魚屋

 伸子と母が鮮魚市場へ買い物に訪れた。魚屋の男が威勢よく声を張り上げていた。

「はーい、いらっぽいいらっぽい! 安いよ安いよー! 今日は水揚げされたばかりの真鯛がおすすめだよー! ベロが気持ちいいよー!」

 夜、食卓で伸子は母にいった。

「今日の魚屋さん、変な人だったね」 

 母は黙っていた。

「いらっしゃいのこと、いらっぽいとかいったり、ベロが気持ちいいとかいったり」

 母は黙っていた。

「ねえ、お母さん、聞いてる? ベロが気持ちいいって、どういう意味かしら? 変な人だわ」

「伸子」母はいった。「あの魚屋お父さんかも」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る