第11話 カラオケ(1)


人は両方を兼ね備える事が出来ない……結局根が悪だと人はどんなに善を気取ってもそれが善に傾く訳がないし、根が善だと、どこまで悪を気取っても、結局悪には成りきれない。

 俺はどっちかというと後者だったんだと思う。何を気取ってんだと思うかもしれないが、俺はこのゲームの世界では愛華以外のヒロインと関わる気は無かったんだ。

 だからこそを無視して立ち去ろうとした……だが立ち去ろうとした瞬間、足が鎖で固く繋がれた様に動かなくなる。

 頭の中の俺が『本当にそれで良いのか?』と語り掛けてくる。これは実際に語り掛けられてる訳じゃない、全て俺の思考が生み出したただの幻聴だ、どれだけそれを掻き消そうとしても消えてくれない。


「なんで……先輩!!嫌ァ!やめて!」


 目の前のカラオケボックスから、僅かに聞こえてくる天音輝夜の悲鳴…… その周りには数人の先輩と思しき人達が取り囲み襲おうとしている。

 ふと、後ろを振り返ると、こちらに背中を向けて立ち去る姿

 何故そこでお前は逃げる?ゲームでなら、お前はこいつらに死ぬ気で立ち向かっていく筈だろう?

 そんな思考に囚われながら、俺は静かにそのカラオケボックスのドアノブに手を掛ける。


◇1日前


 愛華を再びナンパから守った次の日、愛華からLINEで明日カラオケに行かないかという誘いが来た。

 それにしてもカラオケかぁ(白目) こう見えて……っていうのは違うか、俺の前世は趣味が合う訳でもない友達と中身の薄い会話をしたりしながら学校生活を過ごし、帰ったら暇潰しのエロゲ消化をし、女っ気など生涯なかった様な男。

 そんな男がカラオケなんて行った事あると思うか?…嫌!?ある!!あれは俺がまだ10歳だった頃…家族に連れられカラオケに行った事が…って!!そんな幼い頃に一度行っただけのカラオケの体験なんて何の役にも立たんわ!!

 カラオケとは歌が下手な人にとっては謂わば拷問室だ…… 点数が低ければ背中がじわじわと熱くなり、とてつもない恥ずかしさを覚える。まだ一緒に来た人が笑ってくれるなら良い。ただ一番心に来るのは下手すぎて、歌う前までは沢山喋っていたのに黙り通して気不味くなってしまう事。

 誰もがその下手な結果に苦笑いをし、その場にはまるで小学生の頃、授業中1人の生徒が宿題を忘れた事でその場に立たされ、ひたすら周りの視線を一身に集めながら長い長い説教をされるのと同じぐらいの恥ずかしさと気不味さの空気が流れる。

 それは避けなければ!!だが、愛華の誘いを断る訳にもいかない!!


「よ、よし!あ〜」


 試しに声を出してみる……うん、美声だ。この声があれば間違いなく特訓すれば歌手になれるレベルだろう。

 だが歌において大事なのは声もだが、音程も大事だ。音程がズレズレだったら意味がなく、高得点が取れなくなってしまう。

 俺はスマホを開き、カラオケ採点アプリと調べる。見事にヒットし、幾つかのカラオケ採点アプリの中から『ひとカラ⭐︎採点』というアプリをタッチしインストールする。


「ほう、これは凄い」


 そんな感じで夜遅くまで1人で特訓した俺は、次の日声がガラガラになっており、酷く後悔するのだった。

(あ、ちなみに愛華にはしっかりと「行けるよ!」と返信をしました。)


◇次の日


 何故かあまり寝てないというのに早起きしてしまった為、予定の待ち合わせ時刻よりも1時間早く来てしまった。

 そんなこんなで1時間待っていると、愛華が綺麗な私服に身を纏いながら、俺を見つけた様で笑顔を浮かべながらこちらに近づいて来た。(何だよそれ可愛いな!?)


「あれ、恭弥くん早いわね……そ、そんなに私とのカラオケが楽しみだったの…って!?何その顔色!?大丈夫なの?」


 目を見開き心配そうに俺の顔を覗き込んでくる愛華に少しドキッとしながらも、そんなに自身の顔色は酷いのかと、手鏡で確認した結果……そこには幽霊の様に顔を青白くした俺が写っていた(それでも、やっぱり顔はカッコいいな!このヤロー!)


「あ、あぁ…… 愛華とのカラオケデートが楽しみすぎて昨日は眠れなかったんだ」


「ふ、ふーん!!私とのデートがそんなに楽しみだったの〜!って、めっちゃ声もガラガラじゃない!?本当に大丈夫なの?病院行った方が…?」


「く、くそぉ〜」


 これ以上誤魔化しきれないと悟った為、愛華に素直に自分の歌に自信がなかったから、昨日死ぬ気で練習したらこうなったと白状した。


「ぷぷっ!あはははははっっ!!」


 今現在、場所を移してカラオケ前。愛華に笑われています。恥ずかしい……恥ずかしすぎて死ぬ。


「そ、そんなに笑うんじゃねぇよ!!」


「だって〜……ぷぷっ!」


 あー、死にたい。今即墓場に入れるチケットとかあったら、どんな額でもすぐに購入しちゃうぐらい恥ずかしすぎて死にたい気分。


「はぁ〜、いっぱい笑っちゃった……けど私的には恭弥くんの新しい一面が知れて嬉しいなぁ♪」


「もう良いよ!どうせ俺は歌が下手な男なんだ!こんな男より別の奴と行けばいい」


「そんなに拗ねないでよ、笑っちゃったのは申し訳ないと思うけれど……そ、それに私だって今日が楽しみすぎて眠れなかった訳だし///」


 あーもう、何で愛華さんは毎回そんな魅力的な表情を浮かべるんですかね〜!……そんな顔されちゃ、俺はもう拗ねてる場合じゃなくなってしまうじゃないですか〜!!

 俺は立ち上がり愛華の手を握りながらカラオケの店内へ入る。手を握る瞬間、愛華が「あ…」と声を漏らしたが、そこには触れないでおく。

 店員さんの前まで来たところで俺は口を開く。


「高校生2名でお願いします」


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久しぶりの投稿です。忘れてるとこもあるかもしれないので、ミスなどあれば指摘して貰えると嬉しいです。

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