへ向かう。
「ねえねえ、オレ達の部屋に来ない?」
「一緒に歌おうよ、メイドさん」
「連れの男性が待っていますので。すみません」
優奈が他校の制服を着た男子2人にナンパされていた。優奈は困った様子だ。優奈の持つグラスにはジンジャーエールが入っている。ということは、部屋に帰ろうとしたらあの2人にナンパされたって感じか。……もやっとするな。
優奈は部屋のあるこちらに向かおうとするが、男子2人が優奈の進路を阻む。その行動にイラッとする。
「そんなこと言わないでよ。一曲だけでもいいから歌おうよ」
「メイドさんなんだから言うこと聞きなよ」
「そちらのメイドにお願いできるのは、主人である私だけです」
俺がそう言うと、優奈は明るい笑みを浮かべて「和真君!」と言う。
男子生徒達もこちらを振り向く。ナンパを邪魔されたと思っているのか、不機嫌そうな様子で俺を見ている。
俺は優奈の隣まで行き、右手で優奈の右肩を掴んでそっと抱き寄せる。
「執事が何の用だ?」
「今はオレ達が話しているんだよ」
「私はこちらのメイドさんと一緒にコスプレをしているのです。あと、設定ではなくリアルで……俺達は結婚しているのですが」
俺は男子生徒達に向かって、結婚指輪を付けた左手を見せる。その直後に優奈も指輪が付けてある左手を見せる。
俺達の左手を見て、俺達が夫婦であることが分かったのか、男子生徒達の顔が見る見るうちに青ざめていく。怯えているようにも見えて。さっきまで不機嫌そうにしていたのが嘘のようだ。結婚指輪の威力は凄いな。あとは俺達の服装が高校の制服ではなく、執事服とメイド服姿だから何歳か年上に思っているのかもしれない。
「俺の大切な妻にナンパしないでもらえますか?」
「す、すみませんでしたー!」
「素敵なカラオケをー!」
叫ぶようにしてそう言うと、男子生徒達は走って逃げていった。あの様子なら、優奈に二度とナンパしてくることはないだろう。
「優奈、大丈夫か?」
「はい。声を掛けられただけで、何もされませんでした」
「良かった」
何もされていないと分かって一安心だ。
「コスプレ中ですが、結婚指輪を付けていたので、彼らに見せようかと思っていたんです。そのタイミングで和真君が来てくれて」
「そうだったのか。俺のドリンクを取りに行ってくれているだけにしては遅いなぁと思ってさ。だから、ここに来たんだよ」
「そうでしたか。和真君が来てくれて、私のことを守ってくれてとても嬉しかったです! ありがとうございました」
優奈は今日一番の可愛い笑顔で俺にお礼を言ってくれた。だから、キュンとなって、胸がとても温かくなる。優奈をナンパから助けられて良かったし、それもあってこの笑顔を見られたのだと思うと、とても嬉しい気持ちになる。
「いえいえ。夫として当然のことをしたまでだよ」
「ありがとうございます。あと、私の肩を抱き寄せて、私のことを『大切な妻』って言ってくれたことにキュンとなりました。とてもかっこよかったです」
優奈は頬を中心に笑顔を赤らめながらそう言ってくれる。その姿も可愛くて、再びキュンとなる。顔も体もちょっと熱くなって。優奈のように、俺の顔も赤らんでいるんだろうな。
「素直な想いを言っただけさ。でも、かっこいいって言ってくれて嬉しい」
「ふふっ」
俺は優奈と手を繋いで、203号室に戻った。
「ご主人様。遅くなってしまいましたが、ジンジャーエールをお持ちしました」
メイドさんのように言うと、優奈は俺にジンジャーエールが入ったグラスを渡してくる。
ありがとう、とお礼を言って優奈からグラスを受け取り、ジンジャーエールを一口飲む。
「凄く美味しいよ。ありがとう、優奈」
お礼を言って、優奈の頭を優しく撫でる。
優奈はニコッと笑って「えへへっ」と笑い、
「ご主人様から、そして、大切な夫から素敵なご褒美をいただきました。ありがとうございます」
俺を見つめながら優奈はそう言ってくれた。物凄く可愛いな、俺のお嫁さん。さっきのナンパの一件もあって、夫として優奈のことを守りたい気持ちがより膨らんだ。
それから、俺達は終了時刻の直前までコスプレ衣装を着たままで色々な曲を歌った。
あと……俺がナンパから助けたからだろうか。優奈はずっと上機嫌で。ソファーに座っているときやデュエット曲で一緒に歌っているとき、優奈は俺と体が軽く触れるくらいに近くにいた。
ゲームセンターでは優奈と一緒にたくさん遊んだり、優奈に三毛猫のぬいぐるみを取ってあげたり。カラオケでは優奈と一緒にたくさん歌ったり、優奈をナンパから助けたり。優奈との距離がさらに縮んだ気がした放課後デートになった。
今日の放課後デートのおかげで、週末2日間のバイトを頑張れそうだ。
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