第4話 キャバクラ

店内に入ると、原口はお気に入りと思われる嬢を指名してそそくさと席に着いた。対する僕はというと、かなり出来上がった影響か、とりあえずフリーにして席に着くことを選んだ。

 奥の席の原口を見ると、早速楽しそうにシャンパンを開けていた。相変わらず元気な奴だ。僕は若干眠気も混じって頭がフラフラしていた。

 程なくして僕の隣に嬢が座った。金髪を後ろで束ね、肩の空いたベージュのようなドレスを身に纏っていた。なんか見たことがあるような感じだが、今はフラフラしているから思い出す余裕も無かった。

 言われるがままシャンパンを注文し、よくわからないまま乾杯した。流石にキャバ嬢だけあってトークは心地良く進み、フラフラしていた僕もだんだん元気を取り戻してきた。

 嬢の顔を覗き込むと、最初に感じた印象が確信に変わった。やはりそうだ。ピンクのハンカチのクソ女だ。僕の怪訝そうな表情を察知したのか、嬢は私に顔を近づけてきた。

「お客さーん、なーに急に見つめてきて。惚れちゃったんですか?ウフフ。」

「あ、あーいや、まあ、そんな感じです。」

「アハハ。お客さんたら可愛い。もう一本頼んじゃいますね。ボーイさん、ドンペリ一本。」

 クソ女め。勝手にドンペリ頼みやがって。

「お客さん、私お客さんのことなんか見たことある気がします。気のせいかな?」

「え、ええ、そうですか?わからないですけど。」

「なーんて、冗談ですよ。あ、ドンペリ来たんで空けましょう。」

 クソ女は勝手に頼んだドンペリを早速空けて飲み始めた。僕はドンペリに手を付ける気になれず、落ち着くためにトイレに駆け込んだ。

 なんなんだあのクソ女の対応は。こちらに気付いているかのような言い方だったが、読めない。ただの営業トークかも知れないし、既に気付いて揶揄っているかも知れない。でもとりあえず気付いていないフリをしよう。はっきり分かっているのはどちらにせよ気に食わない女だということだ。僕は顔を何度か叩き、気持ちを入れ替えて席に戻った。

 席に戻ると、クソ女は指名が入ったのか、退席していた。どうやら右前の席の客から指名が入ったようだ。

 代わりに新人と思わしき嬢が挨拶をすると名刺を手渡してきた。ランちゃんと名乗る嬢は黒髪ショートで笑顔が魅力的な女の子で、クソ女とは真逆のタイプだったこともあってすっかり気に入り、改めてドンペリを頼んだ。

 ランちゃんは愛想も良く、話は盛りに盛り上がった。しばらくすると、原口がこちらのテーブルにやってきた。

「阿部ちゃん、そろそろ終電だから帰ろう。楽しそうなとこ悪いけど。」

「わかった先出てて。」

 原口が先に店外へ向かう姿を背に、僕も帰りの身支度を始めた。

 会計しようとした時、ランちゃんが僕の肩を叩いてきた。

「これ。あおいさんから預かってます。連絡して欲しいみたいです。」

 手渡されたのはいかにも女の子の字で書かれた誰かの電話番号とメールアドレスだった。

「あおいさんって誰?」

「お客さんに最初に付いた方ですよ。金髪の。」

「ああ、あの人。しかし何故僕に?」

「さあ、教えてくれなかったですけど。気に入ったんじゃないですかー?」

 そう言うと、ランちゃんはニヤニヤしながら肘で小突いてきた。

「まさか。僕はランちゃんと連絡先交換したいんだけど。」

「いやいや、今回はあおいさんに譲りまーす。では指名が入ったのでまた。また指名して下さいねー」

 ランちゃんは言い終わると同時に僕に背を向け阻塞と去って行った。

 ランちゃんの連絡先を交換出来なかったことに若干後髪を引かれたが、原口を待たせていることを思い出して急いで店外へ出た。

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