第707話 人間との約束は守る主義

「夜は暗いんだな」


 なに当たり前のこと言ってんだと思うが、軽く五万人は暮らしてそうな街なのに、二十三時ともなれば明かりは城くらいで、街は真っ暗だった。


 まあ、プランデットをすれば問題なく視界は確保できて赤外線センサーが、あるので、どこにいるか丸見えである。


 マーダたちの位置を確認。屋敷にいる人数は十一人。部屋のサイズからこいつらが屋敷の主と妻、ってことだろう。なら、子供もいるか……。


「タカト」


 後ろに座り、オレの腰に腕を回すメビに心情が伝わってしまったのだろう、ギュッと力を込めてきた。


「大丈夫。ゴブリンを駆除するだけだ」


 別に天国や地獄を信じているわけじゃない。神などクソだと思っている。今さら自分が正義だとも思っていない。オレはオレの利益を求めるだけだ。


「時間だ。やれ!」


 屋敷を囲むように隠れていたマーダたちが動き出した。


 マーダたちは八人だが、プランデットを通してお互いの位置はわかっているし、通信もできる。まず失敗はしないだろう。


「メビ。屋敷周辺を見張っててくれ。屋敷に突入する者がいたら撃て」


「了解」


 屋敷上空を旋回し、メビは後ろを向きて狙撃用に換えた416を構えた。


 マーダたちが突入して一分もしないで六人を駆除してしまい、残り五人は捕獲したようだ。


「タカト。制圧完了」


「了解。そちらに向かう」


 メビに狙撃体勢を解かせ、オレの腰に手を回したらブラックリンを降下させた。


 中庭的なところに降ろしたらファイブセブンを抜いてマーダたちが集まる部屋に向かった。


 一階の食堂らしき部屋に集められた五人は家族のようで、五十代くらいの夫婦。三十代くらいの夫婦。十六くらいの少年がいた。


「マーダ。灯りを」


 オレたちはプランデットで見ているから暗くても関係ないが、捕まった者らにしたら意味不明で恐怖でしかないだろうよ。


 部屋のランプに光が灯るが、光量はそれほどでもない。こんな大都市の上級民の家もこのくらいしか照らせないんだな。魔法の光って庶民には厳しいものなのか?


「初めまして。ゴブリン駆除ギルドの者です。ミヤマランにゴブリンがいると聞いたのでやって参りました」


 屋敷の主の前に立ち、にっこり笑ってみせた。


「……こんなことをして許されると思うのか……?」


「逆に訊くが、お前は許されると思っていたのか? 反撃されないと思っているのか? これから反撃できると思っているのか?」


 ファイブセブンを主の妻に向け、引き金を──引く前にメビが動いて主の妻を撃ち殺した。


「……これこの通り、殺されないと思ったか? お前らはそこんところの想像力が欠けているよな? ほんと、お前らって自分を絶対な存在と思えるよな。頭、大丈夫か?」


 なにもしてなくたって恨みや妬みを買うものだ。ましてやこんなことしていれば殺意も向けられるだろうよ。なのに、なぜそのことに想像が働かないんだろうな? なぜそうならないよう気をつけないんだろうな? なぜ……いや、できないから震えるしかできないんだな……。


「獣人は返してもらった。情報も聞き出した。が、肝心なことはしゃべらなかったから肝心なことを知っているあんたのところにきました。拒否権はあと三回」


 こいつの子供だろう夫婦とその息子にファイブセブンを向けていった。


「まあ、なにもしゃべらず神の下にいくのも構わないぞ。そのときは神に伝言を頼むよ。都市型ゴブリンを駆除したときも報酬を払えってな」


 ピローン! なんて返ってくるわけもなし。ほんと、肝心なときに役に立たねーダメ女神だよ。


「で、どうする? 選択肢は用意してやるが、考える時間はあげられんぞ」


 ファイブセブンの銃口を屋敷の主のこめかみに当ててやった。


「……は、話したら殺さないでくれるのか……?」


「オレの自慢は人との約束を破ったことがないことだ。約束を破るのは人として最大の罪だと思っている」


 ウソはつくことはあっても約束は守るようにしている。できない約束はしない主義だ。


「……わ、わかった。しゃべるから殺さないでくれ」


「それはちゃんとしゃべったら。情報の擦り合わせをして、情報が正しいと判断したときだ。お前らはすぐウソをつき、真実を隠してしまうからな。誰かこいつだけを運び出せ。話はあちらで聞く」


「残りは?」


「屋敷のことを教えてもらう。探すのも面倒だからな」


 ここを知っている者に金目のものを集めてもらうほうが効率がいいだろう。結構探すの大変なんだよ。


「わかった。二人、そのゴブリンを連れていけ」


 マーダが指示を出して屋敷の主を連れ出していった。


「さて。あんたらも命が惜しいならこちらの指示に素直に従ってもらおうか。もちろん、断る権利は与えてやる。自分の未来だ。好きに選ぶといい」


「し、従う! だから殺さないでくれ!」


「人との約束は必ず守る。これにウソはない」


 真剣な表情で答えてやった。


「では、この屋敷から金目のものをここに集めろ。お前らが贅沢した分を今度は獣人に使わせてもらう。あと、逃げても構わない。獣人たちはお前たちを憎んでいる。嬉々としてお前たちを追いかけて嬉々として殺すだろうよ。こちらとしてはそれでも構わないぞ。怒りを鎮める手間がかからないからな」


 うん。それのほうがいいかもしれんな。コラウスでも怒りが収まったし。


「す、すぐ集める!」


 と、三人が駆けていってしまった。残念……。

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