第十二話 そろそろ本当のことを話したらどうです?

 敵の隙を突いて逃げ出すことに成功した俺たちは、急いで身を隠せられそうな場所を探す。


 周囲には茂美や木などがあるものの、隠れ切れる自信はない。


 不意を突いて逃げたと言っても、1分も時間稼ぎができている訳ではない。近くに身を潜めたとしても、発見されるリスクの方が高い。


 少しでも逃げ切って見つかるリスクを減らすには、ある程度離れた場所で身を隠すことが一番だ。


「フリードちゃん、あれを見て!」


 マヤノが右手の人差し指を伸ばして前方を指差す。彼女の指が示した方に顔を向けると、小さいが人らしき人物がいた。


 ただの通行人なら良いが、敵の仲間の可能性も否定できない。


 マヤノは目が良いな。ここからではまだ判断することができない。


「マヤノ、前方にいるのは敵か?」


「多分見逃してくれるとは思わないから敵だと思う」


 歯切れ悪く言う彼女の姿に、小首を傾げる。


 多分見逃してくれないと思うから敵? それはいったいどう言う意味なんだ?


「悪いが、もう少し分かりやすく話してくれないか?」


「ごめんね。上手く言葉が纏められなかったよ。前方にいるのはオーガだよ。だから横を通り過ぎるだけでも、襲いかかって来るかもしれない」


 最初に言った言葉を訂正して、今度は具体的に話してくれることで、ようやく彼女の言いたいことが伝わった。


 なるほど、前方にオーガがいるのか。なら、やつを利用すれば、更に逃げるための時間を稼ぐことができるかもしれない。


「なら、あのオーガを味方に付けよう」


 モンスターと奴隷契約を結び、ゼッペルと戦ってもらうことを決めると、オーガに向けて突き進む。


『ガアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!』


 距離を縮めると、さすがにやつの方も気付いたようだ。俺たちに視線を向けると仁王立ちをして吠える。


 そして一気に駆けてこちらに近付いてきた。


 そのままラリアットでもしようって考えていそうな体勢だな。だけどどんな攻撃がこようと関係ない。ぶつかる前に契約を成立させる。


「スレーブコントラクト!」


 スキルを発動してオーガと主従関係を結ぶと、モンスターの額に紋様が浮かび上がる。


 よし、奴隷化に成功だ。


「お前は商人風の格好をした赤い短髪の男が来たら、足止めをしてくれ」


『ガアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!』


 命令を下すと、オーガーが勇ましく吠え、その場に立ち止まる。その後、俺たちを攻撃することなく、仁王立ちの体勢を取った。


 流石にオーガにゼッペルの名前を出しても、誰なのか理解できないだろう。だけど格好と特徴さえ伝えておけば、ゼッペルを発見したときに攻撃をしてくれるはず。


 これでまた時間稼ぎをすることができる。


 チラリと周囲を見ると、騎士爵様が疲れた表情を見せていた。


 ゼッペルと激しい戦闘をした後に、全速疾走をしているのだ。スタミナが切れても仕方がない。


 ここは一度身を隠して休憩ができる場所を見つけた方が良いな。ついでに今後の方針を話し合った方が良さそうだ。


「フリードちゃん、あれを見て!」


 どこか隠れられそうな場所はないかと周囲を見ながら走っていると、再びマヤノが右手の人差し指を伸ばして声をかける。


 彼女が指し示した方に視線を向けると、そこには洞窟らしきものがあった。


 あそこなら休憩ができるかもしれない。


 最悪モンスターハウスになっている可能性も否定はできないが、モンスターが襲って来たその時は、主従関係を結ぶだけだ。


「一度あの洞窟の中に避難しましょう。騎士爵様良いですよね」


「ああ、そうだな」


 彼も洞窟内に避難することに対して同意してくれた。


 これ以上走り続けては、足手纏いになると判断したのだろう。


 洞窟の中に避難すると、一度暗闇に包まれる。


「この辺で止まって息を整えましょう。目が慣れるまでは移動しない方が良い」


 その場で立ち止まるように伝え、自身も少しずつ速度を落とすと立ち止まる。そして抱き抱えていたヘイオーをその場に立たせた。


「騎士爵様、マヤノ、近くにいるか?」


「俺はここにいる」


「マヤノも、多分近くにいるよ」


 そこまで離れていない場所から2人の声が聞こえてくる。


 近くにいることに安堵しつつ、目が慣れるのを待つ。


 数秒程経って目が暗闇に適応すると、薄暗いが周囲は見えるようになった。


 良いとは言えない視界の中、マヤノと騎士爵様を探すと、彼女たちは1メートルほど離れた場所に立っていた。


「良かった。そんなに離れてはいないな」


「でも、これじゃあ薄暗いよ。マヤノの魔法で明るくしようか?」


「いやダメだ。明るくすれば、敵に見つかるリスクがある。会話もなるべく小声で話そう」


 敵に発見されることを避けるために、照明を我慢するようにお願いをする。


 しばらくその場で立ち止まって息を整えていたからか、今では大分に楽になって来ている。


 騎士爵様たちの呼吸も通常に戻りつつあるし、そろそろ頃合かもしれないな。


「さて、そろそろ頃合ですし、本当のことを話してもらいましょうか。ゼッペルとか言う男が現れた以上、もう言い訳はできないでしょう?」

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