第594話 右に出る者はいる

 前々から考えていた。集団となったゴブリンや魔物を相手する部隊を組織したほうがいいんじゃないかって。


 本当はコラウス辺境伯の仕事なんだろうが、兵士ですら持てない状況では個人で持つしかない。


 この考えは領主代理に言ってある。酒を飲みながらだけど。


 個人が武力を持つなんて領主代理からしたら恐怖でしかないだろうに、あっさり認めてくれ、無税(なんて目的で取られるか知らんけど)ともしてくれるとも言ってくれたよ。


「その際の拠点はリハルの町にします。ここなら魔物が押し寄せてきたときの備えと理由づけできますからね」


 十……なんとか将も現れたことがなによりの理由づけとなる。部隊を配置したって文句は言われないはずだ。


 ただ、問題だったのが率いる者がいなかった。集団を指揮するなんてヤツ、なかなかいるものじゃないから口にはしなかったのだ。


「カインゼルさんには側にいて欲しいですが、帰ってこれる場所を守れるのもカインゼルさんしかいません。どうでしょう?」


 オレの知る中で、集団を率いれるのはカインゼルさんだけ。丸投げするようで申し訳ないが、カインゼルさんが必要だってことはすべて用意する覚悟はある。この世界でオレが帰れる場所はここしかないんだからな。


「領主代理はなんと?」


「オレのやりたいようにやれ。正式な許可は出せないが、全面的に協力はするそうです。城の備品も密かに流すとも言ってました」


 すべては酒の席でのこと。口約束でしかない。だが、それでいい。お互いの利益で繋がっていれば関係は良好でいられるからな。


「……お前は、戦略を練らせたら右に出る者はないな……」


「右に出る者はいくらでもいますよ。別に人を騙すのに長けているわけじゃないんですから」


「誑かしの才能は長けているがな」


 なんのチャチャだよ? そんなキャラじゃないんだから黙ってろや。


「わかった。引き受けよう。だが、人はどうする? いきなり兵士は用意できんぞ」


「街から連れてきて開拓させたらいいんですよ。金なり食事なりを与え、集団行動をさせる。その中で使えるヤツを選んでいけばいいんですよ。街には何人もいるんです。選び放題です」


 個人の戦闘力より集団としての戦闘力を求めている。命令に忠実な者には銃を支給してもいい。そこはカインゼルさんの腕次第。それだけの実力と経験がある。オレは全面的に支持するよ。


「協力が欲しいならマルティーヌ一家──ではなく、マルティーヌ商会に声をかけてください。それなりの力は見せつけてきましたから」


 あちらも人手集めに大変だろうが、集められる数には限界がある。コラウスで生きるならオレに協力するくらいの計算はできるはずだ。


「あ、ついでにラザニア村とリハルの町の道も整備してもらえると助かります。くる途中、迷っちゃったんで」


 せめて標識くらい立てて欲しいものだ。


「なんだかわしの仕事が増えてないか?」


「マルティーヌ商会のような一家を引き込んだらいいんですよ。カインゼルさんなら心当たりあるでしょう?」


 何年か浮浪者をやっていたならマルティーヌ商会の他にも裏家業の一家を知っているはず。今は金、権力、武力がある。並の一家なら太刀打ちできるわけもない。


「……あのときの時間は無駄ではなかったのだな……」


 自嘲気味に笑うカインゼルさん。


「女神よ、感謝します」


 あのダメ女神、感謝されるようなことしてませんよ。呪詛を唱えることしかやってません。一緒に唱えましょうよ。くたばれって!


 一通り祈りが終わったら話を戻すことにした。


「それで、あとどのくらいで貫通させられそうなんです?」


 ここからじゃ先は見えないが。


「ゴブリン駆除もあるからな来年まで完成できたらいいと思っていたよ」


 随分と長い計画だったんだな。なら、まだ序盤って感じか。


「だが、ミジャーのことがあるならゆっくりしていられないな。タカト、アルズライズ、力を貸してくれ」


「力を借りているのはオレのほうですよ。オレにできることがあるなら遠慮なく使ってください」


 オレのためになるのだから出し惜しみする気はない。必要なら人も害するさ。もうオレの手は汚れてんだからな。


「まあ、タカトが関わると大事になるしな、いざってときまでは動かないでくれ。タカトとアルズライズがいれば街くらい一晩で滅ぼしそうだからな」


「オレは基本、平和を愛し暴力を嫌う人間ですからね」


 その基本が通じないところに連れてこられて波瀾と暴力の毎日だけな!


「ハァー。お前の怖いところはそこだよ。一線を越えたらお前はバケモノになるからな」


 なんで誰も彼もオレをバケモノにするんだろう? 工場では優しい人って、パートのおばちゃんから言われてたのに……。


「ラダリオン。こいつがバケモノにならないよう頼むぞ」


「わたしはタカトの槍。タカトの敵はわたしが倒す」


「そうだったな。お前はラダリオンだもんな」


 だからラダリオンになんの意味があるのよ? そろそろ教えてくれませんかね?


「時間も時間だし、明日から動くとしよう。大丈夫か?」


「大丈夫です。大きな問題もありませんから」


「おれもだ」


「じゃあ、今日は軽く飲むか。わしが奢るよ」


 人の奢りなんていつ振りだろう? 美味い酒が飲めそうだ。


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 冒険者ランク


 白印、金印、銀印、鉄印、銅印、木印、無印の七つってのを忘れてたわ。※89話。


 長く書いていると布石を用意したまま忘れてしまうことが多々ある。そろそろネタに困ったからあのキャラを出そうと思って、白印(Sランク)を書いたの思い出したよ。

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