007

それから二人は、才能の追跡官アビリティトレーサーの第三班であるブラッド班が寝泊まりする一軒家へと到着。


アンプリファイア・シティによくあるレンガ造りで、他の家との違いは、リズムが個人的に庭に植えた色とりどりの花にあふれている。


主に二階に女子班員たちの部屋があり、一階は男子の部屋がある。


第三班でいうと、二階にリズム、パロマ、そしてもう一人のメンバーであるシヴィル·エレクトロハーモニー。


一階には、班長であるブラッド・オーガニックとムド·アトモスフィアだ。


パロマは帰るなり自分の部屋へ向かい、リズムも自室で着替えて一階にあるキッチンへと向かう。


「よし、パロマに慰めてもらったし、おいしい晩ご飯を作りますか」


班員には、軍警察から食事が提供される。


だがリズムは、それでは味気ないと自分で作った料理を班員たちへ振舞っている。


冷蔵庫に入っていた豚バラブロック、にんじん、玉ねぎ、じゃがいもなど他にも野菜を取り、棚からカレーのルーを出す。


この時点でリズムが今夜何を作るかわかる。


彼女は何か落ち込むことがあると、夕食がカレーになることが多い。


そのことは、第三班メンバー全員が知っており、食事にカレーが出ると「あぁ、何か嫌なことがあったんだな」と感づかれる。


リズム本人は気が付いていないが、これは癖なのか儀式なのかなんなのか。


ともかく彼女は何故か辛いときにカレーを作る。


「おッ! 今夜はカレーか」


班長であるブラッドが帰って来た。


ブラッドはコートを脱いでキッチンへと入ろうとすると――。


「ブラッドさんッ! ダメですよ。ちゃんと手洗いうがいをしてください」


「お、おう……」


リズムに注意されて洗面所へと向かう。


その後、カレーライスとサラダが完成。


ブラッドは通信機器を使わずに、各班員の部屋の前まで呼びに行く。


「おーいシヴィル、メシできたぞ」


「はーい、今ゲームしてるから切りのいいとこでいくぅ」


返事を聞いたブラッドはため息をつくと、次にパロマの部屋の前へと行く。


「おーい、お前も聞こえてたろ? メシできたぞ」


扉が開く。


だが、パロマは先ほどブラッドが尋問で聞いた情報を軍警察の電子掲示板で見たようで、これから外へ出かけてくると言い始めた。


「ドラッグはカップルで使用していることが多い。そのことは、私もなんとなくわかっていました。チルドの恋人がいそうなところに心当たりがあるので、今から出てみます」


「おいおい、そんな慌てんなって。まずはメシを食ってから、皆で話し合ってだな」


「問題ありません。今回は私一人でやります」


「おいパロマッ!?」


そして、パロマは家を出て行った。


ブラッドが困った顔をしていると、その横をムドが通り過ぎていく。


「オレもメシいらねっす」


「なんだよ、お前も出かけんのか?」


「パロマを一人にしちゃマズいっしょ。なんかあったら連絡しま~す」


バタンと扉は閉められ、ブラッドは苦い顔をして立ち尽くすだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る