第二章
第一話 モテる女は辛いよ
大臣とゼッペルを倒した翌日、俺とマヤノは玉座の間でヘイオー王子と向き合っている。
「フリード、そしてマヤノ、お前たちの活躍のお陰で、無事に城を取り戻すことができた。礼を言おう」
軽く頭を下げ、ヘイオー王子が感謝の言葉を述べた。
「いえ、無事にお城を奪還することができて何よりです。では、俺たちはこの辺でお暇させていただきます。次に向かう場所がありますので」
「そうか。フリード、お前にも聞きたいのだが、マヤノはお前の仲間ではないのだな?」
城から立ち去ることを告げると、ヘイオー王子がマヤノとの関係を訊ねてくる。
マヤノとは、成り行きで一緒の依頼を受けたに過ぎない。依頼完了の報告を済ませれば、別々の道を進むような関係だ。
「はい。成り行きで一緒の依頼を受けたに過ぎないので、正式な仲間ではないです。協力関係と言うのが一番しっくりくるかと」
「なるほどな」
正直に答えると、ヘイオー王子は顎に手を起き、何やら考え事をしている素振りを見せる。
「分かった。では、マヤノと2人きりで話しがしたい。悪いがこの部屋から出て行ってくれないか? トウカイ騎士団長も人払いを頼む」
「了解しました」
ヘイオー王子が玉座の間から出て行くように言うと、近くで控えていたトウカイ騎士団長が兵士たちを引き連れて、この部屋から出て行く。
いったいマヤノとどんな話しをするのだろう?
少しだけ気になってしまうが、俺とマヤノは一時的に手を組んでいるに過ぎない。俺が何か言う権利はない。
「分かりました……俺は廊下で待っているから、話しが終わったら来てくれ」
「う、うん」
廊下に出ていることを告げると、マヤノは少し心配そうな顔で俺の顔を見る。
どうしてそんな顔をするのだろう?
疑問に思ってしまったが、早くこの部屋から出ないと。またヘイオー王子の機嫌を損ねることにもなり得る。
足早に歩き、玉座の間から出て行く。
扉を開けて廊下に出ると、他の兵士たちはいなかったが、トウカイ騎士団長だけが待機していた。
「トウカイ騎士団長、あなたもここで待っているのですね」
「ああ、彼女を信じていない訳ではないが、万が一のことも考えてここで待機をしている。最悪の場合はいつでも飛び出せるようにな」
真剣な表情で言うトウカイ騎士団長に対して、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
マヤノがヘイオー王子を手をかける? そんな心配をする必要はない。だけど、これも彼の仕事なのだろうから仕方がないのかもしれないな。
しばらくトウカイ騎士団長と雑談をしていると、玉座の間の扉が開かれて中からマヤノが出て来た。
「フリードちゃん、お待たせ。トウカイさん。ヘイオー君が来てくれって。今後のことを話したいらしいよ」
「そうか。分かった。では、ヘイオー王子の話しを聞くとするか」
彼女と入れ替わるように、トウカイ騎士団長は玉座の間へと入って行く。
「なぁ、ヘイオー王子とどんな話しをしたんだ?」
俺とマヤノは正式な仲間ではない。だけど、気になってしまったので思わず訊ねてしまった。
「うーんとね……内緒かな? 別に大した話しではなかったから。だから気にしないで」
ニコッと笑みを浮かべ、気にする必要はないとマヤノは言う。
彼女が話したがらないのなら、無理に聞く必要はないか。
「いやー、モテる女は辛いね。でも、マヤノはパパと同等か、それ以上じゃないと興味はないの」
「何か言ったか?」
「気のせいだよ。あっそうだ!」
空耳ではないかとマヤノが言うと、彼女は懐から麻袋を取り出して俺に渡してきた。
「今回の報酬だよ。ヘイオー君がフリードちゃんに渡してって」
袋の中には金が入っていると言い、俺は縁を開けて確認をする。すると、彼女の言う通り、中には札束が入っていた。
念ために枚数を確認すると、1万ギル札が500枚入っている。
「確かに今回の報酬金額と一致するな。それじゃあ、依頼完了の報告をするか」
「なら、マヤノに任せてよ!」
一度戻ってギルドに報告をする必要があることを伝えると、マヤノは自分に任せろと言って、ブツブツと何かを呟く。すると、俺たちの周りに魔法陣が現れ、青白い光に包まれる。
「マヤノ! いったい何を」
「マヤノに任せて。大丈夫だから。一瞬で終わらせる」
青白い光が眩しく、思わず瞼を閉じる。
「到着! うーん! 久しぶりにここの空気を吸ったような気がするよ」
マヤノの言葉が耳に入り、閉じていた瞼を開ける。すると、視界には見覚えのある光景が映し出されていた。
目の前にあるこのボロい家、もしかしてヘイオー王子とトウカイ騎士団長が身を潜めるのに使っていたあの家か?
「マヤノ、これって転移魔法か?」
「うん、そうだよ。ヘイオー君たちが出立の準備をしている間に、お絵描きをするって言っていたでしょう? あれ、転移魔法の魔法陣を書いていたんだ。緊急避難用のつもりだったのだけど、まさかこんな形で使うとは思っていなかったな」
笑みを浮かべながら説明をするマヤノを見て、正直驚かされた。
まさか、彼女なりにこの依頼が普通ではないと感じ取って、事前に用意していたとは思わなかったな。
「それじゃあ、依頼を報告しにギルドに向かうか」
「うん、そうだね」
依頼完了の報告をするためにギルドに戻り、受付嬢に証拠の500万ギルとヘイオー王子が書いた手紙を提示する。
すると手紙の内容を読んだ彼女は目から涙を流し、直ぐにギルドマスターを呼んだ。
現れたギルドマスターも手紙を読んで喜び、その日はギルドでちょっとしたパーティーが開かれた。
「この国を救ってくれた英雄様に乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
ギルドマスターが乾杯の音頭をとり、宴会が始まっていく。
最初はパーティーを楽しんでいたが、酔っ払ったギルドマスターに対してうざったく思った俺は、こっそりと抜け出して建物から外に出る。
外は風が吹き、アルコールで熱った体を冷ましてくれそうな心地良さを感じる。
「あれ? フリードちゃんも外に出たの?」
背後から声が聞こえて振り返る。すると、吹いた風で靡く髪を気にしているマヤノが立っていた。
「マヤノか。うん、今出て来たところ。あまりにもギルドマスターがうざ絡みをするからさ。それで外に出た」
「そうなんだ。マヤノは何となく夜風を浴びようかなって」
外に出た理由を語りながら、マヤノは俺の横に並んで立つ。
「何かを成し遂げた後の気持ちってこんなものなんだ。パパもママも大変だっただろうな」
マヤノが何かをポツリと呟いていたような気がしたが、今回も運悪く風の音にかき消され、聞き取ることができない。
「そうだ。報酬金額を山分けしないといけないな」
俺たちは正式にパーティーを組んでいない。手を組んでいる以上、この金は共有財産ではない。
「あ、それは全部フリードちゃんが管理していてよ」
「いや、そう言う訳にはいかないだろう? マヤノは帰るべき場所に帰らないといけないから、その路銀だって」
「はぁ、ギルドでナンパしてきた男といい、ヘイオー君といい、フリードちゃんといい、どうして男の子って、こんなに察しが悪いのかな? 良い! マヤノは『全部フリードちゃんが管理して』と言ったのよ。つまりはまだ一緒に行動するって言っているの!」
「一緒に行動するってどうして?」
彼女の意図が読み取れず、思わず訊ねてしまう。
「だって、マヤノは迷子なんだよ。いくらお金があっても、どこに向かえば良いのか分からないもん。だからしばらくはフリードちゃんと一緒に行動することで、帰り道の手がかりを掴もうかなって……だから」
「分かった。それじゃ、もう少しだけ俺に力を貸してくれないか?」
彼女の言葉を遮って手を差し出す。するとマヤノは笑みを浮かべて俺の手を握ってくれた。
「うん! こちらこそよろしくね! フリードちゃん!」
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