磁覚眼鏡

 彼は方向感覚に恵まれなかった。玄関を出たとたん迷子になるほどだった。気安く外出できず、引きこもりがちだった。

 そんな彼が手に入れたのは、磁気感覚を利用する『磁覚眼鏡』だった。眼鏡をかけると、どの道をゆけば目的地へ辿り着けるのか、直感的にわかるようになった。彼の人生に新たな自信が生まれた。彼は外出を楽しむようになった。ドライブが趣味となった。日々、磁覚眼鏡を頼りに街を巡った。日本中をドライブした。

 ある日磁覚眼鏡が故障した。修理に出すため家を出ようとした。玄関へ辿り着けなかった。

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