三度目の人生〜無能に転生する〜

フィリア

第1話

「ゴミね」


「あぁ、ゴミだな」


「私たちはこんなゴミを愛情持って育ててあのね、反吐が出そうだわ」


「全くその通りだ。というか、こんなゴミを視界に入れることすら忌々しい。早く山奥にでも捨ててしまおう」


 なにやら俺の目の前でそのような物騒な会話が聞こえてくる。そして、その会話の中で多発しているゴミという言葉。その対象は、きっと俺だ。


「パパ、ママ。僕のことを捨てちゃうの?」


 一応子供らしく両親を呼び、今の待遇について聞いてみる。が、母親らしきその女はヒステリックに叫ぶ。


「ママなんて言葉で私を呼ばないでちょうだい!!お母様と呼ぶべきでしょう!?」


「じゃあお母様、僕は捨てられてしまうのですか?」


「私はあなたのようなゴミの母親ではありません!!」


 なんという理不尽。この世の不条理を全て詰め込んだかのような返しだ。


「俺たち一族の子供だから優秀な異能を持ち合わせて生まれてくると期待していたが、まさかの無能力だったとは。俺たち貴族の一族に泥を塗るのはやめてくれ」


 父親らしき男はやれやれと言った風に頭を抱えている。その顔は真っ青で、まさか自身の血を引く子供から無能力の人間が生まれてくるとは思わなかったのだろう。


 この世界では通常五歳の時に異能か魔術の才があるかないかが発覚する。五歳の誕生日を迎えた瞬間、少し高価な異能結晶と呼ばれる異能か魔術の才の有無を検査する結晶で、それらがあるかないかを検査するのがこの世界のしきたりだ。そして、今はその真っ最中なのだが、両親も、はたまた俺もどのような異能が備わるのかワクワクしていた………のだが、結果はまさかの無能力。そのせいで両親はショックを受けていた。


「まぁとりあえずは早く捨ててしまおう。リジェナ、馬車を出してくれ」


「えぇ、アルベルド。すぐに用意するわ」


 リジェナが俺の実母で、アルベルドが俺の実父だ。性がカーナ。ちなみに、カーナ家は世間的にも有名な貴族の一家だ。そして、リジェナ•カーナとアルベルド•カーナが両親の名前だった。いや、すでに両親とは呼べないのかもしれない。なぜなら、今俺はリジェナの異能、縛りを設ける能力によって拘束されているから。


 その異能はすごく優秀だった。縛りを設ける。一見聞くと、内面的やもの、具体的には身体能力だったり思考回路だったりに縛りを設けて相手を弱体化させるような能力に聞こえるが、物理的に縛りを設けることも可能らしい。今がその例で、俺の手足は鎖のようなものに縛られている。試しに抜け出そうと試みるが、びくともしない。


「お前如きじゃ私の鎖から抜け出すことは愚か、破壊することすらできないわよ!!」


 そりゃそうである。そもそもとしてリジェナは中級能力者である上に魔術も多彩だと聞く。人間としての格が普通の人とは違う。それに加え、俺はまだ五歳であり無能力。勝てるわけがない。それくらいこのヒステリック女は気づかないのか?


「五歳相手に大人気ないですよ?お母様」


 試しに煽ってみる。瞬間から、ピキリと血管が切れる音がした。それも右前と左前から。前方には馬車を用意し終わったアルベルドとリジェナがいる。その顔は口紅を塗りたくったかの如く真っ赤で、今にも頭頂部から火を吹き出しそうだ。


「お前ってやつは!!」


 アルベルドが血管が浮き彫りになった顔をそのままにして叫びながら俺の目の前までやってきて、その拳を俺の頬に直撃させた。いてぇ……


「自身の立場を理解しろ!!お前はゴミなんだ!!ゴミはゴミらしく黙ってろ!!」


「わかりました。僕がゴミならあなたたちはそれを食べるゴキブリですかね」


 直後として俺の首はリジェナの異能によってフルパワーで締め上げられた。そして、意識は当たり前のように飛んだ。全く、五歳相手に本当に大人気ない。


 

―――――――――――――――――――――



「この辺でいいかしらね」


「あぁ、この辺なら人は全く来ないはずだ。それに、万が一見つかっても俺たちの権力ならもみ消すことができる。心配するな、リジェナ」


「えぇアルベルド。あなたのことを信じているわよ」


 2人は軽く抱き合った後、馬車に再び乗り込み、その場を後にした。そして、それを俺は普通に見ていた。意外と早くに目が覚めたので、2人の会話を盗み聞きしていたのだ。


「ったく、おいてくならこの鎖くらい外してくれよ」


 そう言って視線を向けるその先には、手と足にかけられた鎖が映る。今俺は深い山の奥に捨てられ、横たわっている状態だ。この状態なら五歳の子供は三日も経たないで死ぬ。魔獣やクマなどの大きな獣や単純な飢えだったり、とりあえず危険な状況には変わりない。


「ま、いっか」


 だが、俺はそんなことどうでも良かった。なんせ、俺には生き残る術がある。


 パきりとした金属音が響く。俺の視界に入っていた鎖は、少し力を使ったら割れていた。


「確かに俺は無能力かもしれないけど、前世と前々世では無能力じゃなかったぜ?」


 そう、俺は今は確かに無能力だ。だが、人には前世というものがある。そして、俺にはその前世の記憶があった。それは、自身が能力者だという記憶。それも、二回分。


 つまり、俺は三回目の人生を歩み始めているというわけだ。


 そしてもちろん、前世と前々世の異能と魔術は当たり前のように使える。

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