第25話 目的達成
「なっ!? ま、まさか……!? 本当に魔王と勇者の遺児が存在したのか!?」
あれ? 信じられないって感じ? ここまで親切に明かしてやったのに。
「そうだよ。ほら、見てみろよ」
俺は両手を広げて相手に見せる。
「種も仕掛けもありません! ついでにお前らが作った魔導具もありませ~ん!」
フリッツが使っているような指輪もない。この男が所持しているようなネックレス型の魔導具もない。
王女様が俺の胸に刻んだ「死の魔術式」を消す時に偽装として使った魔宝石も無し!
そんな状態でパチンと指を鳴らし、同時に「火よ、照らせ」と口にする。
「ほ~ら。どう?」
俺の人差し指の先には小さな火が生まれた。まるでロウソクの先についた火だ。
「ま、魔法……」
「正解!」
よくできました! と言わんばかりに男を指差した。
「これがお前達の求める魔法。残念ながら、俺の親父である魔王は魔法の使い方を確立しちまったんだわ」
まぁ、使えるヤツは限られるんだがね。
「ど、どうやって!?」
あら、食いついちゃったよ。
いや、当然か。黒板に滅茶苦茶書いてるもんな。魔法を解き明かしたいって。
こいつも元は魔法を解明したい魔術師だったのかも。
「う~ん。どうしようかな?」
――つまるところ、魔法も魔術も根本的には同じだ。
何かしらのエネルギーを元に何かを生むってこと。ここは共通している。
魔術の場合は魔力を含んだ触媒を元に火や水を生むわけだ。あと「何を発生させたいか」を示した魔術式が必要になる。
だが、魔法はここが少し違う。
魔法は触媒も魔術式も使わない。
魔力を含んだ「何か」を使わず、人体に保有する魔力をも必要としない。発動したい現象を記した設計図も必要としない。
魔法を発動する際に必要となるのは「魔力のような目に見えないエネルギー」であるが、ここが魔術とは一番違うところ。
魔法に必要とする力は『精霊の力』だ。
精霊とは太古から存在する世界を構成する力であり、この世界そのものでもある。
簡単に言えば人とは違う存在だ。限りなく神に近い存在だ。
人よりも大きな力を持つ精霊に助力してもらう。
触媒や人体に蓄積された魔力を同時消費するのではなく、精霊という『外部の力』を貸してもらうのだ。もっと簡単に言えば精霊が保有する無尽蔵の魔力を借りて発動する。
魔術が魔法よりも劣る最大の理由は「消費できる魔力」に限りがあるから。
触媒や人体といった小さな器の中にある少量の魔力しか消費できないから発動する奇跡も小さくなる。
だが、精霊の力は無尽蔵だ。
だって世界中に満ちる力なのだから。世界そのものから力を引き出しているのだから。
だからこそ、魔術と違って神の如き奇跡を可能とする。
ここまでの違いを比べると、魔法がいかに優れた術か、神の力と呼ばれる理由が分かると思う。
だが、触媒や道具を用いれば誰でも使える魔術とは違い、魔法を使うには制約がある。
一番の難点にして最大の難関は「精霊を感じられるか」ということ。
魔法を使うには精霊に助力を乞う必要があるため、精霊の存在を認知しないといけない。
たとえば、声が聞こえるとか。あるいは精霊そのものが見えるとか。
この男が現れた時、俺は「擬態の魔術だ」と見抜いた。それはヤツの周りに光の精霊がいたからだ。光の精霊が俺の耳元で囁いたからだ。
擬態の魔術は光を用いて、術者の姿形を見せかけるもの――ってね。
死の魔術式を解除したのも、ロナの魔法を判別したのも。全て見えて、耳元で囁く精霊達が教えてくれたってわけさ。
とまぁ、これが魔法と魔術の違い。
同時に野郎共が解明したい事実――なのだが。
「教えてほしい?」
俺は勿体ぶるように言いながらニヤッと笑った。
「あ、ああ!」
この男、恥じやプライドはないのかね?
俺はあんたらの組織が追う遺産の正体だよ? あんたらが人類の敵認定した男と女の子供だよ?
そんな相手に問われて、即答するとはね。
笑えるぜ。
「だめだよ~ん!」
悪いねえ! 俺は大悪党なんだ! 世界の敵なんだぜ!
教えてあげないよ~ん!
「き、貴様!」
俺が思いっきり煽ってやると、男の顔が真っ赤に染まる。
おいおい、怒るなよ。分かりきってた返答じゃねえかよ。
「まぁ、ワリィけどさ。さっさと目的を達成して帰りてえのよ。報酬も欲しいし」
当初は適当に金を稼ぎながらナイフを行方を探すつもりだったが、妙なことに巻き込まれちまった。
だが、結果としては良かったね。
俺の目的も仕事も同時に達成できるんだ。お袋のナイフも手に入り、王女様からたんまりと報酬も貰えるってわけ。
「だからよ、さっさと死んでくれや」
俺はパチンと指を鳴らす。同時に「雷よ、共に」と呟く。
両足には雷が纏わりつき、一歩を踏み出した俺の速度はまさに雷の如くってね。
バヂンと軽い音を発しながらも、俺は一瞬で男の背後へと回り込む。
背後から男の手首を掴むと、再び「バヂン!」と軽い音が鳴った。
「ぐあッ!?」
手首に雷が走った男はナイフを手放す。
俺はそれを宙で拾い、手の中でくるんと回転させた。
「あばよ。お袋と親父によろしくな」
逆手に持ったナイフで男の首をスパッと斬り裂く。
男の首からは血が噴き出し、やがて体から力が抜けて床に倒れた。
「…………」
俺は男の死体を見下ろした。
今、俺の目はどうなってるだろう? 冷めた目をしてるかね?
まぁ、いいさ。俺の目的は達した。
ナイフに付着した血を払い、ナイフホルダーに仕舞う。
「さぁて……。王女様になんて説明しようかな?」
結果的に王女様が信頼していたボルドー侯爵は裏切ってなかったってことだ。
真犯人はマギフィリアの一員だったわけだし。
だが、馬鹿正直に言えば俺の正体が王女様にバレる。これだけは避けたい。
「……証拠を持ち出して、地下室のことは黙っておこうかな?」
そう呟きながらも、俺は奥にあった机の上に散らばる書類を搔き集めて内容を確認。
やっぱりと言えばいいか、散らばっていた書類は今回の事件に関係する内容ばかりだった。
「あとは……。王様の薬か」
王様が飲まされた毒の解毒薬は……。ああ、引き出しの中にあるこれか?
青い小瓶の中に赤い液体が入ってる。これを持ち帰ればボーナスゲットってなるわけだが。
「いや、薬まで見つけたら都合が良すぎるか?」
何でもかんでも俺が手に入れたら不自然すぎるだろうか?
とにかく、正体がバレることだけは避けたいからな。
悩んだ結果、解毒薬は持ち帰らないことにした。代わりに引き出しの中に手書きのメモを残しておく。
「王に、飲ませた、毒の解毒、薬、っと」
サラサラッと文字を書いて、これみよがしにメモを置く。その上に瓶を乗せれば完璧だ。
……さすがに露骨すぎるかな? 何も知らないヤツが見たら「こいつアホかよ」って思いそう。
「まぁ、いいか。どうせアホだしな」
俺は喉を斬られて死亡したアホを一瞥した。
「うっし! 書類は執務室で見つかったことにしてっと!」
書類は執務室で見つかったことにしておいて、すぐに脱出したってことにしようかな?
最後に俺は横たわるボルドー侯爵の死体に視線を向けた。
王女様が証拠を掴み、騎士団を率いて侯爵家を強制調査。調査が始まれば地下室の存在も明らかになるはず。
そこで見つかるのは二人の死体。
片方は見慣れぬ男の死体だ。もう片方は不自然な状態で遺棄されたボルドー侯爵の死体。
あとアホっぽい解毒薬。
いや、とにかく一番目を惹くのは二体の死体だ。床に転がった死体の方がインパクトが強いに決まってる。
事件解明のために死体を調べれば……。ボルドー侯爵は事件が明らかになる前から死んでいたってことが判明するかも。
「騎士団お抱えの医師もアホウだったら最悪だが」
死体の死亡時期や遺体に施された細工を見抜けないアホ医者だったら、王女様は「やっぱり裏切ってた」と泣いてしまうかな?
イイ女が泣く姿はあまり見たくないな。
「う~ん……」
俺は暗い部屋の中で膝を抱えながら泣く彼女の姿を思い出しつつも、自分の正体がバレるリスクを天秤にかける。
「あんまり親切すぎるのもな」
ガシガシと後頭部を掻き――
「ダメだったら、別の手を考える!」
しょうがねえ! その時はその時だ! と無理矢理自分を納得させた。
「よっしゃ、帰ろ! 脱出、脱出!」
ササッと書類を集めて、丸めて。大急ぎで屋敷を脱出した。
夜の闇に紛れながら北区を走り、巡回している騎士達にバレないよう北区も脱出して。
「おおい! フリッツ!」
懐中時計を片手に待っていてくれたフリッツに声を掛けながら手を振った。
「ああ、良かった。無事に戻ってこれたんだね。時間が掛かってたから心配したよ」
ニコリとイケメンスマイルを向けられる。
普段なら「何イケメンぶってんだよ、クズ野郎」とブチギレるところであるが、今の俺は機嫌がいい。すこぶるいい。
「それがよぉ、聞いてくれよ! 執務室に侵入したらさぁ! 書類がさぁ!」
俺はテンション高めに嘘を吐きつつ、フリッツと共に夜の王都を歩いて行く。
こうして、俺の仕事は終わったのだ。
あとは王女様から報酬を貰うだけ。
報酬を貰って……ケケケ!
娼館で綺麗なお姉ちゃん達と添い寝しまくるぞ~!
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