第23話 王都
ウェルス王国の王都ウェルス。
その王城、玉座の間にて。
虚な目をした荘厳な衣服を身に付けた男と、木人、そして長い黒髪の男がいた。
「相打ちなら最高、どっちかだけでも死んでくれれば万々歳だったんだけど、最悪だよ」
長い黒髪の男がニコニコと笑顔を浮かべて言う。
「一つの
大仰な身振り手振りを交えて語るのは木人。
「いいよね他人事で」
「この世界枝がどうなろうと知った事ではありませんので」
「あっそ、邪魔しないならいいけど」
淡白に言う黒髪の男。
その瞳に怪しい光が宿った。
しかし、その光は誰も照らすことがなかった。
「もう少しで、僕らを蔑んだゴミ共を有効活用できるんだから」
「王都って随分悪趣味なのね」
メイネが
王都中に人と何かの生物を掛け合わせた姿のアンデットたちが蠢いていた。
比率を間違えてしまったかのように顔のパーツや手足が歪な骸の数々。
「隠れる気もないんだ。あいつもぐるって可能性は……たぶんないか」
メイネはウェルス王家が敵であると確信している。
であれば王国騎士団に所属しているイルティアも敵の仲間かと考えたが、その考えは捨てた。
「あの正義ウーマンがこんなの許す訳ないし。ならカノンで騒ぎを起こしたのはあいつを王都から遠ざける為?」
メイネは仮説を立ててみる。
「あいつと会ったらめんどくさくなりそうだし、さっさと終わらせよっか!」
メイネの後方から、巨大な塊が王都へ向かって進んでいた。
それが無数のアンデットからなる大軍勢だと、誰が想像できようか。
様々な種族の武装したゾンビとスケルトン。
腐肉と骨の行進。
身に付ける装備も、
不自然な程に統率の取れたそれらが、王都ウェルスを蹂躙していく。
さながら阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「
一歩を踏み出すだけで地を揺るがす巨大な地上の支配者が君臨する。
メイネはその背に飛び乗った。
「まず、教皇から聞き出そっか」
十字架を掲げる真っ白な建物目掛けて
アンデットは教会の内部をも埋め尽くしていた。
人と何かが混ざった異形がだらりと肩を下げて動き回る。
しかし教会の天井が破壊され、それを為した
瓦礫が降り注ぎ、更にアンデットは数を減らす。
「
その時、嗄れた声と共に地面に魔法陣が現れた。
光が掻き消えると、そこには倒れた
「せめてドアから入って来て欲しいものですね」
「どんまい」
メイネに苦言を呈する修道服の男。
「お前が教皇?」
「ええ、そうですよ」
「アンデットを作ってるのもお前?」
「違います」
「じゃあ誰?」
「答える前にこちらからも一ついいですか?」
「だめ」
「これは手厳しい」
教皇は孫でも見るかの様に朗らかに笑う。
「貴女は、他にも世界があることを知っていますか?」
教皇が問う。
しかしメイネは答えない。
先程、教皇の質問には答える気がないと言ったのだから。
「この世界はどうやら滅びに向かっている様です。ホロウの規模が拡大し、やがてプテラによってこの世界そのものが消滅させられるのだとか」
教皇は続ける。
「しかし、世界を渡る方法があるそうです。そこで私たちは他世界への移住、そして侵略という選択をとりました」
「ふーん、勝手にしたら?」
メイネは興味なさそうだ。
「つれないですね。貴女もどうですか? 返答によっては先の質問に答えて差し上げてもいいですよ」
「手伝ってもいいよ」
「心にも無いことを」
「じゃあ聞かないで」
「失敬」
薄っぺらい言葉が交わされる。
「話す気ないなら死んで」
「随分と強気ですね、わかったでしょう? 貴女の自慢のアンデットは私の前では無力なのですよ?」
教皇は自身の優位を信じて疑わない。
「
メイネは取り合わずに魔術を使う。
紫黒色の魔導書が青い炎を纏う。
そして青く燃え上がった
「無駄なことを。
教皇は鼻で笑う。
だが、
「なっ!?」
浄化の光を物ともしない、青く燃えるアンデットに息を詰まらせる。
「そういう反応、もう見た」
退屈そうなメイネ。
教皇の前に出た複数のアンデットが
老体とは思えぬ大きな悲鳴が上がる。
「どうせお前より偉い奴って王様くらいでしょ」
冷たい瞳を一瞬だけ教皇に向けたが、メイネはその最後も見届けずに歩き出した。
「何よ、これ……!?」
アニカが馬上で息を呑む。
「騎士団は何をやっている!?」
隣では、イルティアが叫んでいた。
異形のアンデットと武装したアンデット。
更に空には複数のホロウが現れ、空間の裂け目からプテラたちが降り注ぎ、三つの勢力が暴れている。
王都中で火が上がり、その光景は都と呼ぶにはあまりにも凄惨に過ぎた。
「殲滅したいところだが……」
「こんなの全部相手にしてたら、キリがないじゃない!」
「……そうだな、王城に行けばこの状況について何か分かるかもしれない」
「賛成、最短ルートで行くわよ!」
「ああ!」
アニカの魔力収束砲が直線上の一切合切を滅し、王城まで一気に駆ける。
襲いかかって来るものは、それがアンデットであれプテラであれ、イルティアによって一刀のもとに斬り伏される。
揺らめく炎が剣筋の軌跡をなぞり、敵を灼き尽くす。
巨大なプテラまでもが、たったの一振りで両断された。
アニカはアンデットを籠手の衝撃波で吹き飛ばし、プテラには魔力収束砲を放った。
靴のレバーを引き上げ、魔力を噴出して加速する。
「変わった魔導具を持っているんだな」
見様見真似で炎を噴出し、隣に並んだイルティア。
「何で見ただけで出来るのよ!?」
アニカの並外れた運動神経でも、制御に慣れるのには一ヶ月近くかかった。
それを瞬時にやってのけるイルティアに不満を漏らす。
「アニカ嬢も出来ているではないか」
純粋に言うイルティア。
アニカがジトっと目を向ける。
意図していないのだろうが嫌味にしか聞こえない。
「練習したもの」
「立派だな」
「はいはい」
アニカが、イルティアの賞賛をさらっと受け流して王城を見据える。
(ロトナ、今行くから!)
赤と銀の少女が地獄を裂いて駆け抜けた。
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