第十八話 ゲス大臣
「さぁ、あいつらを殺せ!」
大臣が合図を送ると、部屋の中に現れた兵士たちが一斉に襲ってきた。
だが、その数は想定通りであり、俺とトウカイ騎士団長は無言で頷き合うと兵士との戦闘に入る。
「お前は何も武装はしていないな! 魔法を使う気配もなし、まずは弱そうなお前から殺してくれる!」
衣服しか身に付けておらず、普通に立ち尽くしているだけの俺を見て、兵士の1人が斬り掛かろうと剣を上段に構えながらこちらにやってくる。
先に弱そうな俺を倒した後に、トウカイ騎士団長と戦おうとしているのかもしれないな。
「まぁ、俺の評価をどのようにするかはあんたたちの自由だが、見た目で判断するのは良くない」
『カァー!』
空いている窓から、ガーラースが部屋の中に入ってくる。あの鳥は俺が城を偵察させていたあのガーラスだ。まだ奴隷契約を解除していないので、俺の命令に従ってくれる。
俺が契約を交わした鳥を先頭に、次々とガーラースが部屋の中に入って来ると、兵士たちを突き始める。
「痛い! くそう! 邪魔だ!」
兵士たちは多くのガーラースに翻弄され、上手く動くことができないでいる。あいつらを無力化させるのは今がチャンスだ。
「トウカイ騎士団長、今です!」
「任された! 食らえ!」
鳥たちに意識が向いている間に、トウカイ騎士団長が刃のない箇所の刀身で殴り、次々と兵士たちを気絶させていく。
そして1分も経たない間に、部屋の中に入ってきた兵士たちは床に倒れて動かなくなる。
「さぁ、後はお前だけだ。大臣!」
トウカイ騎士団長が剣の先端を大臣に向け、彼を睨む。すると大臣は1歩下がって握っていた剣を構え直す。
「くそう。どうしてゼッペルのやつが来ない。私の護衛についていたはずだろう」
大臣が頬をひくつかせ、言葉を漏らす。彼の口から出た人物名が耳に入った途端、森の中で会った男を思い出す。
そうだった。まだゼッペルが控えていた。あの男は城で待つと言っていた。もしかしてどこかに潜んでいるのか?
周囲を伺ってもあの男の気配を感じ取ることができない。
確かにあの男の存在も気になる。だけど今は、大臣を捕縛することが先だ。
「これで2対1だ。今の戦いで俺たちの実力も分かっただろう? 大人しく捕まってもらう」
右手を前に出すと、契約を交わしている鳥が羽ばたく。するとそれに合わせて他のガーラースまで羽ばたき、嘴を大臣の方へと向ける。
「捕まえる前に聞きたい。どうしてお前は王を殺害し、この国を乗っ取ろうとした。お前はこの国をどのようにしようと思っていたんだ?」
この国をどのように変えようと考えていたのかを訊ねる。どうせ碌な理由ではないに決まっているが、この男がどんな理想を持って行動していたのかを知っておいても損はないだろう。
「そんなこと決まっている。私が王になり、この国の民全員を奴隷のように扱うためだ。気に入らないものを奴隷のように扱って最後は殺し、美女を侍らせて犯しほうだいにする。そんな独裁国家を私は築こうとした」
大臣の言葉が耳に入り、歯を食い縛る。
やっぱりクソな理由で国王を殺害し、王に成り上がろうとしたのか。
「そして私は弱者を見下して思い通りにするのが好きなんだ。奴隷に堕ちてしまった女なんか最高だぞ。しかも思い人のいる女を犯すのは堪らない。処女を奪った途端に泣き、愛する男の名を呼びながら何度も謝るんだ。その時感じた征服感は堪らない。癖になりそうだ」
続けて大臣は言葉を連ねるが、もうそれ以上は聞きたくない。早くこいつを黙らせたい衝動に駆られる。だが、次にやつが言った言葉で思考が別のものへと向かってしまった。
「お前も男なら分かるだろう? 女体の素晴らしさを、もし私の方に寝返れば、お前の臨通りの女をくれてやる。例え貴族の女でも手に入れられるぞ。何せ王の命令だからな」
裏切らないかと誘ってくる大臣の言葉が耳に入り、脳裏にカレンの顔が過ぎる。
ジェーン男爵に買われてしまったカレンを助け出すには、大臣側に願えるのが近道かもしれない。
「確かにお前の方に寝返れば。ジェーン男爵からカレンを連れ出すことができるかもしれない」
「フリード!」
トウカイ騎士団長が何を言っているんだと言いたげな顔で俺を見てくるが、こればかりは仕方がない。俺が最優先でやるべきことは、カレンの救出なのだから。
「ほぉ? お前にも気になる女がいたのか? 私が王になれば、お前の望みを叶えてやろう。さぁ、その鳥たちを使ってトウカイを殺せ。そうすれば、お前の求める女は直ぐにお前のものだ」
そうだ。俺はジェーン男爵からカレンを取り戻す!
「我が契約に基づき、命令に従え! ガーラース! 大臣を逃すな!」
「何!」
黒鳥に命令を下すと、契約を結んだガーラースが大臣に突っ込む。そして小柄である利点を活かし、素早く動くと大臣を翻弄する。そして隙が生まれると、大臣の眼球に向けて嘴を突き刺した。
「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
声を荒げ! 断末魔の声が部屋中に響き渡る。
嘴を突き刺され、失明をしたと思われる片目を押さえながら大臣は膝を突く。
「ど……どうして裏切らない。お前には、どんな手を使ってでも欲しい女がいるのだろう?」
「確かに俺には、どうしても守りたかった女性がいた。その女性を守れなかった以上、早期救出が俺の目標だ。だが、だからと言って俺が悪人に加担した方法で連れ戻せたとしても、カレンは喜ばない。俺は人として正しい方法でカレンを救出してみせる」
言葉を連ねながら、大臣に近づく。
「俺はこの力を人には使いたくはなかった。人を奴隷に変え、時には意思さえ奪ってしまうこの力を。だが、お前を見て考えが変わった。この力は、悪人を懲らしめるのに使うべきだ」
「何を……言っている?」
「俺のスキル、それは生物を対象に奴隷にする力だ。お前、弱者を見下すのが好きだったよな。今度は、お前が弱者に成り下がる番だ。スレーブコントラクト!」
スキルを発動すると、大臣の額に奴隷契約が完了したことを告げる紋様が現れる。
「これでお前は俺の奴隷だ。我が契約に基づき、命令に従え! ここから先、寿命が尽きるまで女に手を出すな。そしてヘイオー王子に従い、奴隷としてこの国に尽くせ」
「何を言っている! くそう! どうして体が動かない」
体が動かないことで、大臣は驚いているみたいだ。額からは脂汗が流れ、歯を食い縛っている。
「当然だ。俺が契約者になった以上、奴隷は主人に逆らえないのだからな。まぁ、俺も鬼ではない。最低限の自由はくれてやる。だけど、先ほど言ったことは絶対に遂行する体になっているから気を付けるのだな。お前は二度と女を抱けない」
「くそおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
再び大臣が声を上げる。これで大臣の件は全て終わった。後はあの男だけ。
「うーん、まさかこんなにも早く大臣がやられるとは計算が狂った。だけど大臣のお陰でお前の能力を知ることができたよ。なるほど、生き物を奴隷にする力か」
どこからか声が聞こえる。この声はゼッペルか。
「ゼッペル! 出て来い!」
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