第576話 現場主義
首長が目覚めた。
「本当にミリエルの魔法で永眠しないとか凄いよな」
ぐっすり眠ったからか元気なことよ。縄で縛っていたらぶち切っていたところだろうよ。
「こんなバケモノに襲われたら一溜りもありませんね」
「サイルスさんは一人で倒したけどな」
オレは見てないからどんなサイズだったかはわからないが、あの人なら三メートルも四メートルも大差ないだろうよ。あの人がバケモノだもの。
「強いとは聞いてましたが、あの方、こんなのを倒したんですか?」
「ああ。カインゼルさんの話ではそう苦戦しなかったそうだ」
あの人も生物としておかしいよな。まあ、この世界、フルでチートタイムを使えるバケモノですら負ける生き物がいるけどな。あー嫌だ嫌だ。平和な世界に戻りたいよ。
「死なないと思うが、一応、水を飲ませておくか」
水を集め、首長の顔にかけてやった。猿ぐつわの隙間から飲むがよい。
「ミリエル。また眠らせてくれ」
皆を下がらせた。危ないからな。
「はい」
ミリエルの魔法で眠りにつく首長。次に目覚めるときは死ぬときだな。
なかなか酷いことしているが、罪悪感がないので一切遠慮はしない。巨人になって首長をトレーラーに積み込んだ。
半日は目覚めないだろうが、寝返りを打たれたら困るからロープでキツく縛り、領都に出発した。
首長が目覚めることなく領都に到着。KLX230に乗ったことがあるサタナに先行させていたので、領民が結構集まっていた。
城の前の広場に進むと、ギルドマスターとご隠居様の息子で現当主のロゼル・ライダンド伯爵がいた。
……年上に見えるが、ご隠居様の息子なら三十代かもしれないな……。
「父上。また無茶をして」
あ、いつものことなんだ。ご隠居様の破天荒は。
「すまんすまん。だが、ライダンドにとって有意義なものだった。自分の勘を信じて正解だったぞ」
なぜかオレの背中を叩くご隠居様。
「こっちが前からウワサにあったゴブリン殺しのタカトだ」
伯爵がこちらを見たので、一礼した。
「ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのギルドマスター、一ノ瀬孝人です」
「ロゼル・ライダンドだ。父が迷惑をかけてすまんな。無茶をするようなら叱ってくれて構わないからな」
「厳しい息子さんですね」
「じっとしていられない父を持つと口煩くなるものだ。立場も忘れてすぐ城を飛び出す人だからな」
「わしは現場主義なだけだ」
経験上、社長的な立場の者が言うときは大体ワンマンである可能性が高いな。
「ご隠居様。首長が起きる前に磔にしましょうか」
領都なら人も多い。磔にするのもそう難しくないだろうよ。
伯爵が声をかければ断れる領民はいない。その場にいる男たちが首長を十字の木に磔た。ワイヤーで巻いているので目覚めても切られることはないだろう。いざとなればリンクスで撃ち殺してやるさ。
「人がさらに集まってきたな」
「世間からしたらゴブリン王は災害ですからね。そんな災害を捕まえたと聞いたら見たいと思うでしょう」
「ロースランやらローダーやら見てきたおれらは雑魚に見えるがな」
素手で挑めと言われたら全力で断るが、魔法や武器を使っていいのなら対抗手段はいくらでもある。単体なら怖くもないわ。
……いや、それは危険だな。強くもないんだから常に臆病でいろ。弱っているゴブリンでも油断するな、だ……。
「ご隠居様。やりましょうか」
ナイフを抜いて首長の足に刺した。起こすためと抵抗できないように血を流しておこう。
「領民たちよ! これからライダンド伯爵領を苦しめたゴブリン王を処刑する!」
いつ苦しめられたんだ? とかの疑問は誰も口にしない。魔物がいる世界では憎むべき存在。処刑(てか、処刑でいいのか? 魔物相手に?)することに歓喜しているよ。
ご隠居様と伯爵が槍を持ち、首長の脇腹に刺した。
さすがに痛みを感じて首長が目覚めた。
凄まじい叫びを上げるが、それは観衆を喜ばせるだけ。殺せ殺せの大合唱になった。
……どちらが恐ろしい存在なんだろうな……。
お前だよ! とか突っ込まれそうだが、オレはダメ女神からグロ耐性と罪悪感を消された。槍を刺される首長を見てもなんとも思わなかった。
生命力が高いだけに何度刺しても死ぬことはなかった。わざと殺さないように刺してんじゃないかと思えてきたよ。
それでも十回以上刺したらぐったりしてきて、叫ぶこともなくなった。
「ライダンドに平和が訪れた! 今日は祝いだ! ライダンド家より酒を振る舞おう! 存分に飲むがよい!」
へー。これを領民を纏めるために使うか。父親とは違って策士な伯爵様だ。
「ん? 百万円がこちらに入ったぞ」
ご隠居様に入ると思ったんだが、駆除員の手柄となるのか?
うーん。これじゃご隠居様の資金とならんな。G3を三丁買って渡しておくか。G3は十五万円くらいで買えるしな。
「タカト。とんでもない報酬が入ったがいいのか?」
ん? とんでもない?
請負員カードを見せてもらったら、百三十八万円が入っていた。マジか!?
「……あの女神にしては粋な計らいをする……」
まさかどちらにも払うとはな。なにか企みがあるのか?
「女神が払ってくれたのか?」
「そのようですね。ライダンドのために使えとのことでしょう」
まあ、真実はダメ女神にしかわからんことだがな。
「……女神様はライダンドを思ってくださるのか……」
そんな大層な理由ではありませんよ。とは言わないでおく。なんか感動しているっぽいので。
「まあ、ライダンドを守ってください」
オレを呼ばれても困る。自分の領地は自分たちで守ってくださいな。
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