第10章 年明けと予想外

第68話 対抗意識

「ステラさんに! 勝つぞーっ!!」


「「「「おーっ!!」」」」



「プレイアブル化! するぞーっ!!」


「「「「おーっ!!」」」」



 クロエシリーズが働くプレイヤー監視用のモニタールームにいつもとは違う空気が漂っていた。

 ノワール・グリモワール内で、プレイアブル化投票のイベントが開始されたからだ。無数のクロエシリーズが声を合わせて、「打倒! ステラ」を掲げている。


 前回はゲーム内で初のイベントであり、投票結果を誰も予測できないでいた。しかし、今回はステラとクロエに投票が集中するであろう予測が立っている。


 過去の結果を鑑みるならステラが1位となる可能性が極めて高い。だが、まったく別のキャラクターならいざ知らず、同じコンシェルジュであり、同じシステム世界に生きる彼女たちにとってこれは競争心を掻き立てられないではいられない事態だった。



 多くのクロエシリーズが鼻息を荒くしながらプレイヤーの投票画面を見つめている。その状況をやや冷ややかな目で見ているのはクロエ1822号だった。


「私たちがいくら対抗意識燃やしても投票はどうしようもないでしょう?」


「なに言ってるの1822号? プレイアブル化したら私たちが『クロエ』をガチャで出せるようになるのよ!」

「お祭り感ですよ! せっかくのイベントです! 私たちも一緒に楽しまないと勿体ないじゃないですか!」

「1822号! その冷めた見方がプレイヤーの意識にも影響するんだぞ! もっと温度を上げていかないと!」

「ジェイドやウィリアムなんて相手になりません! やはりコンシェルジュのトップは私たちかステラさん……、いや、私たちなんです!」



 クロエ1822号の独り言に近い疑問の言葉、これに対して怒涛の勢いで反論が返ってくる。さすがの彼女もこれには気圧されてしまうのだった。


「……でも、前回の結果はステラさんにけっこう差をつけられていなかった?」


「前回の差なんて当てになりませんよ!」

「プレイヤー数は比較にならないほど増えているんです! 逆転できますよ!」

「前回の1位に回った票がどこに流れるかですよ! いいえ、絶対クロエに流れます!」

「ステラちゃんは嫌いじゃありませんが、プレイヤーへの人気なら絶対クロエです!」



 1の問いに無数のクロエから言葉が返ってくる。クロエ1822号は、もうなにも言うまいと黙り込んでしまった。


『私たちが騒いでどうするのよ、――っと言ってもきっとステラさんの現場も同じ空気なんだろうな……』


 彼女は他のクロエに聞こえないように小さくため息をつくのだった。

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