拝啓、死にたくない私へ

安全すぎる安全靴

拝啓、吐き出せない私へ。

吐き出す場所がなくてこうしてパソコンへ向かっている。

確かに今日のバイト中から様子はおかしかった。ぐちゃぐちゃいろいろ考えて出た結末は「愛される勇気がない」ことだった。

恋という恋をしたことがない。うらやましいと思う。そういう経験をしている人を。単純に楽しそうだという理由もあればそんな経験がなかったないものねだりのようなものだろう。

この年まで恋なんてしてこなくて。いや、恋をしていても見て見ぬふりをしていた。

だって、自分が一人じゃ生きていけないことを自覚してしまいそうだったから。

一人でずっと生きてきた。別に天涯孤独ってわけじゃない。でも、ある日から自分が嫌になって人が嫌になって親にさえも壁を作って。自分の理想のキャラを演じ始めてから漠然と一人なんだと自覚した。

気楽だしいいかと考えていた。でもそうすると「死んでみたいんだ」って話せる人がいなくなった。もちろん甘やかしてくれる人だっていなくなった。作らなかった。

ずっとずっと寂しいことに鈍感な私は気が付かなくて。甘やかしてくれる人に出会って、嫉妬とかしてやっと気付く。

私は寂しかった。甘えたかった。って。

そうして怖くなる。じゃあこの人がいなくなったらって。

いなくなって押しつぶされる未来が見えて。だったら離れてしまおうとそう思ってしまう。

誰かとずっと一緒にいる未来が見えない。愛されている未来が見えない。

どうせすぐいなくなる。その考えが頭の中にずっと居座りやがる。

終わりが安心する。

あと何年でいなくなるって思うと気が楽になる。

だからこそ、ずっといるかもしれないというものが怖くなる。

ずっといて自分からじゃなくて相手から一方的に嫌われたり、もうそんなことができなくなったら。

考えただけで深呼吸ができなくなる。

だったら自分からとそうして自分で自分を追い詰める。

いつもそう。

ずっとそう。

これからもそう。

そうして、別に誰にやられたわけでもないのに、自分で自分を切り刻んで、死にたいわけでもないのに死ぬ方法なんかを考えたりする。

溺死は醜くなるらしい。飛び降りは勇気が出ないだろう。首吊りは成功すれば一瞬だけど失敗したらただずっと苦しい。

どうしようかと考えて、ああ、手を切って湯船に沈める王道を行こうと思いついた。

そうして死んでいく自分を想像して深呼吸する。

肺にいっぱいの息が溜まって吐き出すときに気分が落ち着いて、自分で自分を殺して生きているって自覚をする。

今日も生きてるんだから別によくね。敬具

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