第5話

「なんや、あのバカデカイ星求心力は!!」


青白い肌をより一層青ざめながら怯えを隠すように言う。


「まさかあれ程の星求心力を持っているとはな。貴様らや我ではもう推し量れんほど堕天使は力をつけたようだ」


甲冑で表情は見えないが驚きと焦りを感じさせる声色だ。


(我や星の名を持つ星光の地位に就く者たちから力の一部を借り身体能力向上や超常の力を使う…それが星求心力だ…つまり…)


「あれがぁ~堕天使のチカラのいちぶぅ~って事でしょ~!?キャハハハ!笑っちゃうねぇ!」


言葉の節々から怒気と怯えが滲み出てしまったが笑って誤魔化そうとする。


「まったくじゃ。あれで一部じゃ。堕天使はどれ程の星求心力を今持っているのか検討もつかんわぃ」


驚きと焦りから髭を撫でずにはいられない。こうしないと落ち着かないのだ。


「タティス。フータオ。那由多。リ・カーマ。

お互いに探るのは良さんか。まだあれが堕天使の力だと決まった訳じゃなかろうて。」


「うちんとこの信仰者じゃないで」

「我も違う」

「ぼくもだよぅ~」

「ワシもじゃ」


「口で言うのは簡単じゃ。確かめる方法がないからのぅ」


長老の指すような視線に他の面々から怯えなどの感情はいつの間にか霧のように消えていた。

心の機微を感じさせまいと全員が能面のような表情になる。


(なにせ、一から六まである星光ナンバーを自身のしか知らないからのぅ。五星光と言っても一枚岩じゃない。あの物がどの星光の信仰者なのか。慎重に見定める必要があるか…)


星求心力は各々が根底から信仰している星光から力を借りる。

星光は自身の信仰者かそうでないかしか分からず、その信仰者が他のどの星光を信仰しているのかは分からないのだ。

他の信仰者又は星光からナンバーを問いただす事は出来なくもない。

ただ、星求心力は信仰者自身の魂と固く結びついていて本人の意思に反して聞き出そうとすると、魂が自壊を始めてしまうのだ。

星光自身は他者の星光ナンバーを知る事は固く禁じられていて、それ相応の罰が他の星光から降るようになっている。


それが星光になるために交わした誓約だった。


「ただ一つ判明したな。幸の光の青年は死に戻った。つまりそこに奴の狙いはある」


長老の発言にあたりは静まりかえる。

誰しもが分かっていた事だったが改めて言われるとその現実を受け止め難い。


(ふぅ…まさか星光を根本から覆す事になるとはの)


---


「くっそ!このターザン娘め!せめて心の準備をさせてくれ」


またしても気絶した暁人が恨めしげにうさ耳を見る。


「あはは!いっぱい笑わせてもらったピコ」


お腹を抱えて涙目になりながらゲラゲラと笑うリーナ。


「ッツ」


泣き笑いの表情があの時の琴香に似ていて胸が熱くなる。

ただ、高まる鼓動とは裏腹に琴香に会えない寂しさから心中は雪山のように冷え渡っていた。

(琴香…どこにいるんだよ。最後に見た琴香は絶対に別人だ。どこかに本当の琴香が…)


そこで暁人は唐突に思考を放棄した。


なぜなら。この枝の高さまでぴょんぴょんと跳んでくるうさ耳たちを目にしたからだ。


大きく屈み膝を抱えて枝の高さまで跳んで来る者。

遥か向こうからツタを使って跳んで来る者。

ターザンの要領で右から左へ。左から右へ。

うさ耳が生えた老若男女が縦横無尽に駆け回っている。


走るより飛ぶ方が早いよと言われた時はなんのこっちゃっと思ったがこういう事らしい。

まさか交通手段がツタとは。

目の前に広がるターザンワールドに筋金入りの高所恐怖症の暁人はため息しかでない。


(どんな脚力してるんだよ。あんなのにタイキック食らったら死ぬな。けつが3つに割れるよ)

脳内に響き渡る(暁人OUT~)という恒例の声を聞き

自分の惨状を想像し身震いした時。



「おーぃ!リーナぁやーい!!」


野太い声がした方向を向くとそこには、綺麗な逆三角形の筋骨隆々のピコクル族が立っていた。

オールバックにした緑髪に蛇のような鋭い瞳。刻まれた腕や顔の傷はまさに歴戦の戦士といえるだろう。

うさ耳も深く刻まれた傷が渋さを醸し出していて、彫りが深い顔とマッチしている。


上質な使い古された純白の鎧を着用しているのだが、下半身に光るあみタイツが既出の彼の渋さ、雄々しさ、カッコ良さをなんともアンニョイな雰囲気にしていた。


(ば、バニーガール?いやボーイか…それよりなんで下はあみタイツだけなんだ。)


「あ!お姉ちゃんピコ!」

「お姉ちゃん!?!?」


今日一番の驚きを含んだ絶叫があたりにこだました。

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