第80話 人ガチャ
アルバイトをしていないオレにとって20,000円はかなりの高額だ。それがあっという間にゲームの世界に溶けていく。ユージがガチャのたびにこんな経験をしていると思うとゾッとした。
ユージが推しキャラの水着姿のガチャを回し、最後の最後まで出なかった話を思い出した。今、オレの目の前でまったく同じことが起こったのだ。ガチャを回せど回せど、目当てのキャラクターだけが排出されない。
20,000円分のスフィアを使っても出なかったらどうしようかと考えていたら、最後の最後でようやくお目当ての「クロエ・シャノル」が姿を現した。
常設のSSランクに追加されたキャラクターゆえに、特別優秀な性能をもっているわけではない。ただ、オレの場合、ゲームを突き詰めていくと最後に行きつくのは「好きなキャラクターでゲームをしたい」だった。
なんの因果か、オレのSNSの動画投稿をきっかけにクロエはプレイアブル化を果たした。――となれば、オレにこのキャラクターを使わない、選択肢はない。
常設キャラは簡単にはなくならないので、今後の期間限定ガチャを回していけば、どこかで副産物として手に入る可能性が高い。それでも目の前にあるのなら少しでも早く手に入れて自分で操作してみたいと思った。
これがゲームキャラクターの「推し」に対する感情なのだろうか。
自らに課した「無課金」の理を破り、オレはクロエを手に入れた。これまで不思議な人との縁も含めてずいぶんと遊ばせてもらったゲームアプリだ。
オレにとって、それなりの額を一気に注ぎ込んでしまったが、まったく悔いはなかった。
アキやユージとよく「ゲームの中に誰かいる!」みたいな話をしていた。まるでこちらの意思を読んでいるかのように、出てほしいキャラだけが出なかったりするからだ。
そんなオカルトを信じるかは別として、仮にゲームの中に人がいるのなら、オレというプレイヤーの相手はずいぶん疲れたことだろう。ゲームプレイヤーの抽選、という「人ガチャ」があるならオレは大外れに違いない。
今回のガチャでオレはつくづく実感した。きっと、ほとんどの人がこうしてソーシャルゲームの課金沼にはまっていくのだろう、と。
さて、オレは1回目の課金をしてしまったわけだが、この先「無理のない課金」を続けていけるのだろうか。
スマホの画面ではコンシェルジュのクロエがにこにこと笑っていた。
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