第35話

 義理の兄妹だと思われているから仕方のないことかもしれないけれど、今の私にとって、レオルド様に対して申しわけない気持ちでいっぱいだ。


「あの……。手は繋がなくても良いかと思いますが……」

「なんでだい? こうして義理の兄妹で初めて会えたから嬉しくて……。でも、婚約者がいるから困るかな……。ごめんね」

「私のほうこそ申しわけございません。婚約者のレオルド様以外の男性と手が触れるのは初めてだったもので」


 正確には国王陛下やセバル侯爵様と握手をしたことはある。

 だが、あれは明確な挨拶だとわかるしノーカウントだ。

 今回のブルクシア様との手の触れ合い方は、女の直感として避けたかったのだ。

 どうしてこんな気持ちになったのかはわからないまま、モヤモヤしながらレオルド様のところへ向かう。


 ♢


「お初にお目にかかります。レオルド=ミルフィーヌと申します。爵位は男爵を叙爵されたばかりであります」

「これはこれはご丁寧に。ブルクシア=モンブラーと申します。爵位はまだ叙爵されていませんが、父上の跡を継がず、自力で叙爵したいと考えています」

「え? ブルクシア様なら後継者として継げるのでは?」


 私はブルクシア様の発言に驚きを隠せなかった。

 だが、ブルクシア様は冷静である。


「冷静に考えて無理だと思うよ。むしろ、早いところ縁を切っておきたいと思っている」

「なぜです?」

「父上も母上もヴィーネも、このままだと家ごと崩壊するんじゃないかな。ソフィーナは首席で合格するはずだったと思うし。それを壊したのは父上じゃないかな?」


 私の試験に関しては、治安維持部隊の誰かが不正を訴えたのだと聞かされている。

 学園長が逆らえない相手。

 そう考えると、デズム子爵でもありえるとは思っていたが……。

 あっさりとそのことを言ってしまうブルクシア様のことに対しても驚いてしまった。


「本当にすまないと思っている。ソフィーナ……。そしてレオルド男爵。家族の素行、大変すまなかった」

 ブルクシア様が頭を下げて謝ってきた。


 もしもこのまま、告げ口をしてしまったら、こんなに温厚そうなブルクシア様の人生も変えてしまうことになる可能性が高い。

 私が全てを許してしまえば良いことだ。

 勝手に不正と決めつけられたことでレオルド様にも多大な迷惑をかけてしまったし、許さないつもりだった。

 だが、真剣に謝罪してくるブルクシア様の姿を見て、許してしまおうと思う。


「顔をあげてください。もう良――」

「ブルクシア様。ここは一度、ソフィーナと今後のことを話し合いたいのです。大変ご無礼承知のうえですが、一度お戻りになっていただけませんでしょうか?」

「え? ちょっとレオルド様?」


 ブルクシア様は、ニコリと微笑みながら、下げていた頭をあげた。

「そうですね。いきなり謝罪するだけでは困りますよね。失礼しました。それでは僕はこれで……」


 一人退室していくブルクシア様。

 レオルド様にしては、冷たい態度をとっていたような気がする。

 だが、レオルド様は真剣な表情で私のことを心配してきたのだ。


「ふう……。あれは強敵ですね……。ソフィーナも人が良いからすぐに騙されそうになる。気をつけてくださいよ」

「はい? ブルクシア様はとても良い人かと思いましたけれど……」

「私もそうであってほしいと願いたいところです。ですが、色々と不自然な点が多いと感じました。今はまだ、彼の言っていたことをそのまま鵜呑みにしないほうが無難です」


 レオルド様は、ブルクシア様のことをなにかしら疑っているようだ。

 そういえばブルクシア様に握られた手が、本能的に妙に気持ち悪いと思ってしまった。

 すぐにトイレへ行き、水魔法で綺麗に洗っておいた。


 数日後、事態は急変する。

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