第85話街の中の出会い

「この辺りは結構、一つ一つの建物が大きいんだな」


 神樹の近隣地区に入ってまず思った感想がそれだ。

 外周部は家々や商店が立ち並び賑やかな印象だったが、神樹に近くなるにつれて賑やかさは減って、落ち着いた雰囲気の建物が多くなっているように感じられた。

 

「そうね。神樹の近隣地区は、神樹の研究者や魔法科学ギルドの関係者とかの複合住宅や、古くから神樹に目を付けて居を構えている人が多いわね。あとは神樹の魔力的加護が強く出るから、それを求めたお金持ち達も少しは住んでいるかしら」

「なるほどなあ。……でも、家の中にすら人の気配が少ない地区っぽいけど、これは普通なのか?」

「いや、普段も静かだけど、ここまでしんとしてないわ。もっと和やかな雰囲気が漂っているのだけれど、そんな感じは全くしないわね……」


 周囲から生活音があまり聞こえない。後ろを歩くバーゼリア達にも目をやるが、


「ボクの耳でもほとんど聞こえないよー。この辺りを出歩いている人は、いないみたい」

「ハイドラに同じく。こういう静けさは嫌いではありませんが、異様ではありますね」


 彼女たちも人の気配を感じ取っていないらしい。


 ……セシルやジョージも困惑するほどの状態らしいし、どうなっているんだろうな。


 そんなことを思いながら、俺は再び神樹に向かって歩き出そうとした。

 その時だ。

 

「――チカヅクナ……!!」

 

 自分たちの前方。

 通りに繋がっている路地の陰から、そんな声が響いた。更には、


「これより先は、ツウコウドメだ……!!」


 ガシャンガシャン、と音を立てて、路地から鉄色の金属で出来たような四足獣が現れた。

  

「――ッ!? あれは、商人さんが言っていた、金属系の魔獣かしら? ……もしくは何かのゴーレム?」

「なんかやべえ魔力を感じるぜ……!」


 セシルとジョージの二人はそれを見て、咄嗟に武器を構え始める。

 確かに、鉄の四足獣の周囲には、濃密な魔力がまとわり付いているようで、鉄の槍のようなものがぷかぷか浮いていた。

 二人が警戒するのも無理はない。ただ、


「あれは……」

  

 俺からすると、その鉄の獣は警戒するようなものには見えなかった。そして、それは向こうも同じようで、

 

「あ……? その声と顔は、もしかして……!」


 言葉と共に、鉄の獣は周囲に浮かばしていた鉄の槍を地面に落とし、近づいて来た。

 それに合わせて、俺も近づく。


「え、ちょ、アクセルさん!? 危ないわ……」

「いや、多分、こいつは大丈夫だ」


 言いながら、お互いにじっと顔を見ること、数秒。 

 

「うん! やっぱりそうだ!」


 鉄の獣から――正確には、鉄の鎧の中から、そんな明るい声が発せられた。

 その声を発端として、鉄の鎧はガシャガシャと地面に落ちていき、中身が現れる。そして、

 

「親友! 俺の親友の、アクセルじゃないか――!!」


 鉄の鎧の様なモノから跳ねるように飛び出して、こちらの肩に抱き着いて来たのは。

 

「ああ、そうだよな。その鎧は君の外装だよな、錬成の勇者、デイジー」

 

 狐を二回りほど小さくした体躯を持ち、胸に宝石を輝かせた黄色い四足獣(カーバンクル)――錬成の勇者、そのヒトだったのだ。

――――――――――

【作者からのお知らせ】

先日より、新作の投稿を始めました。

タイトルは「昔滅びた魔王城で拾った犬は、実は伝説の魔獣でした~隠れ最強職 《羊飼い》な貴族の三男坊、いずれ、百魔獣の王となる~」

URL↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330661996668831

面白いので、是非こちらもお読み頂ければ嬉しいです。

――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る