特別な2人組 12
渡會さん、武藤さん、戸部さんの中では戸部さんとよく組んでいたという話に少し反応が遅れて、「身長が近いから?」と聞き返した。
「私は渡會さんと戸部さんの間くらいの背の高さでしょうか」
まだ椅子取りゲームの輪の中にいる渡會さんと武藤さん、そして教室の壁にもたれかかっている戸部さんを見比べる。
「この4人だったら、星野さんと渡會さん、戸部さんと武藤さんで組んだほうがよくない?」
論点が違うのはわかっているが、小声でささやくと、星野さんは目配せをしてこう言った。
「私が望むのは、授業の課題を乗り切るためだけの一時的な関係です。友情を壊したくはありません。特定のグループにばかり頼るのではなく様々なグループの人に声をかけ、時には1人余って先生と組んだりお手本役を買って出たりもしました。
体育で体ほぐし運動をやったあの日は、まだ組んだことのないあなたたちのグループに目をつけました。
私も川島さんと組んだ理由は同じです。たまたまあなたが組もうと言ってくれたから」
いつの間にか音楽はやんでいて、目の前では瀬那を含めた15人が、残った10脚の椅子に座ろうと必死になっている。
「よくやるよね」と美羽音が私の隣に椅子を持ってきた。
「おつかれさま」
「アイカが音楽流さなくなったら負けたんだけど」
美羽音はほっぺを膨らませた。
「ウソ! ごめん」
「星野さんとしゃべってるからやる気なくした」
「――本当にごめん」
「今のは冗談。悪かったよ。ほら、見てみ、女子たちみんなゲームそっちのけでおしゃべりしてるし。てか真面目にやってんの女子だと瀬那と田代さんくらいでしょ。
それより、2人ともだいぶ話し込んでたけど、どうしたの?」
「戸部さんがいません」
星野さんが急に割り込んで話しかけてきたのと、その内容に、椅子から飛び退きそうなくらい驚く。
「本当?」
「本当だ、いない」
美羽音の言うとおり、輪の外をぐるりと見回してみても、戸部さんの姿が見当たらない。渡會さんは男子にからまれているし、武藤さんは田代さんに2回戦で使う曲のプレイリストを相談されている。
「2回戦やるの!?」
聞こえてきた会話に思わず大きな声を出してしまった私のせいで、全員がこちらを向く。ゲーム中の人までこっちを見て止まってしまったので、音楽鳴ってるよー、と周囲がはやし立てて態勢を整えていた。
「もう、川島さん」
田代さんが近づいてきて、「2回戦はがんばってね、星野さん何してんの」と手を振ってくる。星野さんは、扉の窓から廊下を見ていた。時間を確認すると、確かにもう1回ならできそうだ。
うん、がんばる、と田代さんから離れると、私も廊下を覗きに行く。
「戸部さんいた?」
「いえ」
星野さんは、心配そうな顔をして、私を見た。
「
さっきまで田代さんと一緒にいたはずの武藤さんが、私の目の前に現れた。私をギラギラした目で見上げる。戸部さんの下の名前が理佐子だったはずなので、そうだけど、と答えると、切羽詰まっているようで目の前の戸を乱暴に開け、私たちの間をすり抜けて教室から出て行ってしまった。別の扉からは、渡會さんが男子たちを払いのけて教室から出て行く。武藤さんの異変に気づいたらしい。
「ごめん、トイレ!」とひどい宣言をして、星野さんを連れてそのまま教室から出た。美羽音が音源のスマホを奪い取っていたのが見えたので、少しの間なら時間稼ぎしてくれそうだ。
本当にトイレなら問題ない。でも、渡會さんと武藤さんの2人の様子からは、そんな悠長なことを言っていられない気がした。
2回戦が始まれば、戸部さんがいないことが明るみになって大騒ぎになってしまう。それまでに連れ戻さなくては。
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