第48話
「妻の妊娠で、俺の子なのか不倫相手の子なのかもわからず、結局俺は不倫相手の権力に負けてしまい闘うこともできずに一人逃げ出してしまった。その約一年後だ。妻が出産時に亡くなったと聞いたのは……。俺は守るべき相手を守ることもできず、自分の感情だけで取り返しのつかないことをしたのだ。こんな俺が父親だと知ってしまいすまないと思っている」
お父様は、お母様のことが大好きでたまらなかったそうだ。だからこそ、理由はなんであれ他の男と関係を持たれたことに対して怒りがおさまらなかったらしい。
デズム子爵の権力の前には、どうすることもできず泣き寝入りするしかできなかったそうで、逃げ出したのだという。
私も長い間物置小屋に閉じ込められていて、どうすることもできない日々だったから、辛かった気持ちがわからないこともない。
「俺はあのとき、妻のそばに寄り添い守るべきものを守れば良かった。だが、亡き妻が産んだ子供が俺との間にできた子かもしれないと聞き、今回も俺の感情だけでここへ来たんだ。情けないが……」
「ヴァーンよ、おぬしは当時のことを悔い、毎日懺悔していると聞いていたが」
「はい。権力に負けないよう、力でもねじ伏せることができるように毎日身体を限界まで痛めつけています。それでも妻の苦しみには到底及ばないでしょう」
「もう、やめてください……」
私は苦し紛れにひとこと、お父様に対してお願いした。
すべては権力で寝とったあの男が悪い。
おそらく今まで泣かされてきた人は大勢いるだろう。
だが理由はどうであっても、家族が傷付いたり、苦しんだりするところを見たくなかった。
「私にとって、お父様はたった一人の血が繋がった家族なんです。毎日懺悔で苦しんでいるのなら、私も気持ちが苦しいです」
「ソフィーナ……」
「まだお父様のことを良く知りませんし、こんなことを言える立場ではありませんが……。一緒に過ごせなかった時間は戻りませんが、その分これから寄り添っていただけませんか?」
「このような話をしたのに、おまえは許してくれるのか?」
「許すもなにも……。私の知らない過去の話に対して怒ったり幻滅するつもりなんてありません。むしろ、今どうしているのかが大事かなと」
話を聞いていたら、何年も悔いてきて、牢獄生活よりも過酷そうな日々を送っていたようだ。
むしろデズム子爵がそのような生活をするべきはずなのに……。
お父様は、陛下に真剣な目を向け、跪いた。
「陛下。大変身勝手ではありますが、今後ソフィーナの近くにいるようにし、今度こそ大事な家族を守りたい所存であります。どうか……、警備兵でも構いませんのでもう一度国の兵として……」
「うむ。むしろそのつもりだ。今回、ヴァーンをここへ呼び寄せた目的として、もう一度騎士団長として働いてもらいたい」
「良いのですか⁉︎ 今の団長は」
「今の騎士団長もモンブラー子爵家の治安維持部隊と深く関わりがあってな。次から次へと不正も浮き彫りになっていて、当然クビにし現在は地下牢に入れてある。民を守るべき者が民を苦しめていたのだから当然だ。デズムも団長も、権力を使い女を道具のようにもてあそんでいたとは……」
お父様が不思議そうな表情をして頬を掻いていた。
「ありがたく仕えさせていただきたく思います。しかし、どうして今になってそんなにも次々と不正の証拠を掴めたのです?」
「それはな、ソフィーナの婚約者であるレオルド=ミルフィーヌが作った素晴らしい道具のおかげだよ。まだ試作品ではあるそうだが、充分すぎるほどの効果がある」
「婚約者⁉︎」
お父様がジロリと私に視線を向けてきた。
「申しわけございません。お父様とこうして会うまえにレオルド様と知り合い、良き関係で一緒に住んでいます」
「良き関係? 一緒に住んでいる⁉︎」
あぁ、父親が娘に対して妬くってこういう感じなんだな。
まだたいして時間も経っていないのに、こんなに心配してくれているのがむしろ嬉しかった。
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