異世界転生した先はスマホの概念が存在しない日本でした。

須那人真

第1話 異世界、所持品:スマートフォン

「そこのお前! 動くな!」

 街中に響く声。向けられた銃口が狙っているのは――俺?

「え!? は? 俺?」

 突然の出来事に、ただ驚くしかなかった。

 銃口を向けているのは、日本を守るお巡りさん。

 しかし、その銃口が向けられているのは、犯罪を犯した逃走中の悪人では

なく。武装している悪人でもなく。

 ――スマートフォンを手に持つ。日本の高校生蒼井 空太あおい そらたへ向けられていた・・・・・・


 お巡りさんに銃口を向けられるおよそ一時間前――


「さてさて、今日のトイッターのトレンドはなにかな~」

いつものように空太はスマホをいじりながら登校していた。

「おっ、新作スマホアプリがトレンド一位か~気になってるんだけど容量が足りなくてダウンロードできないんだよな~」

 空太は生粋のスマホ依存症である。都内の高校に通うごく普通の男子高校生。

 容姿はどこにでもいる高校生といった感じで特徴はないが、強いてあげるとするなら、両親からの遺伝で髪の毛が銀髪であることくらいだ。母が外国人で母からの遺伝で髪の毛が生まれながらの銀髪である。

「そうだ、ゲームのログインボーナス、今日も受け取らないとな~」

 スマホをタップしながら、それでも器用に通行人を避けながら高校へ向かう。


――横断歩道の信号は、点滅していた。


「危ない!」

 誰かが叫ぶ。

 鳴り響くクラクション。

 目の前に迫るトラック――

 横断歩道の信号は・・・・・・赤。


 空太の身体は空に浮かんだ――

――スマートフォンとともに。


「そこのお前! 動くな!」

 ――そして今に至る。


気がついた時には空太は街中に立っていた。身体は無事だし、痛いところもない。手にはスマートフォンを持っていた。

「発砲許可が下りた! 手に持っているものを捨てないと、発砲する!」

 お巡りさんは本気らしい。とりあえず落ち着かせないと。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺が持ってるのはただのスマートフォンだ! 撃たれる筋合いはない!」

 お巡りさんは怪訝な顔をする。

「君は何を言っているんだ? スマート・・・・・・なんだって?」

「スマートフォンですよ!? みんな持ってるでしょ?」

「そんなものは聞いたことがない! でたらめをいうな!」

 どうなっているんだ。スマートフォンを知らない? ここは都会だ。誰もが持ってるはずだ。空太は違和感を覚えた。

「とにかく! 手に持っているものを捨てないと、君を撃つ! 国民の安全を守るためだ!」

 お巡りさんは本気らしい。どうにかしてこの状況を打開しなければ。

「三秒待つ! それまでに捨てないと、撃つ!」

 まずい――そう思った空太はスマートフォンのカメラを起動した。フラッシュ機能はオンだ。

「三!」

 スマートフォンをお巡りさんに向けて構える。

「二!」

 シャッターボタンに親指を近づける。

「一!」

「これでもくらえ!!」

 シャッターボタンを押す。閃光とともにシャッターの切られる音が響く。

「うわあああ! 目が! 目が! 見えない!」

 作戦は上手くいったようだ。今のうちに逃げないと。空太は走り出す。

「うおおおおおお! ごめんなさいっ!」

 空太は走った。自宅へ向かうために。

 自宅へは難なくたどり着いた。

「なんなんだよ・・・・・・まったく」

 空太は自室へ向かった、今日はとてもじゃないが登校できる状態ではない。

 ――状況を整理しなければ。

 そう思った空太は自室の扉を開け中に入る。

 まずは今朝の出来事だ。俺は登校中にトラックに轢かれ、気がついたら街中に立っていた。所持品はスマートフォンだけだ。それからお巡りさんに銃を向けられ、なんとか逃げ延びた。

「それにしてもおかしいよな・・・・・・スマートフォンを知らないなんて。」

 空太はお巡りさんがスマートフォンを知らないことに驚いた。むしろスマートフォンを凶器扱いされていた。これはおかしい。

「とりあえず、トイッターで情報を集めるか」

 そう思い立ちスマートフォンを触ろうとすると――


 ポロン♪

 

通知音が部屋に響いた。どうやらメッセージが届いたらしい。

空太はスマートフォンを起動しメッセージアプリを起動する。送り主は不明だ。

メッセージにはこう書かれていた。


『あなたは、異世界転生しました』


 異世界転生――メッセージには確かに異世界転生と書いてある。

 よく小説の題材になる異世界転生で間違いないだろう。


 「異世界転生? 俺が? どうして?」

 空太は疑問に思ったが、なんとなくそんな気がしてきた。

 朝のお巡りさんの態度。スマートフォンを知らない。凶器扱いしてくる。

 そのやり取りに違和感を覚えていたからだ。

「これ、メッセージに返信したらどうなるんだろ?」

 好奇心が勝り届いたメッセージに返信をする。


『俺は異世界転生したのか?』


 数秒後、返信が来る。


『その通りです。あなたは異世界転生しました。』


『理由はなんだ?』


『あなたは今朝、ながらスマホが原因で命を落としました。トラックに轢かれ、即死でした。しかし、あなたは天国にも地獄にもいかず、異世界である現代日本に転生されました。』


『異世界? 日本なら異世界ではないはずだ』


『あなたは気が付いた時スマートフォンを手にしていました。しかし、異世界であるこちらの日本にはそのようなものは存在しません』


 そういうことか、空太は納得した。それなら今朝のお巡りさんの警戒ぶりも納得できる。

――それならば、空太は一番気になっていることをメッセージの送り主に聞いた。


『俺の特殊能力はなんだ?』

 異世界に転生したならば、なにかしらの能力が手に入るものだ。空太はメッセージの返信を待った。


『あなたには特殊能力はありません、しかしながらスマートフォンは持っています。それこそがあなたの能力です。』


 空太はがっかりした、異世界転生したならばなにかしらの能力がついてくるのが定石だからだ。特殊能力はスマートフォンと言われたら、これからどうしていけばいいのか。メッセージを続ける。


『お前のことはなんと呼んだらいい?』


『私のことはアンノウンとお呼びください。あなたをサポートいたします。』


『アンノウンか、分かった、頼りにしてるぞ』


 そこまで打ったところでメッセージアプリを閉じる。

 いよいよ雲行きが怪しくなってきた。俺の武器はスマートフォンらしい。これでどうやって悪と戦うというのか、そもそも悪は存在するのか。それすらわからない。

 外を見るとすっかり日も落ちていた。空太は寝ることにした。朝、目が覚めたら日常が戻ってくると信じて。

 しかし、その日常は戻ってくることはないと、翌日の空太は思い知ることになる。

――異世界はスマートフォンとともに。


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