💰ステータスはSSS(トリプルエス)
「あ、あの……。こ、この奴隷、は?」
目を疑ってしまう状況に動揺して、声が上擦った。
檻に囚われた女子高生は、隅の方で顔を伏せ、いわゆる体育座りの姿勢で小さくなっていた。
「ああ、コイツですか。黒髪に黒い瞳、気味が悪いでしょう? しかも言葉も通じないときたもんだ」
言葉……。
この世界には当然ながら、日本語とは別の言語が存在している。
よくある異世界モノだと『言語理解』みたいな能力で不自由なく現地の人と会話ができたりするものだが、転生してきたダリスにはそのような能力はなく、クラノデア家の教育によって、この世界の言語を時間をかけて習得した。
転生者であれば、衣服もこちらの世界のものを着ているだろう。
紺色の制服を着ている彼女は、おそらく異世界転移してきたものと考えられる。
言葉が通じない、ということは『言語理解』の能力は与えられなかったか。
いきなり放り込まれた異世界で、聞いたこともない言語で話しかけられる恐怖はいかほどのものだったろう。
ダリスはふと思い立ち、真・鑑定で女子高生のステータスをチェックしてみた。
前世のオタク知識では、異世界転移にはチートが付きもの。もちろんダリスのようにギフトに全振りされていたり、大器晩成型だったりとパターンは様々ではあるが……。
【女子高生のステータス】
――――――――――――――
戦闘力 S
属性 火
勇気 A+
集中力 B
反射神経 A+
魔力 S
成長速度 A
成長限界 S+
――――――――――――――
ステータスに全振りだし、予想の百倍くらいバケモノだった。
戦闘力Sなんて結果を目にしたのは生まれて初めてだ。
一般的には、戦闘力Bで
さらに魔力もSで、成長限界はS+の
自分がゲーム世界の魔王なら真っ先に始末するな、などと変なことを考えてしまう。この異世界に、魔王なる存在が確認されていなくて良かった。
ともあれ、まずは彼女をこの奴隷売り場から救いださなくては。
「戦闘力は調べてあるんですか?」
念のためにそう尋ねたダリスに対し、奴隷商は不思議なモノを見るように大きく目を見開いた。その唇が小さく動き、我慢できないとばかりに小さく息が漏れる。
「ぷっ、あっはっはっはっは。まさか! 鑑定だってタダじゃないんですから。こんな細い身体した女を、わざわざ鑑定に出すような奴隷商はいませんよ」
それもそうか。鑑定して戦闘力をハッキリさせないと、強さの客観的な補償ができない。戦奴たちの檻にC、Dの札が並んでいたことを考えれば、それ以下の戦闘力の奴隷は戦奴としては足切りになるのだろう。
すなわち、戦闘力E以下の結果が出たら、鑑定費用が無駄になる。
うん。ダリスが奴隷商の立場でも、女子高生を鑑定に出すような真似はしない。
見た目で「こいつは戦闘力Fだろ」って決めつけていたと思う。きっと。
奴隷商にとって、彼女は『気味の悪い見た目をしたかよわい少女』であり、そこに商品価値を見出していないことがハッキリと確認できた。
「なるほど。……ちょっと彼女に話しかけてみてもイイですか?」
「はあ、それはまあ、構いませんけど」
ダリスは次に、彼女が本当に日本人かを確認する。
方法はもちろん、
「⦅もしかして、きみは、にほん、から、きたの?⦆」
※⦅⦆内は日本語です
日本語で話しかける、だ。
十五年ぶりの日本語だから、ちょっと片言になってしまったのはご愛敬。
ずっとうつむいていた女子高生が、ゆっくりと顔を上げる。
セミロングの黒髪ストレート、前髪は眉にかかるくらいに切り揃え、少し充血した目をダリスへと向けた。
もしかして泣いていたのだろうか。
やむを得ないことだろう。死んで転生したダリスとは違い、きっと彼女は生きたまま異世界に転移させられたのだろうから、そりゃ泣きたくもなる。
ダリスが女子高生の境遇に思いを馳せていると、彼女は口に手を当てて大きな、それは大きなあくびをした。
あ、ちがった。コイツ寝てたな。
SSSのステータスを持つレジェンドはモノが違う。
ステータスだけでなく、メンタルもバケモノだったようだ。
「⦅あれ? 日本語だ……。きみは誰?⦆」
「⦅おれの、なまえは、ダリス。もと、にほんじん、だ⦆」
女子高生は目をパチクリさせると、少し遅れてふふっと笑った。
「⦅もと? なにそれ。意味わかんない⦆」
確かに。元日本人って、自分で言っておきながら、もう少しわかりやすい表現はなかったものかと自問してしまう。いや、そもそも異世界転生だとか、異世界転移だとかいう現象が『意味わかんない』のだから、しょうがない様な気もする。
「⦅俺のことは、いい。きみは、誰だ?⦆」
ちょっとずつ日本語を思い出してきた。
まだ少し片言だけど、発音はだいぶカンを取り戻してきた。
「⦅ボクはチトセ。
コウガサキ、チトセ。
この姓と名なら日本人で間違いない……よね?
グローバリゼーションが進んでいるから、断言はできないけど。
なんだか一人称がちょっと独特だった気がするけど……いまはそんなことを気にしている場合ではない。
「⦅そ、そうか。チトセはどうしてココに?⦆」
「⦅わかんない。学校から帰ってたら、なんかバァーって光って、気がついたら捕まってた。ここどこ? 東京? 千葉? 埼玉? ……もしかしてドイツ村?⦆」
どうやらチトセはまだ異世界に転移してきたという認識がないようだ。いや、普通はそうか。
これが異世界でなく海外だったとしても、にわかには信じられない現象だ。
そんな女子高生に、異世界なんてオタク的な概念は伝わるのだろうか。
ダリスは少し考えて、自分なりのオブラートに包んでみた。
「⦅ここは日本じゃない。というか君の知っている世界じゃない⦆」
「⦅…………意味わかんない⦆」
チトセが眉をひそめる。
ついさっきの「意味わかんない」とは比べ物にならないくらい小さくて暗い声。
しかし、ダリスには本当のことを伝えることしかできない。
「⦅俺もそうだった。気持ちはわかる⦆」
「⦅…………ボクは、家に帰りたい⦆」
黒い瞳に涙がにじんでいた。
メンタルもバケモノ、と思ったことは取り消そう。
死んで、帰るところを失ってからこの世界に転生し、この世界で十五年の年月を過ごしたダリスと、生きたまま無理やりこの世界に転移させられたチトセとでは、やはり元の世界への未練の大きさが違うのだ。
彼女には帰れる場所がある。
しかし、ダリスには彼女をそこへ帰す術がない。
「⦅…………まずは、ここを出よう⦆」
💰Tips
【戦闘力】
戦闘の基礎能力であるSTR(力の強さ)、VIT(耐久力)の合計値
S+、S、A+、A、B+、B、C、D、E、Fの10段階で表示される。
S以上は伝説(レジェンド)クラス。歴史に名を残すほどの異常な強さ。
A以上は国家(ナショナル)クラス。国の代表として選ばれる強さ。
B以上は英雄(ヒーロー)クラス。二つ名がつき他国にも名前が伝わる強さ。
と言われているが、そのほかのステータスとの組み合わせや、ダリスでも鑑定できない個人の特性によって強さを十分に発揮できないケースも往々にしてある。
逆に戦闘力が低くてもステータス次第で戦闘に役立つケースも多々ある。
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